大阪桐蔭・平嶋桂知が1学年下の怪物右腕に刺激 「これぞエースの投球」でドラフト候補に急上昇
甲子園球場にけたたましいサイレン音が鳴り響くなか、大阪桐蔭の背番号1・平嶋桂知(ひらしま・かいち)の投じたストレートは、うなりをあげて増田湧太のミットに突き刺さった。その直後、バックスクリーンに「148km/h」の球速表示が出ると、スタンドからはどよめきが起きた。
6回にはこの日最速となる149キロをマーク。これは、今大会でここまで最速のスピードだ。平嶋はこの1球だけでなく、140キロ台後半をコンスタントに計測したように、平均球速はこれまで登場した投手のなかで群を抜いていた。
今大会は気温が低く、選手にとっては本来のパフォーマンスを発揮するには酷なコンディションが続いた。だが、平嶋のエンジンは最初からフルスロットルだった。
初戦の北海戦で149キロをマークした大阪桐蔭の平嶋桂知 photo by Ohtomo Yoshiyuki
3月22日、北海(北海道)とのセンバツ初戦は、7対1で大阪桐蔭が快勝。7回1失点(自責点0)の快投で、試合後にお立ち台に上がった平嶋はこんなコメントを残している。
「プレーボールのサイレンが鳴った時に、『ここで投げるためにやってきたんだな......』という感じがしました」
ほんの数カ月前、秋季近畿大会や明治神宮大会で見た平嶋とは別人のようだった。「最速154キロ右腕」の触れ込みながら、当時の平嶋の本質は「変化球投手」。ストレートの球速はよくて140キロ台中盤で、ホームベース付近で失速する球質。いわゆる「垂れるストレート」で脅威を感じなかった。
対照的に、近畿大会1回戦・高田商(奈良)戦で平嶋が降板したあと、たった1イニングだけ投げた1年生投手(当時)は衝撃的だった。森陽樹(はるき)である。
1年生ながら最速151キロを計測する数字は、さほど大きな意味を持たない。189センチの高身長をスムーズに操り、強烈なリリースで弾かれたストレートは捕手に向かってぐんぐん加速していく。今年も大阪桐蔭には投手の好素材がひしめいているが、森のボールは「格が違う」と思わせる球質だった。
試合後、平嶋に森のボールがどう見えたかと尋ねると、「ピストルの弾丸みたいなボールです」と表現した。
1学年下に怪物クラスの大物がいれば、内心穏やかではいられなかったはずだ。それでも、平嶋は自分の可能性を信じて努力を重ねてきた。
「秋は自分が情けないピッチングをしてしまって、森が出てきたと思うので。自分がもう1回、背番号1番をつけて、絶対的なエースとして戦う。自分が一番なんだという思いを持って、この冬はやってきました」
とくに課題にしていたのは、投球フォームの修正だ。昨秋までの平嶋は、「いい球を投げよう」と思えば思うほど、上体に力が入る悪癖があった。下半身を使って、8割程度の力感で投げる練習を繰り返し、ある投法にたどり着く。
センバツのマウンドに立った平嶋は、グラブを右腰のあたりにセットする変則的なセットポジションで始動していた。試合後の囲み取材でその点を指摘されると、平嶋はフォーム変更の意図をこのように語った。
「右足の地面の押し込みを意識したかったので、グラブが後ろにあるほうが感覚をつかみやすかったんです」
右足でマウンドを押し込む反動で「立ちやすくなった」と平嶋は語る。今まで以上にエネルギーを得られた結果、平嶋のストレートは段違いに球威を増していた。
「真っすぐはスピードも出ていましたし、自分のなかで強さも感じられたのでよかったです」
2年生ながら正捕手を務める増田も、平嶋の球威が増したことを認めている。
「単純にボールが速くなりましたね。そのうえで、真っすぐがスライドしたりシュートしたりすることがなくなりました。指のかかりがよくなっています」
【平嶋と森はまったく別物】平嶋の最速154キロという数字は昨年6月の練習試合で計測したものだという。だが、増田は「今のほうがボールは速く感じます」と証言する。そして増田は、平嶋の投球スタイルが変わったことを強調する。
「秋は変化球でかわすピッチングだったのが、この春になって向かっていくピッチングになって、その姿勢がボールにもこもっていると感じます」
ストレートの球威が増したことで、130キロ台で鋭く変化するカットボールや、シュートしながら高速で落ちるツーシームなどの変化球も効力を増した。ここまでの実力を発揮できれば、もはや立派なドラフト候補だ。
北海戦で平嶋が7回を投げきったあと、大阪桐蔭は背番号10の南陽人(はると)、背番号11の中野大虎(だいと/2年)と継投して試合を締めくくった。
背番号14をつけた森はブルペンで投球練習をするに留まったが、本人に状態を尋ねると「全然問題ないです。早く投げたいですね」と不敵に笑った。今冬は体の土台づくりのため、走り込みを中心に下半身強化に努めてきたという。森がベールを脱いだその時、甲子園に衝撃が走る予感がする。
捕手の増田は、平嶋と森を「まったくの別物」ととらえているという。
「同じ150キロを超えるピッチャーでも球質も投球スタイルもまったく異なっていて、森は縦回転でキューッと伸びのあるボール。平嶋さんは勢いがあって、スピード感があるボールです」
タイプ的には、平嶋は本来なら短いイニングを勢いで押しきってしまったほうが、よさが生きるのかもしれない。そんな印象を伝えると、増田はうなずきながらこう答えた。
「もちろん、リリーフもいいんですけど、フォアボールで崩れたり大荒れしたりすることもないので、先発も十分にいけると思います」
平嶋桂知が絶対的な存在になり、ベンチには森陽樹という怪物が控える。大阪桐蔭が歴代最多タイとなる5回目のセンバツ制覇を成し遂げるための条件は、着々と整いつつある。