「うその救助要請」も SNSで能登半島地震の“偽情報”相次ぐ 投稿者の法的責任は? 弁護士が解説
1月1日に発生した能登半島地震の被災地では、多くの人が避難所での生活を余儀なくされているほか、行方不明者の捜索活動が続けられています。
そんな中、新聞やテレビの報道によると、SNS上では、震災発生後、過去の津波の動画を使ったと見られる偽の被害情報や実在しない地名を記載した偽の救助要請などが相次いで投稿されているということです。
災害発生後に偽の情報をSNS上に投稿した場合、投稿者は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
「偽計業務妨害罪」に該当する可能性
Q.災害に関する偽の情報をSNS上に投稿した場合、投稿者は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。故意に偽の情報を投稿した場合、誤った情報とは知らずに善意で情報を投稿してしまった場合とで、それぞれ教えてください。
牧野さん「災害に限らず、SNS上に偽の情報を投稿し、業務妨害や信用毀損(きそん)と言えるような結果を引き起こした場合、偽計業務妨害罪や信用毀損罪(いずれも、刑法233条)が成立する可能性があります。これらの犯罪の法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
こうした犯罪の成立には、いずれも故意があったかどうかが求められるため、誤った情報とは知らずに善意で投稿した場合、その証明が難しいですが、これらの犯罪は成立しないでしょう。
民事責任としては、過失による偽情報の提示によって引き起こされた営業妨害や名誉毀損により発生した損害を賠償する責任を負う可能性があります(民法709条、不法行為)。ただし、被害者は具体的な損害として『客数や売り上げが減った』『精神的損害を被った』などを証明しなければなりません」
Q.SNS上で偽の情報を見た人が、その情報をリツイートするなどして拡散したとします。その場合、その人は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。
牧野さん「リツイートであっても法的責任を問われる可能性はあります。以前、偽情報の投稿をリツイートしたことが、民事上の不法行為(名誉毀損)に当たるかが裁判で争われました。被告は、『リツイートした投稿は自分の発信したものではない』と主張しましたが、裁判所は『リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われる』として、被告の主張を退けています(大阪地裁2019年9月12日判決)。
ただし、真実と信じることに相当の理由がある場合には、不法行為の成立要件の過失を欠きます。そのため、例えば、名誉毀損発言に関するリツイートによる不法行為責任が認められない可能性もあると思われます」
Q.災害発生後、偽の情報をSNS上に投稿したことがきっかけで法的責任を問われた事例について、教えてください。
牧野さん「2016年4月の熊本地震の発生直後、『地震のせいで近所の動物園からライオンが放たれた』という内容の偽情報をX(旧ツイッター)に投稿した男が、偽計業務妨害罪の疑いで逮捕された事例があります」