落ち込まない、心が折れない営業メンタルの鍛えかたをご紹介します(写真:つむぎ/PIXTA)

肉体的にも精神的にもキツいイメージがある営業職ですが、「営業は“心磨き”や“自分磨き”に最適な仕事だ」というのは伝説のトップセールスマンと呼ばれる浅川智仁さんです。いくら断られても、つらい状況下でも心が折れなくなるその極意を、浅川さんの近著『営業の苦手意識がなくなる本』より、一部抜粋・再構成してお伝えします。

事実に対する解釈の仕方を変える

あなたの心をタフにするための魔法の手法が「リフレーミング」です。

ナポレオン・ヒル博士の教えに、こんな言葉があります。

「事実は1つ、解釈は無限」

まったく同じ1つの事実でも、ポジティブな人とネガティブな人とでは、まったく解釈が異なる。解釈は人によっても違うし、自分でいくらでも解釈を変えることができるということです。

解釈は無限なのですが、その「解釈の仕方」について言えば、ナポレオン・ヒル博士は次の2つに分けています。

◉PMA(Positive Mental Attitude)
事実を、前向き、積極的、生産的、未来志向で解釈する。

◉NMA(Negative Mental Attitude)
事実を、消極的、破壊的、非生産的、後悔的に解釈する。

文字どおり、ポジティブ解釈とネガティブ解釈ですね。

1つの事実を、PMAで解釈するか、NMAで解釈するかは、自分次第です。

このように、ある事実に対する解釈の仕方を変えることを「リフレーミング」と言います。

私は、電話営業をやっていたとき、この「リフレーミング」を活用していました。たとえば、お客様にノーと言われて断られたとき、「もう、本当はイエスって言いたいくせに、浅川を試すなぁ」って、リフレーミングして、「本当はイエスって言いたいんですよね」なんて言っていました。

私からそんなことを言われた相手は驚いて聞き返します。

「えっ? なんでですか?」

「だって、今、この瞬間の2人の関係は、親指1本で電話を切れば終わるんですよ。でも、それをやらないじゃないですか」

「あっ、たしかに」

プツッ。ツー、ツー……。

と、すぐに切られたことが2回だけありました。

リフレーミングを使えば、落ち込まない

でも、20万回分の2回です。はっきり言ってこれは統計学上の誤差の範囲!

私が「電話を切らないじゃないですか」と言うと、ほとんどの方は「そうか、そうですよね、切らないもんね。どうして切らないんだろう」と、潜在意識ではイエスと言いたい自分に気づいてくれるのです。

それから、電話口で、はっきりと断ってくださったお客様には感謝していました。

だって、やる気もないのに、「考えておきますね」なんて返事をされて、時間延ばしをされて、結局は断られたら、お互いに時間の無駄です。「1週間、考えさせてください」と言われたら、こっちは1週間期待します。それで断られたら、その1週間、無駄な期待をしたことになります。

それを、その場で断ってくださるのですから、有り難い限り。

「お断りくださってありがとうございます! お互いに時間を丁寧に使おうというメッセージをいただき感謝します!」

私がそう伝えると、「あんた面白いね。やっぱりやるわ」と、言われたこともありました。

こういう、「普通なら落ち込むようなとき、逆に喜べるようになれ」ということを、ブライアン・トレーシーは「逆変質症患者になれ」という言葉で表現しています。

この表現が今の時代に合っているかどうかは別にして、そういう体質になれれば、もう落ち込まなくて済みます。

2時間もいい感じで話をした相手からお断りされても、「2時間前までまったく見ず知らずだった私の話を、2時間も聞いてくれたなんて、感謝しかない」「本気で悩んでくれてありがとう」と思えるようになります。

私は、そのように、どんなときもリフレーミングできるようになってからは、お断りに対しても落ち込むことがなくなりました。

リフレーミングを使えば、このように、心をしなやかにすることが可能なのです。

コロナ禍をリフレーミングで乗り切る

ここでコロナ禍において、私の会社がやったリフレーミングについて紹介いたします。

2020年。私の会社が、法人を対象とした研修事業に本格的に参入して2年目のその年のはじめ。2月から9月くらいまで、私のスケジュール帳は、研修やセミナーの予定で真っ黒でした。内心、「今年度の売上は間違いなく過去最高になる」と、確信をしていたのです。

ところが……そこに現れたのが新型コロナウイルスでした。

1月にかかってくる電話は、そのすべてがキャンセルの電話でした。

真っ黒だったスケジュール帳は、見る見る修正テープでガビガビに(この手帳は、今ではよい記念になっています)。気がつけば、8月までの契約はものの見事に全部が飛んでしまいました。

史上最高の売上をあげる予定が、なんと、一気に見込み収入ゼロ円になってしまったのです。

「キャンセルする側もたいへんなんだから、ここでキャンセル料をいただくのはやめよう」

社員たちには、そんな強気の宣言をしましたが、さすがの私も寝つきが悪くなり、お酒の量も増え、ストレス食いから体重も5キロ増。さて、どうしたものかと考えました。

最初にやったのは、現状を正しく把握することです。

社内にあるキャッシュと毎月出ていくお金、そして、売掛金の回収(7割と仮定)をキャッシュフローにまとめた結果わかったのは、「10月くらいまでは、売上がゼロでも、なんとかいける」ということでした。

ここで、リフレーミングです。

この最悪の事態を、どうPMAで解釈するか?

まず、社員たちに、「10月までは1円も売れなくても大丈夫」だという事実を伝えて安心してもらい、こんな指示を出しました。

「今はジタバタせずに、10月以降のアポを取ろう!」

いたずらに不安がらず、今、やれることをやろうと伝えたのです(まあ、10月以降も新型コロナがこの状況だったら知らんけど……くらいに腹をくくりました)。

そして、キャンセルを「決めてくださった」お客様には、すべて、私が大好きな本と、その本の解説動画、そして、直筆の「また、よろしくお願いします」という内容の手紙を送りました。

また、社内的には、「伝染病という敵を正しく知ろう」という思いから、私の愛読書の1つ、アルベール・カミュの『ペスト』を読む「哲学の時間」と称する読書会を実施。注文がない中、できることに取り組んだのです。

「せっかく埋まっていたスケジュールが全部飛んでしまった! 悔しい!」と考えるのはNMA。しかし、ここで、「せっかくスケジュールが飛んだのだから、予定が詰まっていたらできなかった、未来へ向けてできることをやる時間にしよう!」と考えれば、PMAでリフレーミングされます。

私はここでもう1つ、未来への布石を打つことにしました。

それまでは、対面式の研修にこだわっていましたが、思い切ってオンライン研修を行うための機材を買いそろえたのです。

しかも、原資が減る中、かなり奮発して本格的な機材を購入し、その使い方をしっかりとマスターしました(なにしろ時間だけはありましたから)。

未来へ向けてできることをやり一気にV字回復

そんな準備をしていたら、10月に1本の問い合わせ電話がかかってきたんです。

「浅川さんのところは、オンラインでの営業研修もいけるんですか?」

私は待ってましたとばかりに即答しました。

「はい! もちろんです!」

この電話で、コロナ禍の真っ最中に、50人のリモート研修が決まりました。

それが実績となり、その後、立て続けにリモート研修の仕事が決まって、業績は一気にV字回復したのです。

思えば、東京から遠く離れたお客様に対しても、簡単に営業研修を実施することができるようになるきっかけにもなったわけで、「禍を転じて福となす」とはまさにこのこと。

これも、最悪の状況のときに、腐らずに、PMAで「リフレーミング」し、前向きの行動をしたおかげです。

ブライアン・トレーシーが言うところの「逆変質症患者」になったことで、未来が好転したのです。

本稿の最後に、実業家、著作家、講演家であり、「ツイてる」というフレーズで有名な斎藤一人さんが、講演会で披露していて、私が「なるほど!」と思った話を紹介させていただきます。

「解釈の質」が人生を決める

斎藤一人さん曰(いわ)く。

「いいかい、ツイてるツイてるって、言うよね。でもさ、俺だって、車を運転していて、いきなり後ろから突っ込まれたら、ツイてるなんて思わないよ。ひでぇなコノヤロウって、振り向くよ」

この時点で会場は大爆笑です。

一人さんは続けます。

「ただ、ここからなんだよ。あっ、命が無事でよかったな。ツイてるなって思うよね。車がちょっと壊れたくらいでよかった、ツイてるって思う。だから、ツイてるっていうのは、努力なんだ。ツイてるって思える人は努力家なんだ」


私はもう、この言葉だけで斎藤一人さんのことを好きになってしまいました。

「ああ、そうか。この人はやみくもに天国言葉とか言っているだけの人じゃない。まさにNMAからPMAへという、解釈のリフレーミングをやっているんだ。解釈の努力をやっている人なんだ」と思ったのです。

私自身は、この「解釈」について、こう考えています。

「解釈の質が人生だ」

その人が、自分や自分の身の周りの出来事について、どんな解釈をするかという、「解釈の質」こそが、その人の「人生の質」そのものである!

リフレーミングによって、同じ出来事をどう解釈するか?

それによって、「人生の質」が決まる!

その意味では、営業という仕事は、本当に解釈の連続です。

やはり、営業は、「心磨き」「自分磨き」になる仕事だと思うのです。

(浅川 智仁 : ライフデザインパートナーズ代表取締役)