ソニーの音楽系事業を統括するソニー・ミュージックエンタテインメントは、DNSリゾルバのQuad9に対して「海賊版サイトへのアクセスをブロックしろ」と要求する訴訟を起こしています。「インターネットの言論の自由を脅かす」とも指摘されていたこの訴訟の控訴審で、ドイツ・ドレスデンの裁判所がQuad9を支持し、ソニー・ミュージックエンタテインメント側の訴えを退ける判決を下しました。

Quad9 Turns the Sony Case Around in Dresden | Quad9

https://quad9.net/news/blog/quad9-turns-the-sony-case-around-in-dresden/



Dresden stories at Techdirt.

https://www.techdirt.com/2023/12/07/good-and-bad-news-on-attempts-to-implicate-dns-services-for-copyright-infringement-at-the-domains-they-resolve/

DNSリゾルバとは、ユーザーがドメイン名で指定したウェブサイトにアクセスするため、DNSサーバーに照会してIPアドレスを割り出すクライアントのことです。スイスに拠点を置くQuad9は非営利団体によって運営されており、「リストに登録された悪意のあるウェブサイトをブロックする」という機能を備え、マルウェア・フィッシング詐欺・スパイウェア・ボットネットなどからユーザーを守っているとのこと。

ドイツにはインターネットサービスプロバイダ(ISP)と著作権者が協力して海賊版サイトをブロックする取り組みがありますが、DNSリゾルバはこの取り組みに参加していないため、ユーザーはQuad9を使用して海賊版サイトにアクセス可能です。そこでソニー・ミュージックエンタテインメントは、海賊版の音楽ファイルを配信するウェブサイトのブロックをQuad9に求める裁判を起こしました。

Quad9はソニー・ミュージックエンタテインメントに対し、「Quad9は申し立てられた著作権侵害の当事者とは何の関係もありません」と反論し、Quad9はあくまでDNSリゾルバとしての役割を果たしているだけだと主張。著作権者は自らの作品を保護する権利を持つものの、当事者と関係がないサードパーティーのDNSリゾルバにもアクセスのブロックを義務づけることは「危険な前例」になり得るとして、争う姿勢を見せています。

「ソニーがインターネットの言論の自由をおびやかす法的攻撃を仕掛けてきた」とQuad9が主張 - GIGAZINE



また、Quad9はサーバーをドイツに置いているわけではない上に、ソニー・ミュージックエンタテインメントが指定したドメインもドイツのものではなかった点を強調しています。

2021年にはQuad9に対して海賊版サイトへのアクセスをブロックすることを指示する裁判所命令が下りましたが、Quad9はこの判決を不服として控訴したため、訴訟はドレスデン上級地方裁判所に持ち込まれました。

そして2023年12月、ドレスデン上級地方裁判所は明確にQuad9を支持する(PDFファイル)判決を下し、ソニー・ミュージックエンタテインメントの主張を退けました。控訴審の判決では、DNSリゾルバであるQuad9には著作権侵害の加害者としての責任はないことが認められました。また、ソニー・ミュージックエンタテインメント側が訴訟を起こす前に、著作権侵害の当事者およびホスティング会社に十分な手段を講じていなかったことも指摘されています。

Quad9は控訴審の判決を、「インターネットをすべての人にとって中立的で信頼できるリソースに保つ取り組みにおける輝かしい瞬間」と呼んで歓迎しています。Quad9は、「インターネット検閲の拡大主義が止まることは決してなく、デジタル主権の細かいものの不適切な削除要請に抵抗せずに放置することは、最終的にユーザーの思想の強引な弾圧に終わるのは明らかです。その境界線は常に試されており、私たちはこのラウンドに勝利しました。前線があなたたちの近くに移動するのを防いだのです!」と述べました。



なお、裁判所は訴訟を上級審に持ち込むことを禁止しており、今回の判決が最終判決となります。もしソニー・ミュージックエンタテインメント側がこの判決を覆したい場合は、上訴棄却に対する不服申し立てを行って勝利し、さらに連邦裁判所に上訴しなくてはならないとのことです。