世界では1日に数百万個の流星が地球へと降り注ぎ、そのうち10個から50個は隕石として地表や海に到達していると推定されています。しかし、隕石の落下が事前に予測されること、つまり落下前の宇宙空間で「小惑星」として発見されることはほとんどありません。


世界時2024年1月20日 (※1) 、そのような珍しい事例が報告されました。20日21時48分に発見された直径約1mの小惑星「2024 BX1」(暫定名Sar2736)は、その2時間45分後となる21日0時33分(中央ヨーロッパ時間同日1時33分)にドイツのベルリン西部に落下しました。小惑星が地球大気圏に突入する前に宇宙空間で発見され、衝突することが事前に予測されたのは、観測史上8例目の出来事です。


※1…以下、特に記載がない限りは世界時で日時を示します。9時間進めると日本時間になります。


【▲図1: チェコ北部のリベレツ州で撮影された、2024 BX1の落下による火球(Credit: M. Martin)】

■衝突前の小惑星を観測することは困難

太陽系には大小さまざまな天体や塵が無数に存在します。小さな塵や岩片が地球の大気圏に突入すると、発光して「流星」として観測されます。流星は1日に数百万個も降り注いでおり、その中でも特に明るいものは「火球」と呼ばれます。そして火球の一部は大気圏で蒸発しきらずに地表へと落下します。地表で落下物が発見された場合、その破片を「隕石」と呼びます。


しかし、毎年周期的に目撃される流星群とは異なり、個々の火球の発生が予測される事例はほとんどありません。事前に予測された場合、それは火球の元となる天体が宇宙空間で見つかっていることを意味します。そのような天体が宇宙空間で発見された場合は「小惑星」として扱われ、発見報告を元に軌道が確定すると識別用の仮符号が割り当てられます。まとめると、同一の天体であっても、宇宙空間で発見されれば小惑星、大気圏を落下中に観察されれば流星や火球、地表で発見されれば隕石とみなされ、それぞれ独自の名称が割り当てられます。


小惑星そのものの発見数は130万個を超えていますが、落下前の小惑星を見つけるのは極めて困難です。その理由は複数あります。小惑星は直径が小さいほど数が多く、従って地球への落下頻度も高くなります。小惑星は自ら光を発しないので反射光を観測するしかありませんが、火球の元となる小惑星は数m前後と極めて小さいため、極めて暗い天体となります。また、1日の半分は太陽光によって空が明るいため、このような天体を地上から観測することは事実上不可能となります。観測者がほぼ存在しない海上や人口の少ないエリア側にいた場合、発見はさらに難しいでしょう。


また、小惑星が小惑星として扱われるためには、どのような公転軌道を描いているのかを特定しなければなりません。軌道は見た目の明るさと位置の変化から計算して特定する必要があります。しかし、地球に接近する小惑星の動きや明るさの変化は、地球から離れたところにある通常の小惑星とは大きく異なるため、1つの天体に由来する複数の観測記録を統合する作業が困難になります。特に、地球に対して “正面衝突” するような小惑星は、見た目の位置が衝突の直前までほとんど動いていないように見えるため、なおさら観測が困難です。


分かりやすい事例としては、2013年2月15日にロシアのチェリャビンスク州に落下した隕石が挙げられるでしょう。その明るさと被害からよく知られている現象ですが、落下の予測はされていませんでした。元となった天体は直径約17mの大きさがあったと考えられていますが、落下後の分析でも観測記録は見つかっていませんでした。隕石となる天体としてはこれほど稀なサイズであっても見逃されていたことが、いかに観測が困難であるかを示しています。


このような背景がある中で、地球に衝突することが予測された小惑星の発見は過去に7例ありました。最初の記録は2008年10月6日6時39分に発見された後、翌7日2時26分に地球に衝突した「2008 TC3」です。その後はしばらく観測記録がなかったものの、2014年から2023年までの10年間で「2014 AA」「2018 LA」「2019 MO」「2022 EB5」「2022 WJ1」「2023 CX1」の6例が報告されています (※2) 。観測頻度が上がっている理由として、観測体制や精度の向上、情報伝達速度の改善、軌道解析など数値計算の高速化といった、様々な背景事情が考えられます。


※2…観測データが不十分であるために小惑星として正式な登録がされていない「A106fgF」と「DT19E01」、落下の約10分前に撮影されていたものの事後解析によって判明した「CNEOS 20200918」の3事例を除きます。


【▲図2: 今回の観測記録を含む、衝突前に発見された経歴を持つ小惑星の一覧(Credit: 彩恵りり)】

■観測史上8例目、衝突前の小惑星「2024 BX1」を発見

【▲図3: ピスケーシュテテー山観測所で撮影された2024 BX1。画像中央を下から上に向けて動いている点が2024 BX1です。背景の星 (直線状に並んだ点) に対して移動していることが分かります(Credit: Krisztián Sárneczky (Piszkéstető Mountain Station))】

そして今回で8番目の事例となる「2024 BX1」は、2024年1月20日21時48分に最初の観測記録が報告されました。2024 BX1は発見された時点で地球から約11万8000kmまで接近していたと考えられます。これは地球と月との距離の3分の1以下です。なお、この時点では、小惑星などの天体を管轄するIAU(国際天文学連合)の関連機関「小惑星センター」のNEOCP(地球近傍天体確認ページ / Near Earth Object Confirmation Page)で付与された暫定名である「Sar2736」の名称で呼ばれており、正式名称となる2024 BX1が与えられたのは衝突後のことです。


2024 BX1を初めて捉えたのはハンガリーのピスケーシュテテー山観測所で、Krisztián Sárneczky氏によってでした。Sárneczky氏はこれまでも地球に衝突する直前の小惑星を発見しており、2024 BX1の発見は、5番目の事例である「2022 EB5」と7番目の事例である「2023 CX1」に次いで3例目となります。


【▲図4: 2024 BX1が衝突する前に発表された落下地点の予測 (十字の中央にある色の範囲) 。本来は衝突範囲が帯状になりますが、今回は衝突範囲がとても絞られており、落下予想は点となっています(Credit: Richard Moissl (ESA))】
【▲図5: 2024 BX1のより詳細な落下地点の予測。観測記録の多さと、ほぼ垂直で落下するという角度の関係から、ベルリン西部の極めて狭い範囲 (赤〜黄の線状) に予測が絞られました(Credit: Richard Moissl (ESA))】

発見直後から、JPL(ジェット推進研究所)の「Scout」、ESA(欧州宇宙機関)の「Meerkat」、小惑星センターの内部警報システムなど、各宇宙機関の小惑星監視システムが地球への衝突を予測しました。衝突予想日時は初観測から2時間45分後となる翌21日0時33分(中央ヨーロッパ時間同日1時33分)であり、ドイツの首都ベルリンの西部にあるネウハウゼン(Nennhausen)周辺に落下することが予測されました。


【▲図6: ブカレスト天文台でA. Sonka氏とA. Nedelcu氏によって観測された2024 BX1 (中央の淡い点) 。一連の画像は21日の0時4分から8分にかけて撮影されており、最後の画像は衝突のわずか25分前です(Credit: A. Sonka (Astronomical Institute of the Romanian Academy))】

2024 BX1の見た目の明るさは発見時でわずか約18等級、最も明るい時でも約13等級しかありませんでしたが、実に13箇所の天文台が2024 BX1の明るさや位置の観測記録を報告しました。観測は21日0時18分まで行われましたが、これは地球に衝突するわずか15分前です。そして、2024 BX1は事前の予測通りの場所・時刻に落下し、ドイツ西部を中心に各地で火球が観測されました。


小惑星センターによって2024 BX1という正式な仮符号が与えられたのは、落下から約1時間後の1時41分に発行された小惑星電子回報によってでした。同時に公転軌道も確定され、地球に衝突するまでは太陽の周りを約1.54年周期で公転するアポロ群小惑星であることが分かりました。


■将来的には頻繁な出来事になるかもしれない?

2024 BX1の推定直径は約1mであり、これは発見された小惑星(および天体)の中でも最小クラスの大きさです。この大きさにも関わらず詳細な観測が行われたのは、地球に接近したという条件面だけでなく、観測体制や技術精度の改善が背景として挙げられます。


実際、2024 BX1の観測記録は、初発見から最後の観測までの約2時間半の間に198回に達しました。今回と同じく、約11か月前にヨーロッパ地域に落下した2023 CX1の場合、約6時間半の間に434回の観測記録があり、どちらのケースもほぼ1分に1回以上の観測記録があったことになります。いつ見つかるのかわからない小惑星に対し、短時間で観測体制を整えられることが、今回の珍しい観測に繋がったと言えます。


【▲図7: 2024 BX1の破片が隕石として見つかると予測される範囲。重さによって風の影響が異なるため、最終的な落下範囲も異なります。2024 BX1は地表に対してほぼ垂直に落下したため、相当狭い領域に絞り込まれています(Credit: Denis Vida)】

2024 BX1と同等の直径約1mの小惑星の落下は “もしかすると地表に隕石を残すかもしれない” 程度の、危険性のないイベントです。ただし、将来的にはチェリャビンスク州での災害に匹敵するか、それを上回るような隕石災害が起こるかもしれません。観測が困難な小惑星の観測体制の向上は、このような稀ながらも危険性の高いイベントが起こるかどうかの予測精度の向上につながります。今回の2024 BX1のような事前に予測された火球イベントは、将来的にはこのような記事が書かれないほどに頻繁なイベントとなるかもしれません。


関連記事
・史上7例目、落下前の小惑星「2023 CX1」 (Sar2667) の観測に成功! (2023年2月23日)
・出現が予測されていた火球の飛跡 大気圏突入前に発見された史上6番目の小惑星「2022 WJ1」 (2022年11月25日)
・去る3月12日に大気圏へ突入。地球衝突前に発見された史上5例目の小惑星「2022 EB5」 (2022年3月20日)
・2018年にボツワナへ落下した隕石は小惑星ベスタから飛来したものだった? (2021年5月3日)


 


※1月27日追記:1月26日に、2024 BX1に由来すると思われる隕石を発見したとの報告がありました。確認された場合、落下前に宇宙空間で発見された小惑星に由来するものとしては4例目の隕石となります。
※図2の日付表記に誤りがありましたので、修正いたしました(1月27日22時)


Source


Minor Planet Electronic Circular. “MPEC 2024-B76 : 2024 BX1” (Minor Planet Center)“"Pseudo-MPEC" for Sar2736”. (Project Pluto)“JPL Horizonsでの計算結果”.M. Martin. “Report 423r”. (International Meteor Organization)“Krisztián Sárneczky氏のX (旧Twitter)でのポスト”“Richard Moissl氏のX (旧Twitter)でのポスト”“Denis Vida氏のX (旧Twitter)でのポスト”“ブカレスト天文台での観測画像” (Șonka Adrian - Astronomie)

文/彩恵りり