日本一小さい市「埼玉県蕨市」 県の学力調査で上位、独自の取り組みが話題のグローバルな街を現地取材
JR京浜東北線で東京駅から30分ほど。蕨駅西口で第二弾となる再開発がスタートしています。コンパクトな市ながら教育、子育てには力を入れており、子育て世帯には魅力的なまち、蕨市。これからどんな変化が起きるのかについて現地を見てきました。
全国の市のうちで最もコンパクトな蕨市
埼玉県蕨市は面積が5.11平方キロメートルと、全国の市の中ではもっともコンパクトな市。東京23区で一番小さい台東区が10.11平方キロメートルなので、その半分ほどと思えばおおよそのサイズ感はイメージできるのではないでしょうか。
川口市、さいたま市、戸田市の間に立地
立地するのは、埼玉県内では中央地域とされる県南東部。JR京浜東北線沿線で、都心からは約20キロ圏です。一駅東京寄りには西川口駅があり、一駅大宮寄りには南浦和駅があります。東京から電車で向かうと荒川を渡ったところに川口市があり、その隣が蕨市、そしてさいたま市となるわけです。
東京駅からだと電車での所要時間は30分ほど。市自体が非常にコンパクトであることを考えると、都心から1時間とかからずにわが家へ帰れそうです。
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蕨駅西口で第2弾となる再開発がスタート
その蕨駅西口で再開発が予定されています。
蕨駅西口は駅前に広場があり、再開発エリアはその東南側。現在予定されている第2工区のさらに東南側にはすでに完成した第1工区(蕨駅西口地区7番街区第一種市街地再開発事業)があり、約0.6ヘクタールの土地に地下1階、地上30階建ての住宅、店舗・業務施設や公共公益施設・蕨市立文化ホールなどが入ったくるるが完成しています。こちらは2006年度から2011年度に工事が行われていますから、それからで言えば少し時間が経ちました。
2棟のタワーに住宅、公共公益施設などを計画
第2工区では2014年に蕨駅西口地区市街地再開発準備組合が設立されており、再開発組合設立が認可されたのは2020年。2022年8月から工事が始まっています。
第2工区は約1.3ヘクタールあり、蕨の玄関口にふさわしい駅前広場の再整備を図り、公共公益施設や商業施設、都市型高層住宅が誕生する予定となっています。
市の広報誌によると建築される建物は2棟あり、1棟は地下1階、地上29階建て、もう1棟は地下1階、地上27階建て。駅前に3棟のタワーマンションが建ち並ぶことになり、このまちのランドマークとなることは間違いありません。予定されている住宅の戸数は415戸です。
図書館、行政センターに期待の声
期待されているのはB棟3階に入る予定の図書館、行政センターといった公共公益施設です。すでに完成している第1工区には旭町公民館などが入ったくるるが完成しており、再開発で誕生する図書館、行政センターなどがそろえば、駅前の利便性、魅力はぐんとアップします。
市の広報紙によると図書館、行政センターのコンセプトは「豊かなときを創るほっとプレイス」。新たな図書館には充実した閲覧・学習ゾーンや子どもエリア、カフェなどが作られるのだとか。
行政センターには、各種証明書の発行や転入・転出に伴う手続きができる窓口に加え、パスポートセンターも設置されるそうで、各種手続きが駅前で行えるようになります。しかも、再開発で生まれる公共施設は駅コンコースと直結となる計画とのこと。再開発エリアを貫くようにプロムナードも計画されており、その脇には広場も予定されています。竣工の予定は2026年度末です。
市役所、市立病院の建替えの予定も
さて、蕨市内ではまちの今後に向けて三大プロジェクトが動いており、西口再開発はそのひとつ。それ以外で現在、姿を現しつつあるのが市役所の建替えです。
完成間近の市役所
蕨は中山道の宿場町として江戸時代から栄えてきたまちで、駅から1キロメートルほど離れた場所にはそうした歴史を伝える一画があり、市役所はその近くにあります。建て替え前の市庁舎は1964年に建設されたもので、老朽化に加え、耐震基準を満たしていないという課題を抱えており、災害時には庁舎機能が失われることが懸念されてきました。
そのため、市では耐震化整備方針について検討を行い、最終的には現在地での建て替えを選択。2023年秋の供用開始を目指して建設が進められています。
2023年6月に取材で現地を訪れた時には建物はほぼ完成しており、あとは供用を待つばかりという状態。コンパクトで明るい雰囲気の建物でした。
市立病院の建て替え検討がスタート
もうひとつのプロジェクトは「超高齢社会に対応したまちづくり」で、その一環として市立病院の耐震化、老朽化対策があります。蕨市立病院は1970年に建てられており、かつての市役所同様、耐震に問題を抱えていました。検討を進めた結果、蕨市立病院施設整備検討委員会は2023年1月には既存施設での耐震化は難しいという判断に至り、これを受けて市では建て替える方針を決定しています。
着工は2027年度を予定
現時点では建て替えの手法について、(1)現在地で施設を段階的に解体して建築スペースを確保しながら建て替え、(2)外来機能を敷地外に一時移転して施設全体を一体的に建て替え、(3)あるいは別敷地への移転新築の3つのうちのいずれを選択するかを検討中。結論が出るのは2023年度中という予定です。
どの方法を取るにしても着工は2027年度を予定しており、移転新築であれば完成は翌年度とされています。
身近にすぐ見てくれる病院のある安心
3つの案のいずれの場合でも病床は130床で現在と変わらず、現行より広い病室となるほか、外来も現行の診療を継続することに加え、新興感染症などへの対応も計画しているとか。
現在でも内科と産婦人科は24時間365日、小児科は土・日曜、祝日の救急医療体制を確保しており、子どもの救急医療支援事業では市立病院が全体利用者の7割近くを受け持っているとのこと。近くに頼れる医療機関があるのは安心なことでしょう。
子育て、教育に手厚い施策
大きな変化が続く蕨市ですが、子育て支援、教育面でもここ10数年で変化が起きています。学校の耐震化、小学校35人学級の実施、教室・体育館へのエアコン設置、英語教育の充実などが進み、2023年度からは小中学校のトイレの改修が進んでいます。
県の学力テストで有数の成績
こうした取り組みなどが功を奏してか、県の学力調査(小学校4年生から中学3年生までが対象)では2022年度、中学校で2年生の国語が県内1位、英語が2位になるなど、すべての学年・教科で県内ベスト10に入っており、これは12市1町で構成する県の南部教育事務所管内では蕨市だけ。体力テストも同じ南部教育事務所管内で常に上位に入っており、子どもたちの育ちには良いまちと言えそうです。
給食費の限定無償化などもスタート
子育て関係ではこのところ、給食費の無償化が話題になっています。蕨市では2023年度に市立小中学校・保育園等の給食費のうち、4~7月分を無償化し、私立・市外の小中学校や幼稚園等に通う子どもの給食費は相当額を助成する方針となっています。今年度は限定的な無償化ですが、市長は全面的な無償化を目指すとしており、子育て世帯には動向が気になるところです。
ちなみに無償化では市内全ての家庭・事業所の水道基本料金も2023年度は4ヶ月分無料化されることになっており、一般家庭3,960円、店舗等の営業用4,400円の負担が軽減されます。
独自性のある施策もいろいろ
それ以外でも、2023年4月1日以降に生まれた新生児を対象に子育てファミリー応援給付金を1人あたり5,000円給付、全児童・生徒が使えるデジタルドリルを整備するなど、さまざまな取り組みも行われており、蕨市の独自性がうかがえます。
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市内を歩いてみて気づいたこと
最後に実際に市内を歩いてみての感想を紹介しましょう。ひとつはコンパクトなまちであることから、公共施設間などの距離が近く、また土地が平坦であることから移動がしやすいという点です。中山道などの幹線道路を除けばそれほど交通量が多くないことから、日常の移動には自転車利用が便利でしょう。
平坦でコミュニティバスもあり、移動が容易
また、市内4コースを回る「ぷらっとわらび」というコミュニティバスもあり、各コースの運行は1時間ごとですが、近いところを走るコースが2コースあります。また、停留所間が近いので上手に利用すればかなり便利。運賃は大人100円、小学生50円です。
公園、寺社など緑が豊富な環境
公園、寺社など緑が多かったのも印象的でした。江戸時代から栄えてきたまちですから、考えてみれば寺社が多いのは当然。広い敷地や荘厳な雰囲気にびっくりしました。
一方で南町の周辺など計画的に宅地開発が行われたエリアでは一定の距離を置いて公園が配されており、子どもの遊び場に不自由はなさそう。他の住宅街の中では並木のきれいな場所もあり、住宅地としての成熟度を感じました。
また、蕨市民公園のように噴水や遊具、ランニングコースがあったり、バーベキューができたりする場所もあります。個人的には静かな濃い緑の蕨城址公園が魅力的でした。
市内に商業施設が点在
買い物ではスーパーやドラッグストアが駅周辺のみならず、市内に点在しています。かつての中山道だった中山道本町通り周辺から駅にかけては断続的に商店街が続いており、中には江戸時代創業という古い店も。
建物は新しくなっていても、古くからあるのだろう酒屋や呉服店などもありました。
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進む、グローバル化も目につくところ
もうひとつ、外国の方が多いのも目につきました。交通、生活利便性の高さなどから蕨市の外国人人口は増加の一途を辿っており、市の多文化共生指針によると2021年6月1日現在で市内に在住する外国民住民は総人口の10%に及んでいるといいます。世界の56の国と地域からの人たちが住んでいるそうで、言葉通り、多文化共生のまち。グローバルという言葉が当たり前になりつつある現在、そうした環境で育つことはこれからの時代を生きるために役立つかもしれません。
歴史がある一方で国際化が進み、教育環境、医療環境にも特徴のあるまち、蕨市。歩いて回ってもそれほど時間はかかりません。一度、住むという視点で訪ねてみても良いのではないでしょうか。
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