アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年1月9日、有人月面探査計画「アルテミス(Artemis)」で計画されている2つのミッション「アルテミス2(Artemis II)」と「アルテミス3(Artemis III)」のスケジュール見直しを発表しました。アルテミス2は2024年11月から2025年9月以降に、アルテミス3は2025年から2026年9月以降に、それぞれ延期されています。【最終更新:2024年1月11日10時台】


【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)の「アルテミス2」ミッションのクルー4名とオリオン宇宙船のクルーモジュール。2023年8月撮影(Credit: NASA/Kim Shiflett)】

NASAのアルテミス計画は月面での持続的な探査活動や将来の有人火星探査を見据えた取り組みで、1960〜70年代に実施された「アポロ計画」以来となる有人月面探査が行われます。同計画では月を周回する有人拠点「ゲートウェイ(Gateway)」も建設される予定で、欧州宇宙機関(ESA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、カナダ宇宙庁(CSA)、それにアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)もモジュールの製造に参加しています。


2025年9月に延期されたアルテミス2は地球と月周辺の往復に用いられるNASAの新型宇宙船「オリオン(Orion、オライオン)」の有人飛行試験にあたるミッションで、4名のクルーが月周辺を飛行した後に地球へ帰還します。アルテミス3はアルテミス計画初の有人月面着陸を行うミッションで、2名の宇宙飛行士が月着陸船「Starship HLS(スターシップHLS)」に搭乗して月の南極へ降り立ち、永久影に埋蔵されているとみられる氷(水の氷)の探査などを行います。


【▲ 月に着陸したHLS(有人着陸システム)仕様の「スターシップHLS」の想像図(Credit: SpaceX)】

NASAによると、アルテミス2のスケジュール見直しは同ミッションに向けた地上での試験結果や2022年11月〜12月に実施された無人ミッション「アルテミス1(Artemis I)」の結果を受けて、クルーの安全を確保するために判断されました。アルテミス2で使用されるオリオン宇宙船はすでに製造が進められていますが、解決に追加の時間を要する問題がコンポーネントの試験で確認されたといい、NASAによればバッテリーの問題に対するトラブルシューティングと、換気・温度制御を担当するコンポーネントの課題への対処が進められています。


アルテミス1はNASAの新型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」が初飛行したミッションで、無人のオリオン宇宙船が月周辺を飛行した後に地球へ帰還しました。オリオン宇宙船のクルーモジュールには大気圏へ再突入する際に機体を保護する耐熱シールドが底面に装着されていますが、NASAによればオリオン宇宙船の帰還後に行われた検査で耐熱シールドの予期せぬ問題(炭化層の予想以上の損失)が確認されているといい、問題を理解するための試験やデータの評価を含む調査が2024年春に終了する予定とされています。


【▲ 25日半に渡る無人飛行を終えて帰還したオリオン宇宙船のクルーモジュール(Credit: NASA)】

2026年9月に延期されたアルテミス3のスケジュール見直しはアルテミス2の動きに連動しています。アルテミス2で得られた知見をアルテミス3に反映できることに加えて、有人着陸システム(Human Landing System:HLS)を担当するスペースXや船外活動用の宇宙服を担当するアクシオム・スペースは試験や改良に費やす時間を確保できることになります。


特に、スペースXが開発中のスターシップは2024年1月11日時点でまだ地球を周回する飛行に成功していません。HLS仕様のスターシップをアルテミス3で使用するには複数回のスターシップ打ち上げによる軌道上での推進剤補充や無人での月着陸試験に成功しなければならず、今後も同ミッションのスケジュールはスターシップの開発状況に大きく左右される可能性があります。


また、NASAは2025年10月に予定されているゲートウェイ最初のモジュール打ち上げについても、追加の開発時間確保やミッションとの兼ね合いを理由にスケジュールの見直しを検討していると述べています。ゲートウェイが初めて使用される「アルテミス4(Artemis IV)」ミッションは2028年に実施される予定で、こちらは順調に準備が進められている模様です。


【▲ アメリカ航空宇宙局(NASA)が2023年12月に公開した月周回有人拠点「ゲートウェイ」の想像図(Credit: NASA)】

 


Source


NASA - NASA Shares Progress Toward Early Artemis Moon Missions with Crew

文/sorae編集部