気温や湿度、気圧、空気中の気体濃度、PM2.5などの粒子の濃度など、空気環境を計測する空気質モニターをオープンソースで開発するAir Gradientが、自社の製品を開発する際に中国の金型メーカーと商談した時の話を公開しています。

Our Journey of Making a Plastic Injection Mold with a Chinese Mold Maker

https://www.airgradient.com/blog/plastic-injection-mold-making-tips/



自分で組み立てるオープンソースの空気質モニターを販売するAir Gradientは、これまで空気質モニター用のプラスチック射出成形金型を3種類作成しており、いずれも中国の異なる金型メーカーに設計を注文したそうです。

設計段階の最初期に必要な知識について、Air Gradientは以下の4点を挙げています。

・デザイン内でアンダーカットを避ける

射出成形は、加熱して溶かしたプラスチックを金型に注入して成形します。例えば以下の図の左のように、部品にへこみをつけた場合、成型品が金型に引っかかってしまうため、そのままでは金型から外すことができません。このように、通常の方法では金型から外せなくなるようなデザインを「アンダーカット」と呼びます。



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アンダーカットを製品デザインから完全に排除するのは困難ですが、コストが上がってしまうため、できれば避けるのが無難です。

・プラスチックの厚みはなるべく一定にする

場所によってプラスチックの厚さを変えてしまうと、プラスチックの冷却にかかる時間が場所によって変わり、プラスチックに跡がついてしまう可能性が高くなります。

・パーティングラインを考える

金型にはオスとメスがあり、その間にプラスチックを注入して成形します。そのため、成型品にはオスとメスの合わせ目部分に「パーティングライン」と呼ばれる細い線がついてしまいます。この細い線は金型を使って成形する以上は避けられないため、製品デザインに落とし込む必要があります。

・直角を使ったデザインは避ける

金型から成型品を射出するためには、わずかな角度が必要になります。プラスチックのバケツが底部から上部にむかって少しずつ開くようなデザインになっているのはこのためです。もし成型品に直角のデザインを盛り込んでしまうと、通常の方法では金型から成型品を射出できなくなり、コストがかさみます。

上記の4点を踏まえた上でAir Gradientが設計した、屋内用空気質モニターのプラスチックケースが以下。



製品デザインを設計したら、今度は金型のメーカーを選定します。Air Gradientは長年の金型製作経験を持つエンジニアをコンサルタントとして雇用し、よりシンプルで安価な金型の設計や、金型メーカーの見積もりに対するコメント、金型のチェックや成型品のチェックを依頼したそうです。

中国の金型メーカーは、金型の製造とプラスチック部品の成型の両方を担当します。多くの場合は契約に金型の保証も含まれているため、何か問題が起きた時は無償で修理してくれるとのこと。そこで、まず最初に部品製造の数量ごとの価格を確認する必要があります。

また、製造した金型の所有者が不透明になることがよくあるので、金型の所有者が誰であるのかを契約時点ではっきりさせることが重要だそうです。Air Gradientは、金型メーカーとは金型の所有権と生産するプラスチック部品の数を決め、金型を他の生産ラインに回したい時には金型をどれくらいの金額で買い取るかをしっかりと契約時点で明確にしておくべきだとしています。

金型には溶かしたプラスチックを流し込みます。そのため、どのような経路でプラスチックが流れ込むのかをシミュレーションし、成型品にムラや反りが生まれないかをチェックする必要があります。



すべてをチェックすると、金型メーカーが金型の3D図面を作成します。これは金型だけではなく、冷却システムや押し出しピンなど、すべての部品が含まれます。金型メーカーはここでコストを節約しようとすることがあるそうですが、この行程を省略すると問題が発生しやすくなる上、あとから変更しようとするのは非常に困難でコストもかかってしまうため、この3D図面をコンサルタントと一緒にじっくり検討することが非常に重要。Air Gradientは「金型の3D図面の確認には時間とリソースを費やしてください」と述べています。



Air Gradientによると、上記の3D図面をチェックしてOKが出てから実際に金型が完成するまでだいたい1カ月ほどかかったとのこと。完成してから最初に成形されるサンプルは表面処理が施されず、「T0サンプル」と呼ばれます。

このT0サンプルは「寸法が正しいか」「パーツがしっかりと合うか」「ねじが回るか」「ひび割れがないか」「ヒケがないか」のチェックを徹底的に行います。一切の問題がなくなるまで、このT0サンプルのチェックを続けます。

続いて、表面処理を施すことも踏まえて本番環境に対応した「T1サンプル」を作成します。ここで表面処理が均一に適用されているか、色が要件と一致しているかを確認します。T1サンプルのチェックを終えれば、いよいよプラスチック部品の生産を開始できます。

最後にAir Gradientは、「中国の金型メーカーとは非常に良い経験をしたと思いますし、成型品の品質にも非常に満足しています。成功のために重要な要因のひとつは、ある決定を下す必要がある場合に備えて、独立した意見を持つことができる専門家を手元に置いておくことでしょう」と述べています。