平城・相楽ニュータウンは奈良県奈良市の平城地区と、京都府木津川市・相楽郡精華町の相楽地区にまたがる大規模な街。1972年のまちびらきから50年周年を迎えた“ニュータウン”の今と未来への課題をレポートしましょう。

近鉄京都線「高の原」駅とニュータウンの街並

平城・相楽ニュータウンエリアの特徴

平城・相楽ニュータウンはUR都市機構(東寺は日本住宅公団大阪支所)が開発した大規模ニュータウンです。奈良県(奈良市)と京都府(木津川市・精華町)にまたがる平城山(ならやま)丘陵に、面積613ha、人口約7万3000人の住宅都市を建設する計画として1972年に入居がスタートしました。街づくりのプランは、古都・奈良市内からの眺望にも配慮され、主要な尾根部を帯状の緑地として保全されています。

街の中心となる「高の原」の地名は万葉集に詠まれた高野原が由来とされ、ニュータウン内の地名にも右京(うきょう)、神功(じんぐう)、朱雀(すざく)、左京(さきょう)など平城京を連想させる名前が付けられています。

関西文化学術研究都市の一部に組み込まれる

1987年には「関西文化学術研究都市(学研都市)」構想が始動し、ニュータウンエリアもその一部に組み込まれることになります。ニュータウンと隣接する精華町の丘陵地区には民間企業の研究施設や国立国会図書館、けいはんなプラザなどの施設が広大な敷地のなかに建てられており、国家プロジェクトの一部として未来都市の印象も醸し出しています。平城・相楽ニュータウンは学研都市の中でも開発時期が最も古く、そして住宅を中心とした地区として位置づけられています。

学研都市の中心部にあり、ホテルなども整備された「けいはんなプラザ」(京都府相楽郡精華町)
国立国会図書館関西館(京都府相楽郡精華町)は登録をすることで個人でも利用ができる

現在は民間事業者が開発した佐保台地区も含め、平城・相楽ニュータウン全体で約1万8600世帯、約4万2800人(2022年12月末現在)が居住。2022年11月にまちびらきから50周年を迎えています。

ニュータウンの特徴と歴史

この街の最大の特徴は2府県3市町にまたがる街であること。たとえば、府県境に位置する高の原のイオンショッピングモールの大型駐車場内では、柱に「京都府」「奈良県」という標識が掲げられていいます。トンネルや峠を越える時には府県境標識を意識することもありますが、駐車場内に標識がある光景は珍しいでしょう。

高の原駅に隣接する大型ショッピングモール「イオンモール高の原」は、京都府と奈良県の府県境をまたぐ位置にある
「イオンモール高の原」の駐車場内の表示

ニュータウンの知名度は意外に低い

一方で奈良県側を平城ニュータウン、京都府側を相楽ニュータウンと呼ばれていることで、まち全体としては知名度が低いという課題もあげられています。住民に対するアンケートでは「平城・相楽ニュータウン」というまちの名称を知っている割合は75%。30歳代以下では約40%が知らないという結果も出ています。まち全体を巡るように歩行者専用道路が整備され、この街に暮らす住民にとって、日常的には府県境が意識されることが少ないのかもしれません。

参考元:平城・相楽ニュータウンパワーアップビジョン検討会議「調査検討報告」

ニュータウン全体を回遊できる歩行者専用歩道が整備されています

そのため、50周年をきっかけとして街の愛称を公募する活動を記念事業実行委員会が実施されました。1000通以上の応募のなかで最終的に選ばれたのは「高の原」。高の原駅前には2023年3月に記念碑が設けられています。

参考元:奈良新聞DIGITAL「まちの愛称「高の原」 記念碑完成祝う - 「平城・相楽ニュータウン」50周年記念事業」

記念碑はステンレス製で、銘盤は縦50センチ×横120センチ。「高の原」の文字は、地元の書家が担当されています

大阪、京都、そして奈良方面への快適アクセス

主要な交通機関としては近鉄京都線「高の原」駅からのアクセスが便利です。京都方面へは特急、急行が運行されているほか、京都市営地下鉄烏丸線との直通列車も運行され乗り換え無しに京都市中心部へもアクセスできます。奈良方面へも同様に特急や急行が停車し、大和西大寺で近鉄奈良線に乗り換えることで大阪方面への通勤も可能です。

近鉄京都線「高の原」駅。特急列車の一部も停車します
近鉄京都線は京都市営地下鉄とも直通運転が行われ、地下鉄の車両が走ることもあります

JR線「平城山(ならやま)」駅からは京都方面への区間快速が利用でき、早朝時間帯には学研都市線経由で西明石、新三田までの直通列車も運行されています。大阪方面へは大和路線の大和路快速が運行され、大阪環状線経由で大阪駅などへも直通運行が行われています。また2023年3月からJRおおさか東線の大阪駅までの直通運転が開始され、奈良方面からの利便性もさらにアップしています。

JR「平城山」駅からは大和路快速が運行され、大阪市内にも直通運転が行われています
JR「平城山」駅周辺ではマンション分譲も行われています

これらの路線を利用すれば大阪と京都、そして奈良方面への通勤が可能となり、ニュータウン居住者の勤務先としてはそれぞれの大都市へ通勤する人が約半数を占めています。

次の50年に向けた報告書が完成

ただ、高齢化と人口減少の波はこのエリアにも影響を及ぼしています。分譲一戸建て住宅の比率が高く、他のニュータウンと比較して公共賃貸住宅の比率が低いこともあり、将来に向けた街の活性化のために、奈良市、木津川市、精華町、都市再生機構(UR都市機構)、関西文化学術研究都市センター、関西文化学術研究都市推進機構の6者によって「平城・相楽ニュータウンパワーアップビジョン検討会議」立ちあがりました。2021年3月には報告書「平城+相楽 100つぎの50年に向けて」がまとめられ、課題の確認と街づくりの方向性の提案が行われています。

一戸建て住宅の比率が高いものの、分譲マンションの街区も存在しています
「平城+相楽 100つぎの50年に向けて」の表紙

高の原駅前の再整備計画が進行中

その中のひとつとしても掲げられているのが「高の原」駅前広場の再整備です。「高の原らしさと暮らしの魅力発信地」をコンセプトに掲げ、緑豊かな公園や緑道を生かした場づくりや、「働」「学」、「集」、「交わり」をキーワードに地元人材や企業が活躍し、つながる仕組みを構築することなどが計画されています。

現在の「高の原」駅前広場の様子
「駅前ワンストップ」を目指すリニューアルイメージ

2022年12月7日は、再整備後の高の原駅前広場での過ごし方を体感できる、社会実験「高の原びより」が開催されました。平城・相楽ニュータウンには様々な勤務地と職業を持つ住人がいることも特徴のひとつ。府県境を越えて、住民参加の機会と場所を増やすことで街自体に「多機能化」を進めて行く試みが始まっています。

社会実験「高の原びより」は多くの人でにぎわいました

緑豊かな空間を活用したトライアル・サウンディングを実施へ

また平城・相楽ニュータウンには街全体を巡るように整備された緑道があり、個性的な公園も存在しています。その資産を活用するかたちで、奈良市では一部の公園で公園の新しい使い方を発案・実践できる「トライアル・サウンディング」を活用し、民間主導による公園の活性化を計画しています。トライアル・サウンディングは公園の効果的な利活用の方法を探るため、暫定利用を希望する組織などからの提案を募集し、一定期間実際に使用してもらう制度です。

けいはんな線の延伸計画も提案が行われている

また平城・相楽ニュータウンの将来にも影響を与える計画として、近鉄けいはんな線の延伸計画も検討されています。精華町が中心になり2021年3月に発表されている報告書によると、近鉄けいはんな線の終点「学研奈良登美ヶ丘」駅から線路を延伸し、近鉄京都線の新祝園駅までを繋げる計画が立てられています。別ルート案として「高の原」駅までの延伸も比較されていますが、京都線との直通運転や経済的効果、建設費用などの点から新祝園ルートが優位とされています。ただ、擬態的な事業計画や事業主体が決まっている状況ではないので、将来の可能性のひとつとして注視しておきましょう。

出典元:京阪奈新線新祝園ルート延伸事業化調査(近鉄けいはんな線の延伸ルート案)
1985年にニュータウン事業の完成を記念した建てられた像