花粉症の諸症状に効く漢方処方を、薬剤師が解説します(写真:ペイレスイメージズ1(モデル)/ PIXTA)

花粉症の人にとってはつらい季節がやってきました。

すでにひどい症状に苦しんでいる方も多いようです。今回は、漢方的にみた花粉症のタイプとタイプ別の漢方薬、花粉症の症状を軽くする方法をお伝えしたいと思います。

花粉症は昔はなかった?

そもそも、漢方の古典には「花粉症」という病名の記載はありません。今では国民病ともいえるほど一般化した花粉症ですが、比較的近年の疾患であることを若い年代の人は知らないかもしれません。

しかし、花粉症という病名の記載はなくても、花粉症の症状を表す記載は古典にも多くあります。例えば、鼻づまりを伴い、鼻水が出る「鼻鼽(びきゅう)」、水のような鼻水が滝のようにあふれ出る「鼻淵(びえん)」、黄色いドロドロした鼻水が出る「脳漏(のうろう)」などです。

目のかゆみや皮膚の症状も入れると、多くの花粉症の症状に当てはまる表現があり、それを花粉症の治療に応用することができます。

花粉症に限ったことではありませんが、漢方では症状に対して治療方針を立てるときには、「冷え」が原因なのか、「熱」が原因なのかを考えます。

冷えている場合は温め、熱を持っている場合は冷やすことにより、ちょうどよい状態「中庸(ちゅうよう)」にします。これにより症状が緩和されるのです。冷えか熱か、原因がどちらなのか判断する際は、症状が決め手になります。

冷えタイプ:冷えが原因の場合、次のような症状が出ます。

□ 顔色が青白い
□ 鼻水は薄くて量が多い
□ 体、手足などが冷えやすい
□ 寒い日、冷えると悪化する
□ むくみやすい

熱こもりタイプ:熱がこもっていることが原因の場合、次のような症状が出ます。

□ 熱感やほてりが強い
□ 眼球、目のまわりがかゆい
□ 黄色く濃い痰、鼻水、目やにが出る
□ 入浴後など、温まると悪化する
□ 喉のイガイガ、耳のかゆみが強い

チェックが多いほうがその方の花粉症のタイプになります。

冷えタイプの漢方3種と養生法

漢方では薄い大量の鼻水は冷え、ドロドロした黄色い鼻水は熱によるものと考えます。

花粉症で病院に行くと、最も多く処方されるのが小青竜湯(しょうせいりゅうとう)で、冷えタイプの花粉症に有効な代表的な漢方薬です。

小青竜湯は体力が中等度またはやや虚弱で、薄い水っぽい痰を伴う咳や、鼻水が出る人のアレルギー性鼻炎、花粉症です。とにかく鼻水が多く、ティッシュペーパーを1日1箱使ってしまうようなタイプの花粉症によく効きます。

この大量の鼻水の原因について、出典の古医学書『傷寒論(しょうかんろん)』の条文には、「心下(しんか) に水気あり」と書かれています。

心下とは心臓の下のほうのみぞおち、つまり胃のあたりを指します。ここに溜まった水が鼻水や痰になって噴水のように湧き上がってくると考えるのです。小青竜湯は、この「心下の水」を処理することにより、鼻水の原因を除去します。

小青竜湯を服用するタイプの方は、心下の水気である「水毒(すいどく)」を作らないような養生が大切です。

まずは水分の摂りすぎに注意です。その人にとっての水分摂取量が過剰になっている場合、せっかく小青竜湯を服用しても新たに水毒が作られてしまいます。ほかには、砂糖が入った甘いもの、冷たいもの、果物の摂りすぎなどがあります。体に水を溜め込んで症状を悪化させますので、控えたほうがいいでしょう。

風邪薬として馴染み深い葛根湯(かっこんとう)を、冷えタイプの花粉症にも使うこともできます。葛根湯を使う目安は、項背(うなじ、背中)の強張りがあります。目の症状を伴う場合も有効なことが多いです。

葛根湯は体を温め、余分な水を少し発汗させて処理する漢方薬ですが、体力が衰えて発汗する力がない場合、「虚弱者の葛根湯」と称される麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)を使います。手足の冷えが強い人や高齢者の花粉症に有効なことが多いです。

熱こもりタイプの漢方2種と養生法

熱こもりタイプでは、目のかゆみや皮膚の乾燥、赤みやかゆみ、喉の粘膜の炎症が目立ちます。熱により鼻水や目やには黄色く、ドロドロとした状態です。このようなタイプには、こもった熱を冷ます漢方処方の辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)を使います。

鼻粘膜が乾燥して熱感をもち、鼻づまりが顕著になった花粉症に有効です。乾燥傾向なので鼻水はなく、またはあっても濃いものが少量で、嗅覚障害を伴うこともあります。

鼻の粘膜がきのこ状に水ぶくれになった、鼻茸(はなたけ)にも使われます。

目のかゆみやむくみには、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)もよく使われます。余分な水分と熱を取ることで、目のかゆみをはじめとする症状の改善が期待できます。

熱こもりタイプの養生では、炎症を悪化させる香辛料、唐辛子やニンニクなどの摂りすぎに気をつけたほうがいいでしょう。揚げものや肉、甘いもの、味が濃いものも控えたほうがよいです。飲酒も熱をこもらせますので、控えたほうがいいでしょう。

さっぱりした味付けの、春の魚などを中心にした献立がおすすめです。

睡眠不足や過労も症状を悪化させるので、気をつけましょう。ミントやハッカのハーブティーやアロマオイルを入浴剤として使うのもいいかもしれません。


これまで見てきたとおり、漢方的では同じ「花粉症」でも、冷えと熱こもりなどのタイプにより薬を使い分けます。

花粉症というと小青竜湯というイメージがありますが、熱がこもった花粉症に温める作用のある小青竜湯を使えば、火に油を注ぐようなものですから、悪化してしまいます。実際、小青竜湯を服用して症状がひどくなったと相談にくる患者さんもいらっしゃいます。

同じ花粉症でも、ご自身のタイプ、症状にあったものを服用するようにしましょう。ご自身に合う薬がわからない場合は、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談されるとよいかもしれません。

なお、漢方軟膏である紫雲膏(しうんこう)を鼻の穴の回り、鼻の下に塗っておくと、花粉が入ってくるのを防ぐことができておすすめです。その名の通り紫色をしているため、色が付くのが困るという方は、ワセリンで代用してもよいでしょう。

今年は「花粉皮膚炎」が多い?

花粉症による症状として、肌荒れや肌の乾燥、肌の赤み、かゆみなどが起こることがあります。今年は特にそうした「花粉皮膚炎」が多い気がしています。

花粉皮膚炎は、発症時期が花粉症の流行する2〜5月に重なります。先に述べた症状が出るものの、鼻水、くしゃみなどは出ない人もいて、花粉が原因であることに気付きにくいです。

もともとアトピー体質の人や敏感肌の人は、肌のバリア機能が弱く、花粉が侵入しやすい状態になっていますので、注意しましょう。後述するような保湿ケアを行って、肌のバリア機能を高めることが大切です。

敏感肌でない人でも春先は乾燥しがちで、肌がいつもより敏感になっていることが多いので、注意しましょう。

花粉皮膚炎の症状があるときに、洗浄力の強い洗顔料やせっけん、ピーリングやゴマージュなどのスキンケアを行うと、肌のバリア機能を低下させる原因になります。花粉を洗い流すことは大切ですが、できれば洗顔料を使わず、ぬるま湯だけで洗うのが理想です。

基本的にはメイクをしないほうがいいですが、どうしてもメイクをしなければならないときは、肌への負担が少ないファンデーションを選び、できるだけ薄く塗るようにしてください。

特に目の周辺は皮膚が薄く、炎症が起こりやすい部位です。アイメイクをするときも強くこすらないようにしましょう。

メイクを落とす際も、肌への負担が少ないせっけんや洗顔フォームを用い、しっかりと泡立て、泡で包み込むようにして洗いましょう。顔をこすったり、頻繁に触ったりすることは極力控えてください。

肌のバリア機能を守り、乾燥を防ぐためには、洗顔後できるだけ早く保湿ケアをすることが大切です。

「太白ごま油」で肌の乾燥を予防

花粉が飛散する時期は、低刺激の敏感肌用のスキンケア用品に変更することをおすすめします。また、テクスチャーが硬い乳液やクリームは、塗るときにお肌をこすってしまい負担がかかりやすいので、なるべくのびのよい乳液やクリームを選びましょう。

洗顔後に食品として売られている太白ごま油を顔に薄く塗ると、乾燥を防ぐことができます。できれば一度鍋で100℃ぐらいまで加熱し、冷ましたものを使用するのがおすすめです。


花粉皮膚炎対策として筆者おすすめの「白いごま油」(写真:kai/ PIXTA)

(平地 治美 : 薬剤師、鍼灸師。 和光鍼灸治療院・漢方薬局代表)