妻の出産を夫が見守る立会い出産は、夫婦で命が生まれる瞬間に臨めるというメリットがある一方、産後セックスレスになる可能性があるなど、夫婦にとって難しい選択となります。オーストラリア・メルボルンの病院で、妻の分娩(ぶんべん)に立ち会った男性が、帝王切開を目の当たりにしたことで精神障害となり結婚生活も破綻してしまったとして、病院を提訴しました。

Man sues Melbourne hospital for $1 billion after watching wife’s c-section delivery | 7NEWS

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今回、出産に立ち会って精神障害になったとして病院を訴えたのは、オーストラリアのアニル・コプラ氏です。2018年1月20日、コプラ氏の妻はメルボルンのロイヤル・ウイメンズ病院で帝王切開により出産しました。

帝王切開とは、赤ちゃんが子宮から産道を通って産まれる「経腟分娩」が何らかの理由で難しいと判断された際、母親の腹部を切って赤ちゃんを取り出す手術のことです。事前の検査などから経腟分娩に適さないと判断され、前もって計画して行う「予定帝王切開」と、妊娠経過中やお産の進行中に何らかの理由で経腟分娩が不可能と判断された際の「緊急帝王切開」の2つがあります。

コプラ氏の妻の手術は無事成功し、元気な赤ちゃんが生まれましたが、コプラ氏は病院から出産の様子を見守るよう「推奨または許可」され、帝王切開の際に妻の臓器と血を見たことにより精神障害になってしまったと主張しています。



精神障害が原因で結婚生活が破綻したというコプラ氏は、心理的外傷に対する損害賠償金として10億オーストラリアドル(約950億円)を求めて病院を訴えました。

ビクトリア州最高裁判所に提出した文書の中でコプラ氏は、「病院が私に対して負っていた注意義務に違反したため、損害賠償を支払う義務があります」と述べました。

一方、ロイヤル・ウイメンズ病院はコプラ氏に対する注意義務があったことは認めましたが、それに違反したとする主張は否定しました。

そして、ビクトリア州最高裁判所のジェームズ・ゴードン判事は2023年9月の判決で、コプラ氏の訴えは「司法手続きの乱用」にあたるとして、請求を却下しました。



判決によると、法律では「重大な傷害」でない限り非経済的損失に対する損害賠償は認められていないとのこと。

裁判の一環として、コプラ氏は医学的検査を受けており、医療委員会から「請求で主張された請求者の傷害に起因する精神障害の程度は、基準を満たさない」と判定されていました。コプラ氏は委員会の調査結果に同意しなかったものの、異議を唱えるための文書は提出しませんでした。

ゴードン判事は、「私は、医療委員会の判定が持つ法的な意味について、『コプラ氏が非経済的損失に対する損害賠償を回復することは法律上不可能である』ということだと理解しています」と述べました。