一時はスマートフォン市場で2番目のシェアを誇っていた中国メーカーのHuaweiですが、アメリカの輸出規制によりそのシェアを大きく落とすこととなりました。しかし、Huaweiはアメリカの輸出規制を回避することに成功しつつあると報じられており、これにより再びAppleおよびiPhoneのライバルとしてスマートフォン市場に返り咲く可能性が報じられています。

US spy bureau NSA ‘hacked Huawei HQ’: China confirms Snowden leak | South China Morning Post

https://www.scmp.com/news/china/politics/article/3235174/us-spy-agency-nsa-hacked-huawei-hq-china-confirms-snowden-leak



Huawei makes processor breakthrough in flagship smartphone | Financial Times

https://www.ft.com/content/11f1c1a3-4ac4-4b2a-99cd-e347928dc51f

iPhone versus Huawei battle; US National Security Advisor speaks

https://9to5mac.com/2023/09/20/iphone-versus-huawei-battle/

Exclusive: Huawei unit ships Chinese-made surveillance chips in fresh comeback sign | Reuters

https://www.reuters.com/technology/huawei-unit-ships-chinese-made-surveillance-chips-fresh-comeback-sign-sources-2023-09-20/

Huawei's chip breakthrough poses new threat to Apple in China

https://www.cnbc.com/2023/09/19/huaweis-chip-breakthrough-poses-new-threat-to-apple-in-china.html

近年、アメリカはHuaweiやZTEといった中国のテクノロジーメーカーを「国家安全保障上の脅威」と指定しており、アメリカ企業からこれらの企業への製品輸出を規制しました。特にHuaweiにとって痛手だったのが、規制によりQualcommやBroadcomといった半導体メーカーから5Gモデムチップを購入できなくなったことでした。

一時は世界のスマートフォン市場でトップに肉薄していたHuaweiですが、5G対応の遅れによりハイエンドスマートフォン市場での売上は減少。その結果、2021年1月には世界のスマートフォン出荷台数ランキングでAppleの後塵を拝することとなりました。

Appleが世界のスマホ出荷台数ランキングでHuaweiを抜いて世界2位の座に返り咲く - GIGAZINE



そんな中、2023年8月30日になってHuaweiが新型スマートフォンの「Mate 60 Pro」を発表しました。Mate 60 Proには中国のチップメーカーであるSMICの7nmプロセスで製造された5Gモデムチップが搭載されているため、「Huaweiはアメリカ政府主導の輸出規制を克服しつつあるのでは」と報じられています。

Huawei最新スマホ「Mate 60 Pro」は7nmプロセスの5Gチップを搭載していることが判明、中国はアメリカ主導の厳しい輸出規制の回避に成功か - GIGAZINE



中国は半導体製造技術で厳しい規制を受けているため、7nmプロセスのような最先端のプロセスルールを用いたチップの製造・開発は困難だと考えられてきました。実際、アメリカのジーナ・レモンド商務長官は、「5Gに対応した高度なチップを搭載したスマートフォンをHuaweiが発表したことに驚きましたが、Huaweiが7nmプロセスのチップを大量生産できる証拠はありません」と言及、アメリカの商務省も「Kirin 9000s(Mate 60 Proに搭載されているチップ)はアメリカの半導体製造技術を使用して作られたに違いありません」と報告し、Mate 60 Proが中国完全製であるという主張に疑いの目を向けています。

Huaweiの新型スマホ「Mate 60 Pro」に搭載された7nmプロセスの5Gチップに対しアメリカ政府が「大量生産できる証拠はない」と指摘 - GIGAZINE



一方、経済紙のFinancial Timesは、Mate 60 Proに搭載されているSoCの「Kirin 9000s」には8つのCPUが搭載されており、このうち4つはスマートフォンの99%で採用されているArmのアーキテクチャを採用していると報じています。Kirin 9000sを分析した中国の技術企業・Geekerwanによると、他のCPUもArmベースではあるものの、Huawei独自の設計が施されている模様。



Kirin 9000sの設計・製造を担当しているのは、Huaweiの子会社である半導体企業のHiSiliconです。HiSiliconはKirin 9000sに独自のプロセッサコアを構築するためにArmのアーキテクチャを採用しており、「これによりアメリカの輸出規制を回避しながらハイエンドスマートフォンを製造するために必要となる柔軟性を得ている」とアナリストや業界関係者は言及しています。

Financial Timesは「Huaweiのチップ戦略はAppleの戦略を踏襲していることは明らかです。Appleは10年以上にわたりArmの基本アーキテクチャを改良して、iPhoneやMacの性能競争力を高めてきました」「半導体開発には複雑さと膨大なコスト、エンジニアリングリソースが必要となるため、このようなアプローチを採れる企業は限られています」と述べ、HuaweiがAppleのチップ戦略を踏襲してアメリカの輸出規制を回避しようとしていると指摘しました。

コンサルティング企業のSemiAnalysisで働く業界アナリストのディラン・パテル氏は、「Huaweiは自前の設計で海外企業に過度に依存しないチップ開発を行う突破口を開いた可能性があります」と言及。調査企業・Counterpoint Researchのアナリストであるブレイディ・ワン氏は、Huaweiがチップを独自に製造できるようになれば、特許ライセンス費用を削減し、既製品のチップを使用するライバル製品との差別化が可能になると指摘しています。

これらの報道を受け、Apple関連メディアの9to5Macは「AppleとHuaweiのスマートフォン市場における競争劇が再び巻き起こるようだ」と報じました。

以下はFinancial Timesが公開した、世界のスマートフォン市場における売上シェアをまとめたグラフ。Huaweiのシェアは2019年まで急増してきましたが、アメリカの輸出規制を受けたのちシェアの伸びは止まり、2021年からはシェアが急落しており、一時は20%を超えていたシェアが2023年までに半減しました。一方、Appleは2020年頃までは10%前後のシェアを維持していましたが、Huaweiがシェアを落としたタイミングから一気にシェアを伸ばし、2023年には20%近くにまでシェアを伸ばしています。



また、9to5Macは2023年にHuaweiのシェアが回復している点を挙げ、「2022年に入ってHuaweiのシェアが伸びを見せています。これはHuaweiがMate 60 Proの製造に成功したためだと思われます」と指摘しました。

この他、Huawei側は監視カメラ用の新しい中国製チップを出荷していると、ロイターにより報じられています。チップを出荷しているのはHuaweiの子会社であるHiSiliconで、同社製チップが2023年から監視カメラメーカーへ出荷されている模様。関係者によると、これはHuaweiによるアメリカによる輸出規制を回避するための新しい動きであるとのこと。

それに対して、アメリカ政府は2013年にエドワード・スノーデン氏がリークしたアメリカ国家安全保障局(NSA)によるHuaweiサーバーへのハッキングについて、2023年9月20日(水)になってようやくその事実を認めました。NSAが公開した報告書によると、NSAは内部のハッキングチームであるTAOを通じて中国から「重要なデータリソース」を盗もうとしており、報告書には「TAOが組織的かつプラットフォームベースの攻撃をHuaweiに対して繰り返し行った」と記されています。