がん治療の進歩や生存率の向上などもあって、今やがんは「共存していく病」といえます(写真:mits/PIXTA)

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は2人に1人。「国民病」と言われながら、その特徴や治療法、社会保障について詳しく知らない人がほとんどです。知らないどころか大きな誤解も多々あります。そこで、抗がん剤治療のパイオニアで、腫瘍内科医として、日々、患者の生活の質を支える医療を実践している勝俣範之氏が、がんと共存する生き方について解説します。

『あなたと家族を守る がんと診断されたら最初に読む本』から一部抜粋・再構成してお届けします。

がんサバイバーは全国に500万人以上、がんは共存していく病気

日本人の2人に1人が一生のうちにがんに罹患し、5人に1人ががんで亡くなっています。

がんはそういう意味でも国民病と言われますが、情報が氾濫しすぎて正しい情報を得ることがかえって難しい時代です。

まず、ステージ4のことを「末期がん」と思い込んでいる人がいますがそれは大きな誤解です。

ステージ4とは、がんが遠隔転移している状態です。遠隔転移や、再発した場合は治療のための手術はできませんが、薬物療法の目覚ましい進化により、この20年間で5倍も長く生きられるようになっています。

最近では、がんを経験した人を「がんサバイバー」と呼びますが、そうした方々が全国に500万人以上いると言われています。がん治療の進歩や生存率の向上などもあって、今やがんは「共存していく病」です。

国としてもそうした方々を支える支援の施策をいろいろと打ち出していますから、がんとともに生きる人生は特別なものではなくなっているといえます。

だから、がんと診断されても、慌てたり、諦めたりしないでいただきたいと思います。

未だに誤解されているのが、医師から「がん」と確定診断されたときの「余命宣告」です。

医師が告げる余命は当たらない確率のほうが断然高いというエビデンスがあります。

国立がん研究センターで、進行したがん患者75名について医師が予測した余命が実際に的中したかどうかを調査した結果、予測確立は「一致」が33〜36%でした。つまり3分の1程度しか当たらないのです。

この程度の確率しかないのに余命宣告を行うことは大きな問題です。できれば医師による余命宣告は即刻やめてほしいと私は思っています。

同様に「5年生存率」も、過去の数字からのデータでしかなく、患者さん1人ひとりのがんの状態によってまったくわかりませんので、あくまでも目安として受け止めていただきたいと思います。

がんの要因の6割は、偶発的な要因による遺伝子の突然変異

がんの疑いから病院に来られて、確定診断に至るまでに、さまざまな検査が必要です。だいたい2週間から1か月はかかると思います。

それを経て主治医から告知を受けるのですが、その際に、いちばん多い質問は「なぜ、私はがんになったのでしょうか」というものです。

みなさんは、がんの原因は何がいちばん多いと思いますか。生活習慣が悪かったからとか、がん家系だからと思っていませんか。
それも誤解です。

がんができる最大の要因は「偶発的要因」、つまり偶然によるものです。

これが原因の6割を占めます。

偶然とは、簡単に言ってしまえば、遺伝子の異常、突然変異です。偶発的な何らかの原因によって遺伝子に異常が起こり、それが積み重なったりすることで、がんになる確率が高まります。この遺伝子の異常は加齢とともに蓄積されてくことが知られていますから、年齢を重ねるほど、偶然に、がんができてしまう確率が高くなっていきます。

さきほどの、「なぜ私はがんになったのでしょうか」という質問の奥底にあるのは、「自分が悪いことをしたから、がんになったのではないか」という自分を責める気持ちですね。

でも、タバコも吸わなければ、お酒も飲まない、食生活や運動も気をつけて、がん検診もマメに受けている、がんで亡くなった親族もいない、そういった方でもがんになる人はたくさんいます。がんは過去とはほとんど無関係なのです。

がんに罹患し、周囲から過去の生活習慣のせいだろうと偏見の目で見られているように感じて、がんになったことを隠す人も少なくありません。
しかし、そうではないのです。偶然が6割です。

野菜不足やストレスでがんになる人はほとんどいない

残るがんの原因の3割のうちで、大きなものは感染と喫煙です。

日本人のがんの原因の16.6%は感染が占めると推計されています。B型やC型の肝炎ウイルスによる肝がん、ヒトパピローマウイルス(HPV)による子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ菌による胃がんなどがその大半を占めます。

野菜不足をがんの原因に挙げる人がよくいますが、野菜を食べないからといって、それだけでがんになる人はほとんどいません。ストレスも、がんの原因になるという科学的根拠は一致した結果がなく、一部の研究のみ関連があるとしています。

喫煙は、要因の15.2%です。タバコが原因で起こるがんはとても多く、肺がん、食道がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、胃がんなどがあります。今からでも禁煙すれば肺がんのリスクは下がるとされています。お酒も要因の6.2%で、多量に飲むと、肝臓がんを引き起こすリスクになるといえます。

「がん家系」「遺伝」というのも誤解

また世間でよく言われる「がん家系」という遺伝についても誤解が多いです。

乳がんや卵巣がん、大腸がんの一部など、遺伝的要因で起こるがんは、あることはあるのですが、発生確率としてはとても少ないのが実情です。ですから、自分の親族にがんが多いからがん家系だとか、遺伝だとかは、一概に言えません。


高齢化するほどがんが増えていくので、なんとなく親族にがんが多いと感じてしまうのかもしれません。

私は「生活習慣病」という言葉をやめてほしいと思っています。もし、生活習慣について言うなら、「一部の生活習慣が原因となって発症する確率が高まるがんもある」というのが正しい表現です。

タバコ以外の要因で、過去の生活習慣やストレスでがんになったと、ご自分を責めるようなことだけはやめてほしいと思います。

がんになったのは、決してその方の生き方が悪かったからではないのです

(勝俣 範之 : 日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、部長、外来化学療法室室長)