「好かれていると…」複数の男子児童に性暴力、わいせつ小学校教員のおぞましい勘違い
大学卒業から約20年、小学校教員を務めたという男は、これまでの教員人生を振り返り、熱弁を振るっていた。
「尊敬する先生がおり、その方のように、子どもに慕われ、導く教師になろうと……5〜6年生の高学年や荒れるクラスを任されることが多かったです。まず一人一人の話を聞き、信頼関係を作り、リーダーとなる子を見つけ、クラスをまとめていっていました……。主幹教員にもなり、管理職と下の教諭の間に入り、指導や話し合いを行ってきました。普段の授業でお褒めの言葉をいただいたり、たくさんの仕事を任され、多くの人に信頼していただいていたと思います……」
しかし、ここは保護者会の会場などではなく、東京地裁立川支部の法廷で、男は教員を懲戒免職となった被告人だった。犯行場所は全て、勤務していた小学校。男は当時小学5・6年生の男児らに対しわいせつな行為に及び、その様子を撮影していた。(ライター・高橋ユキ)
●2件の強制性交等罪、15件の強制わいせつ罪、49件の児童ポルノ禁止法違反
自分の子どもが通っている学校で、教員が子どもに性的な目を向けていたら……。保護者ならば一度はこうした不安を覚えることだろう。昨今の教員の懲戒処分や逮捕報道を見ていると、その不安はさらに大きくなる。
現在、東京地裁立川支部で開かれている強制わいせつ、強制性交等、児童ポルノ禁止法違反の裁判。被害男児らのプライバシーのためか被告人名は秘匿され、開廷表にも氏名は掲載されていない。勤務していた小学校の名も伏せられている。被害に遭った男児が校長先生に相談したのち、被告人は懲戒免職になったというが、都の教育委員会ホームページにも公表されていない。
40代とおぼしき被告人は、2件の強制性交等罪、15件の強制わいせつ罪、そして49件の児童ポルノ禁止法違反で起訴されている。被害に遭ったのは、10歳から12歳までの男児5名。教師として勤務していた小学校で犯行を繰り返していた。強制性交等では男児に対して口淫する・させる、強制わいせつでは男児の性器を触る、自慰行為をさせるなどの行為に及んでいたという。被告人には、事件発覚により離婚した妻との間に子どもが4人いる。
●「好かれていると思ってしまった」
「子どもに対し、信頼されている、好かれていると思ってしまっていて、気持ちを考えず、加害行為しても近づいてくれる子どもに対し、間違った都合のいい解釈で、大丈夫だろうと……判断し、間違いを犯しました」(被告人質問での発言)
こう被告人質問で語る被告人。被害児童らに対しては「人懐っこく、初めから近くに来てくれたことから、好かれてるという思いを持ち、手を出すように……」と、信頼されていたゆえの勘違いであるという理解し難い理屈を述べる。
また、ひとりの男児については「直接股間を触ろうとしたら『それだけはだめ』と嫌がったので、そこでやめるようにしていた」など、断られたらそれ以上のことはしていないつもりだったと釈明していた。逆に言えば、こうした行為に及んでも強く断れない性格の児童かどうか見極め選別し、エスカレートさせていたともいえる。
弁護人「結局、同意を得ていると思っていたと。嫌だと思っても言えなくて、本当は嫌がっているとは思わなかったんですか?」
被告人「当時はそこまで考えることができなかったです。自分の欲を満たすことが第一で、親御さんの苦しい思いまで考えることができなかった」
●「10年くらい前から、男性との性的な関係を持つようになった」
休み時間に被害男児らをトイレ個室や特別教室に誘い入れ、犯行に及び、先に退室させるといったことを繰り返していたという被告人は、全ての男児に対し「口止め」も忘れなかったという。
「広まってしまうと、立場が悪くなると……。というか、私の勝手な判断で、信頼されてるから言わないだろうと勝手な思いがあった」(同)
なぜ教え子らに加害行為を繰り返したのか。弁護人からのそんな質問に対して「10年くらい前から、男性との性的な関係を持つようになった」と語った被告人。きっかけは「電車で通勤するとき、男の人からの痴漢行為を初めて受け入れ、初めてそういう世界があると知った」ことからだったという。それ以降は事件発覚まで、SNSで相手を探し、性的欲求を満たしていたと語った。
起訴されている事件についての被害児童は5名だが、被告人はそれ以前から、勤務していた小学校で男児に対して同様の行為も繰り返してきた。検察官が切り込む。
検察官「一連の事件よりももっと前に小学生男子を相手に性的な行為をしたことがありましたか?」
被告人「それよりも2年前……」
検察官「他にも何人くらい?」
被告人「7〜8人いたと思います」
検察官「あなたが高校生のころにもありませんでしたか?」
被告人「……その頃は、弟にしてしまったことあります」
高校生の頃から男児に対する欲求を持ち、実際にそれを自身の弟に向けることで満たしていたというのだ。果たして本当に“10年前の男性からの痴漢”が、一連の行為に至る最初のきっかけだったのかが疑わしくなってくる。
被告人が「ネットで観た動画みたいなことをしてみたい」と行為をエスカレートさせていく中、小学校での体罰調査アンケートにおいて“被告人が生徒を膝に乗せている”といった内容が書き込まれ、学校から厳重注意を受けていたが、被告人はそれでも犯行を止めることはなかった。
検察官「被害児童たちが、性について正しい知識を持ってると思っていたんですか?」
被告人「いや、持ってないと分かっていました」
検察官「自覚しながら行為を重ねていたんですか」
被告人「はい」
検察官は「男子児童に歪んだ欲望を向けて犯行を繰り返しており身勝手極まりない。被害男児の一人に対しては『嫌がる素振りを一切見せず、喜んでいるように見えた』などと述べ、正に認知の歪みが生じている。起訴されている分だけを見ても悪質で規範意識の鈍磨は著しい。今後の再犯も否定できない」と、被告人に懲役14年を求刑した。
●「息子はこれからも傷を抱えながら生きていかなければならない」
被害児童の保護者のひとりは意見陳述(代理人弁護士代読)でこう述べている。
「小学生の子どもらに性的知識がないのをいいことに歪み切った欲望を向け、素直で、嫌と言えない息子を選んで何度も思い通りにした。被告人は息子の態度が被告人を誘ったかのように述べており、子どもが喜んでいるという言い訳をしている。息子はこれからも傷を抱えながら生きていかなければならない。体罰調査アンケートで注意を受けたのに性的な意図を否定しその後も加害を続けていた。怒り、悲しみは言い尽くすことができない」
逮捕後に小児性愛障害であると診断された被告人は、認知の歪みを矯正するために専門家と面談を行い、今後の治療計画を立ててもらったという。弁論で弁護人は「刑罰よりも治療」と訴えていた。判決は3月に言い渡される。