災害時に備えたい「携帯トイレ」4人家族の必要数
備えておきたい防災グッズ「携帯トイレ」の選び方・使い方をご紹介します(写真:NPO法人日本トイレ研究所)
能登半島地震でも多く取り上げられた「災害時のトイレをどうするか」問題。
トイレ環境の大切さを広めるべく奔走する「日本トイレ研究所」の代表理事・加藤篤さんが、“トイレ”の視点から防災のノウハウをやさしく解説した『トイレからはじめる防災ハンドブック』より一部の内容を抜粋、忘れたころにやってくる災害への備え、そして起こった後の対応のポイントについて、3回にわたって掲載します。
第2回では、備えておきたい防災グッズ「携帯トイレ」についてお伝えします。
災害時に使う携帯トイレとは?
■後悔しない携帯トイレの選び方・使い方
携帯トイレとは、便器に設置して使用する袋式のトイレです。袋の中に排泄し、吸収シートや凝固剤で大小便を吸収・凝固させます。
給排水設備が損傷して水洗トイレが使用できないときでも、便器に取りつければすぐに使用できることが利点です。また、使い慣れたトイレ室を活用できるため安心です。
一方、いくつかの注意点があります。
まず携帯トイレを選ぶ際は、大小便をしっかり吸収・凝固できること、一定期間保管しても液体に戻らないこと、臭気対策が施されていることなどをチェックしてください。衛生的な問題が生じないよう、性能の良いものを選びましょう。
また、使用時に直接便器に取り付けることはおすすめしません。
先に45リットル程度のポリ袋を便器に被せてから便座を下ろし、その上に携帯トイレを取り付けましょう。こうすれば、携帯トイレの交換時に水が滴ることはありません。
以下を参考に、事前に使い慣れておくことをおすすめします。
参考:NPO法人日本トイレ研究所「災害で断水しても 建物内のトイレを利用できる」
まずはトイレに携帯トイレを設置
■災害発生直後は設備点検より先に携帯トイレを
前回の記事で紹介したように、発災から3時間以内に約4割の人がトイレに行きたくなったというデータがあります。発災後3時間でできることは、命を守り、安全な場所に避難して安否確認をすることぐらいではないでしょうか。
このような大混乱のなか、私たちは水や食料のことを心配すると思いますが、実はそれより先にトイレが必要になるのです。
急いですべきことは、避難所や自宅、オフィスなどのトイレに携帯トイレを取り付けることです。もちろん、トイレの天井が壊れていたり、トイレブースが倒壊していたりして、トイレが危険な場合はこの限りではありません。
私たちはトイレに行くとき、誰かに申告して行くわけではありません。基本的には各々が便意や尿意を催したときに誰にも言わずにトイレに行きます。体調を崩して嘔吐することもあると思います。
そのため、どのタイミングで誰がトイレに行くのかはわかりません。停電していても、断水に気づかずに排泄してしまうことが考えられます。
そんなとき、便器に携帯トイレが取り付けてあれば、災害時のトイレ対応であることに気づきます。携帯トイレの使用方法はわからない人がほとんどですので、ポスターやスタッフを介して伝えることも必要です。
給排水設備の点検等は、携帯トイレを取り付けてから実施してください。さきに点検を行っていると、その間にトイレを使用されてしまうからです。設備点検の結果、問題ないことがわかれば、携帯トイレを取り外せばよいだけです。
これまでの震災や豪雨災害において、携帯トイレを活用することでその場を乗り切った事例はあります。繰り返しになりますが、災害時はできるだけ早く携帯トイレを取り付けることが必要です。
知っておきたい携帯トイレの使い方
■災害前に周知しておきたい携帯トイレの使い方
災害時のトイレの初動対応として携帯トイレを用いることが有効です。
しかし、避難者の多くは携帯トイレを知りません。見たこともなければ使い方もわかりません。間違った使い方をしてしまうと不衛生な状態になり、集団感染を引き起こすことにもつながります。
そこで、大事なのが使用方法の周知徹底です。
災害が起きてからでは遅いので、平時の啓発が重要になります。防災訓練や学校での授業、地域のイベントなど、あらゆる機会を活用して伝えることが必要です。動画を活用することも有効です。
災害が起きてしまった後の周知方法は、これまでの経験者の話を踏まえると、主に2つの方法が考えられます。
1つめはイラストや図を用いてポスターを作成し、トイレに掲示することです。2つめはトイレ前にスタッフを配置することです。実際に、東日本大震災の避難所や西日本豪雨の際の病院などで実施されました。
これら2つの方法を両方実施することになると思います。災害時の負担を軽減するためにも平時の啓発を重視したいものです。
参考:NPO法人日本トイレ研究所「どうする?災害時のトイレ(マンション編)」
■使用済みの携帯トイレはフタつきの入れ物で保管
携帯トイレを使用したあとの取り扱い方法について説明します。市町村への確認が必要ではありますが、概ね可燃ごみとして収集・処理されます。
可燃ごみとして収集するということは、ごみ収集車などで運ぶことになります。災害時は地盤沈下や液状化、浸水、建物倒壊などで道路が塞がれてしまう可能性があります。通常であれば、すぐに実施できたごみ収集でも、災害時は思うようにいきません。
災害の規模や被災状況によっても異なりますが、少なくとも数日間は、各自で使用済み携帯トイレを保管することが求められます。
携帯トイレの中身は大小便ですので、臭気対策が必要になります。また、直射日光があたると袋の劣化につながるので、フタつきの入れ物などに入れてベランダや庭など、生活空間と切り離した場所に保管することが必要です。
どれくらいの数が必要になるか
■「人数×回数×日数」で携帯トイレを常備
自宅で避難生活を送るには、携帯トイレの備えが欠かせません。では、携帯トイレはどのくらい必要になるのでしょうか?
携帯トイレの必要数を計算するには、避難生活を送る人数、1日当たりの排泄回数、そして避難生活を送る日数を想定する必要があります。これらがわかれば、「人数×排泄回数×避難日数」という計算式で、携帯トイレの必要数を導き出すことができます。
ここでは仮に4人家族を想定してみます。排泄回数は1人ひとり異なりますので、それぞれが実際に数えてみることをおすすめします。
内閣府(防災担当)が作成した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」では、1日当たりの平均的なトイレ使用回数の目安は「5回」と記載されています。
避難日数は災害規模によって大きく異なりますが、国が定める「防災基本計画」では、住民に対して最低3日間、推奨1週間分の携帯トイレ・簡易トイレ、トイレットペーパーなどを備蓄することを啓発するように記載されています。
以上をまとめると、4人家族であれば次のような計算になり、140回分の携帯トイレが必要になります。
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(加藤 篤 : 日本トイレ研究所代表理事)