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ChromeのCookie廃止を控え、データの重要性が高まるなか、小売業者は自社オーディエンスを現金化すべくリテールメディアネットワークの構築に勤しんでいる。

米国のリテールメディア広告費は増加傾向にあり、今年451億5000万ドル(約6兆8470億円)到達。この数字は2027年までに倍以上になると予想される。

エージェンシーは増加するリテールメディアネットワークの中でクライアントの広告費の効果的な配分を模索。メディアが乱立するなかでリテールメディアを選択する強力な動機が必要との声も。


今はまだその状態でないとしても、業界はこの先、リテールメディアの軍拡競争に向かうことが大いに考えられる。

GoogleによるCookieの廃止を来年に控え、データはマーケティングにおける金脈となり、ウォルマート(Walmart)からホーム・デポ(The Home Depot)に至るまで、小売業者は自社のオーディエンスを現金化しようとしている。それは市場に分散化を生み出しており、エージェンシーはこの成長分野において、クライアントの広告費のベストな使い道を見いだすことを迫られている。

「一晩経つと新しいリテールメディアネットワークが誕生している」



「一晩寝て起きると、また新しいリテールメディアネットワークが誕生している。近頃はそんな感じだ」と、広告エージェンシーVMLY&Rの最高メディア責任者、ジェニファー・コール氏はいう。「以前はクライアントから預かった広告費に4通りほど使い道があった。今は4000通りもある。多くの決断を下さなければならない」。

自動車マーケットプレイスのカーズ・コム(Cars.com)は10月、ブランド名をカーズ・コマース(Cars Commerce)に変更し、カーズ・コマースメディアネットワーク(Cars Commerce Media Network)という独自のリテールメディアネットワーク(RMN)を創設した。カーズ・ソーシャル(Cars Social)、フューエルIMV(FUEL IMV)、および広告を含む同社のメディアプロダクトを統括するもので、リテールメディア分野にまた新たなプレーヤーが増えた。

カーズ・コマースは、25年以上にわたって育んできたオーディエンスを広告主に売り込み、自動車のリテールメディア分野におけるファーストムーバーになろうとしていると、カーズ・コマースのCMOを務めるジェニファー・ヴァイアネロ氏は話す。同社は現在、OEM向けのサービスを売り込んでいる。ただし、どのブランドと契約を結んだかについては明らかにしなかった。また、カーズ・コマースメディアネットワークにおける価格は、プロダクトやチャネルによって異なるとのことだが、それ以上の詳細には言及しなかった。

「広告ソリューションに関して、当社はすでに何千ものディーラーやほとんどのOEMと仕事をしている」とヴァイアネロ氏は言う。「今回の変更は、当社のソリューションをひとつにまとめ、より測定可能なものにし、より幅広く複数のチャネルに提供するためだ」。

それは同時に、より多くの広告費を集めるチャンスでもあり、カーズ・コマースにとって正式な収入源がまたひとつ増えることになる。同社の決算報告によると、第3四半期の売上高は1億7400万ドル(約264億円)で、前年同期比6%増だった。

減速の兆しは今の所なし



カーズ・コマースが参入するRMNという新興分野には、Amazon Ads、ウォルマートコネクト(Walmart Connect)、ターゲット(Target)のリテールメディア事業ラウンデル(Roundel)、クローガープレシジョンマーケティング(Kroger Precision Marketing)といった大手が並ぶ。ほかにも、ロウズワンルーフメディアネットワーク(Lowe’s One Roof Media Network)、ホーム・デポのRMN、アルバートソンズメディアコレクティブ(Albertsons Media Collective)、ダラーゼネラル(Dollar General)のRMNなど、多くがひしめき合っていることは言うまでもない。

また先ごろ、広告持株会社のオムニコム(Omnicom)が、eコマースプラットフォームのフライホイールデジタル(Flywheel Digital)を8億3500万ドル(約1266億円)で買収すると発表した。買収によって、同エージェンシーが提供するデジタルコマースとリテールメディアサービスの魅力を高めることが狙いだ。

参入企業の数は増えるばかりだが、なお減速の兆しはない。インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)によると、米国のリテールメディア広告費は今年451億5000万ドル(約6兆8470億円)に達し、2022年比で20%近く増加すると予想される。またこの数字は2027年までに倍以上になり、1061億2000万ドル(約16兆940億円)に達すると予想される。

独立系デジタル広告エージェンシーPMGのプログラマティック責任者メアリー・オブライエン氏によると、PMGのクライアントのうち、マーケティング戦略にRMNを含めているところは、2022年には推定20%だった。今年は、この数字が昨年の8社から16社へと倍増し、推定40%に達しているという。

「Cookieの崩壊が進み、7月にはChromeに大きな変更が施されるなか、自社の顧客を介してファーストパーティデータにアクセスできることは、非常に価値あるものになる」とオブライエン氏はeメールで述べた。

「最近は選択肢が多すぎる」



デジタルエージェンシーのコードスリー(Code3)で最高アクティベーション責任者を務めるグレッグ・ウォルニー氏によると、同社でも同じようなことが起こっており、クライアントは予算全体の約10〜12%をリテールメディアに移しているという。同時に、一部クライアントの広告費において、店頭でのトレードマーケティングや従来型のTV広告への支出は先細りになっており、リテールメディアにメディア予算を振り向ける余地が生まれていると、ウォルニー氏は述べている。

しかし、エージェンシー幹部らによると、リテールメディアへの支出は、有料ソーシャルや検索広告のように、メディア予算のなかで独立した項目となるには至っていない。リテールメディアに充てられているのは、実験あるいはテストと学習のための予算だ。

カーズ・コマースのような小売業者や、さらにはエージェンシー持株会社までもがリテールメディアに参入し、広告主もより多くの予算を投じるようになっている。しかし、急激な成長に伴い、エージェンシー幹部らは、予算に引き続き厳しい目が向けられるなかで、多種多様な選択肢を前に、クライアントの広告費をどのように使うのがベストなのかという問題に直面している。エージェンシーは、クライアントの広告費を複数のリテールネットワークに振り分けることでリスクを分散させるべきか、それとも、より大きなネットワークに集中させるべきかと、VMLY&Rのコール氏は問う。

「RMNには、本当に強い営業力が求められることになる」とコール氏は話す。「乱立する他のすべてのメディアパートナーを打ち破るのは困難だろう。そこに含まれるのはRMNだけでなく、すべての種類のメディアパートナーだ。というのも、プログラマティックであれ、コネクテッドであれ、TVストリーミングであれ、最近はあまりに選択肢が多すぎる」。

ゴールドラッシュは始まったばかり



エージェンシー幹部にとっては、リテールメディアのゴールドラッシュはまだ始まったばかりだ。来年、GoogleのCookieが(おそらくは)ついに完全崩壊するときには、ますます騒々しくなることが予想される。とはいえ、Code3では、クライアントと統合について話し合うことが増えていると、ウォルニー氏は話す。すなわち、顧客のいるあらゆる場所に広告を出すよりも、真の収益性が見込めるところに注力することだ。

「いよいよ梯子が外されたとき、クライアントが予算を費やし、コンバージョンが見込める顧客を実際に見つけられる場所はどこになるだろうか」とウォルニー氏は語る。「あちこちに手を広げるのか、あるいは、実績のある場所へ向かうのか。それはクライアントが下さなければならない決断だ」。

[原文:How advertisers are grappling with the influx of retail media networks]

Kimeko McCoy(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島翔平)