篠塚和典と元木大介が対談で語った、巨人・阿部慎之助監督の指導者像と野手陣のポジション争い
読売ジャイアンツOB
篠塚和典×元木大介 スペシャル対談・前編
ここ2シーズン連続でBクラスに沈んだ巨人は、原辰徳前監督からバトンを引き継いだ阿部慎之助新監督のもと、チーム再建と4年ぶりのリーグ優勝を目指している。そんな巨人の現状について、球団OBはどう見ているのか。
他球団の選手からも"芸術的"と称されたバットコントロールと守備で巨人の主力として活躍し、引退後は巨人のコーチを歴任した篠塚和典氏と、現役時代は長嶋茂雄氏から"くせ者"と呼ばれ活躍し、2019年〜2023年まで巨人のコーチを務めた元木大介氏に語り合ってもらった。対談の前編のテーマは、阿部新監督の印象と、若手・ベテランで期待の選手について。
対談で今季の巨人について語った篠塚氏(左)と元木氏 photo by 村上庄吾
――篠塚さんは阿部監督が現役時代にコーチを務め、一方の元木さんは阿部監督と現役時代を共に過ごし、近年はコーチ同士の関係でもありました。阿部監督に対する印象をそれぞれお聞かせください。
篠塚和典(以下:篠塚) 慎之助がドラフト1位で巨人に入団した時はミスター(長嶋茂雄氏)が監督でしたが、ミスターには「慎之助を(村田真一のあとの)正捕手として育てなければいけない」という考えがあったんです。本人も周囲の期待を十分に理解していたと思います。
ミスターや僕らコーチ陣は「しっかり守れるか」「リード面はどうか」と気にかけていたのですが、彼はまずバッティングでアピールしましたよね。あれよ、あれよと、僕らの予想している以上に打ち始めた。ミスターもあそこまで打つとは期待していなかったと思います。そういう意味では、"打てるキャッチャー"を確立してきた選手。守備も年々成長していきましたし、慎之助に続くキャッチャーは大変だろうな、と心配してしまうぐらいでした。
元木大介(以下:元木) 慎之助はルーキーイヤー(2001年)から開幕スタメンで起用されていたので、それまで正捕手だった村田さんの心境はどうなんだろうな、と思っていました。ルーキーに開幕スタメンを譲る形となって、「つらいだろうな......」と。逆に慎之助のほうは「僕でいいんですか?」という感じだったと思いますし、プレッシャーがあって大変だったはず。ふたりの、そういう雰囲気はすごく覚えています。
ただ、慎之助はルーキーの時から自分の野球スタイルを持っている選手でしたし、体も強かった。それと、先ほどシノさん(篠塚の愛称)が言われたように、バッティングがよくて目立っていました。いきなりタイムリーも打ったりしていましたし、「すごいな」と思いましたよ。
――今季は指揮官として、1年目から結果が求められるでしょうか。
篠塚 巨人は"勝たなければいけないチーム"ですが、慎之助はこれから3年ぐらいかけてチームを作り上げていくと思うんです。それぐらい経てば、今いる若い選手たちが確固たるレギュラーとなり、しっかり戦っていけるはず。門脇誠や秋広優人、ルーキーの佐々木俊輔などいい人材が揃い始めていますし、今季は3年後に向けて着々と準備を進めていくシーズンになるのではないでしょうか。
そのためには、選手が期待に応えて成長していってくれないといけない。期待外れに終わってしまうと、チーム作りが苦しくなってしまいます。吉川尚輝あたりは少し慣れてきた感じですが、まだまだ信頼度は足りません。V9のメンバーが少なくなっていった1979年も、伊東キャンプに参加した僕らがゼロからチームを作っていった時期がありましたが、チーム状況は当時に似ている感じがします。まずは期待されている若い選手たちがある程度いい成績を残し、自信を持って来季を迎えることが大事だと思います。
3年と言いましたが、今年からサードで勝負する坂本勇人が、39歳になる3年後にどうなっているかは読めません。レギュラーとしては難しいとなれば、おそらく岡本和真がサード、秋広がファーストという形になるでしょう。数年後にそうなることを見越したうえで、今年のコンバートがあるような気がしますね。試合に勝ちながら、若い選手にポジションを任せて育てていくことも責任。監督業は大変だと思いますが、若い選手が多いので楽しみも多いですね。
――阿部監督は選手との対話を重視されていますね。
篠塚 選手はコミュニケーションを取りやすいんじゃないかな。
元木 現役で一緒にやっていた選手も何人かいますし、年齢が近いので話しやすいんじゃないですかね。現役時代の慎之助はすごい選手だったので、若い選手は遠慮して話しづらかったかもしれませんが、監督になった今は自分から選手に歩み寄ろうとしています。いろいろな選手とコミュニケーションを取るのは今の時代に合っていますし、"選手に近い監督"はいいと思います。
篠塚 監督と選手という関係になれば、監督から話しかけることが多くなるはず。選手たちは話しやすくなるだろうね。
【期待の若手と、重要な「ベテランの扱い」】――今季の野手陣についてはいかがですか?
篠塚 いろいろな選手を試していますが、誰を使うかはだいたい決めているはすです。それはピッチャー陣もそうでしょう。なので、そういった選手たちが成績を残していってくれないといけません。
門脇にショートを任せる方針ですが、打たないとレギュラーにはなれません。彼の場合は守備がしっかりしているので、「バッティングは少し我慢しよう」という考えもあるかもしれないですけどね。何番を任せるのかもはっきりしていないのでしょうが、任された打順でそれなりの成績を残さないといけない。
元木 ただ、門脇は体が丈夫ですよね。高校1年から大学4年まで公式戦にフルイニング出場した、と聞いて「プロではどうかな」と思っていたのですが、評判どおりに体は強かった。それと、1年目から専属のトレーナーをつけていましたし、(昨年12月に)寮を出たあとはすぐに専属の調理師をつけた。プロ意識が高いですよ。
シノさんや僕らの時代にはあり得ないことです。すべて野球を中心に考えて取り組んでいる選手なので、僕は心配していません。ただ、シノさんが言うように打つほうで結果を残せるかですね。和真、尚輝、門脇、勇人の内野陣で守備は大丈夫だと思いますが、昨季の尚輝はバッティングの状態が悪くて外されたりしていたので。
たとえば、尚輝と門脇がバッティングの状態がよくないとして、ふたりとも我慢して使うとなると、打線としてかなりきついと思うんです。1、2番を打つような選手たちなので、我慢して使うとなるとチームが回らない。せめて、どちらかひとりでも安定してもらわないと。
――内野の布陣が固まっている印象がある一方で、外野陣は激しい競争が続いています。
篠塚 松原聖弥の状態が去年よりはいいですし、秋広、オコエ瑠偉、萩尾匡也、ルーキーの佐々木、浅野翔吾、新外国人の(ルーグネッド・)オドーアもいますね。固定するまではちょっと時間がかかるかもしれませんが、それほど心配ないんじゃないですか。オドーアは未知数な部分が多いですが、印象としてはレベルスイングをする感じ。大振りするタイプではなく、コンタクトがよさそうです。
元木 丸佳浩もいますからね。彼は昨季に数字を落としましたが、動けなくなったわけではありません。若い選手たちが打てばいいのですが、打てなかったらベテランの丸たちの力がやっぱり必要になってくると思いますね。内野陣にも言えることなのですが、監督がベテランをうまく扱わないと、チームがバラバラになっていく可能性があります。
「若い選手が出てきたから」とベテランをパッと突き放すのではなく、コミュニケーションを取りながらフォローしていくべきです。「勝負の世界だから仕方がない」という考え方もあるでしょうが、若い選手はベテランを見ているので。ベテランが気持ちよくベンチにいないと、チームがうまく回らないんじゃないかと思います。
篠塚 長野久義や梶谷隆幸もいるしね。
元木 そうですね。小林誠司もそうですが、一軍で使わないなら、言葉は悪いですがほかのチームに出してあげたほうがいいんじゃないかと思います。「打てない」と言われますが、彼が昨季打席に立ったのは20打席もないはず(2023年は9打席)。それで結果を出すのはしんどいですよ。キャッチャーは守りが大事ですが、困った時に誠司がいれば守れます。なので、そういったベテランは大事にしていかないといけないんです。
外野陣の争いの話に戻りますが、今は「誰がレギュラーなんだ?」と聞かれたら難しいですよね。みんなが同じようなレベルで、ずば抜けている選手がいないので。だから、2年目の萩尾にもチャンスはあるんです。あの守備、肩があればそこそこできます。外野手で本当に肩が強く、ホームで刺せる選手は本当に少ない。そう考えると、状況判断やポジショニングなどが、外野手として重要になると思います。
――丸選手の復活も待たれますね。
元木 当然、スタメンで出なきゃいけない選手です。野球を辞めようと思うのは簡単ですが、そう思い始めたら本当に終わってしまう。自分の体をもう一度いじめられるか、今季は「勝負の年」だと思います。仮に代打専門の役割になれば、それにも慣れていかなければいけない年齢(34歳)にもなっています。1年でも長くユニフォームを着ることを考えれば、何かしら変えていかなければいけません。
ちなみにシノさんは、ルーキーの佐々木のバッティングはどう見ていますか? ここまでは、いい結果を残してきていますが。
篠塚 積極的に振っていくのがいいね。でも、見送り三振が目につく。秋広などもそうだし、みんなが見送り三振をしていて変な連鎖をしているのかもしれないけど。それと、オープン戦の最初の頃はいいピッチャーと対戦していないから、今後に先発3番手くらいのピッチャーからも打てるかどうかだね。その時にやられちゃうと、パニックになる可能性もある。同じルーキーの泉口友汰もそうだし、若い選手はまず、そこをうまく乗りきっていくことが大事かな。
元木 そこそこのピッチャーが出てくると、名前で負けちゃいますからね。
篠塚 そういうピッチャーと対戦した時に「打てそうだな」と感じられるかどうかだね。
(中編:巨人の投手陣を分析 菅野智之、大勢の状態は? ドラ1ルーキーの課題、クローザーの人選も語った>>)
【プロフィール】
◆篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日、東京都豊島区生まれ、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年に現役を引退して以降は、巨人で1995年〜2003年、2006年〜2010年と一軍打撃コーチ、一軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。
◆元木大介(もとき・だいすけ)
1971年12月30日、大阪府生まれ。大阪・上宮高校で通算24本塁打を放ち、1年のハワイ留学を経て、1990年に巨人からドラフト1位で指名され入団。ユーティリティープレーヤーとして活躍し、当時の長嶋茂雄監督からは「くせ者」と呼ばれた。2005年に引退後は、野球解説者を務める傍ら、タレントとしても活躍。2018年にU12世界少年野球大会における日本代表監督に就任し、チームは優勝した。2019年から2023年まで、巨人の一軍内野守備兼打撃コーチ、一軍ヘッド兼オフェンスチーフコーチ、一軍作戦兼内野守備コーチを歴任した。