海外研究者「タワマンは制限された監獄」なぜタワマンに住む人は成功者であっても、幸福ではないのか…自殺率の高さ、孤立感、伝染病の恐れ

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 連日、タワマンについての論評がメディアを賑わしているのは、現代日本におけるわかりやすい成功の証であるためであろう。しかし、元プレジデント編集長の小倉健一氏は、「海外の研究を見ると、タワマンに住む人は必ずしも幸福とは言えない」というーー。

タワマンは成功者の証ではあっても、幸福の象徴ではない

 スキマ時間をつかって、というか遅々として進まない原稿からの現実逃避で、iPhoneで「Cityscpes」というゲームをやってしまう。往年の人気ゲーム「シムシティ」のようなゲームで、自分が市長になって、道路を引いたり、住宅をつくったり、警察署をつくったりして、人口を増やしていくゲームだ。特に面白いわけでもないのに、時間は過ぎていく。時間を潰すにはもってこいのゲームといえる。

 今日、(原稿執筆の真っ最中ではあるが)最終ステージをクリアしかけているが、このゲームにおいて、住宅が発展すると街中にタワーマンションが濫立していくことになる。そうなると、近隣の道路は渋滞するし、公害もひどくなる。ゲームにおいてもタワーマンションは、「成功者の証」「都市発展の象徴」といえるものの「幸せの象徴」にはなっていないようだ。

それでも多くの人がタワマンを目指す理由は資産価値

 現実のタワーマンションにおいても、東京23区の役所の関係者から話を聞くに、孤独死やメンテナンスの問題を抱えたり、住民がマンション完成の瞬間に一斉に入居するので、行政側が対応をしきれないことが多いようだ。保育園、小学校、中学校…タワマンの近隣では、突然、子供が増えるのは、対応する側にとって大変だ。昔から、その近辺に住んでいた人にとっても、自分の近辺がいきなり人でごった返したり、住居がタワーマンションの陰になったりして怒りを感じる人もいるだろう。

 なにより、タワーマンションに住んでいる人のほうが金持ちの場合も多いであろうから、それだけでも腹が立つという人がいてもおかしくない。

 しかし、それでも多くの人はタワーマンションを目指す。読売新聞(2017年12月24日)によれば<超高層からの眺望。そしてホテルのような住空間や設備の数々。地方を中心に「空き家」の増加が問題となる中、都市部のタワマンは根強い人気を誇る。特に駅から近いタワマンは「資産価値が維持しやすく、値崩れしにくい」(不動産業界関係者)とされる。高層階の暮らしにあこがれる人も多いのではないか>という指摘もある。

インフルエンザの恐れ、孤立への恐れ、自殺率の増加などタワマンの弊害は多い

 批判的な記事や実際の入居者が困った話など、毎日のようにメディアを賑わしているようだが、今回は、高層住宅に住むことについての先行研究をご紹介したい。

 イギリス「臨床心理学フォーラム」(2018)に掲載されたR.ターナー氏らによる『高層居住が居住者にとっていかに有害かを認識すべき時だ』によると、以下のような実態があるのだという。

現在、世界中で何百万人もの人々が高層マンションに住んでいる。モスクワだけでも1万1783の高層タワーがあり、香港には7833、ソウルには7000以上の高層タワーがあり、その多くが居住用である。高層居住とメンタルヘルスとの関連を理解することは、世界中のタワーマンション居住者の幸福を守るために極めて重要である (高層ビルに住むと)ひとつのビルを共有する人数が非常に多いため、インフルエンザなどの伝染病による脅威も高まる可能性がある。インフルエンザは、ビルの廊下やドアの取っ手、エレベーターのボタンなどを何百人もの人が共有することで容易に蔓延する おそらく最も切実なのは、孤立への恐れだろう。イギリスの都市リーズで高齢者の社会的孤立を調査したところ、高層ビルの住人は孤独と孤立を感じており、中には玄関のドアを開けるのさえ怖いと言う人もいた

タワマンから戸建てに引っ越すと健康になるという研究結果。まるで制限された監獄のよう

 また、別の論文(『高層マンションと都市のメンタルヘルス-歴史と現代の視点』2019)では、このような研究結果もでているという。

「高層公営住宅の居住者が、他の高層建物とは対照的に戸建て(独立型)住宅に移転した場合、精神的健康が改善したことが示されている」

「アメリカのシカゴで行われたゴートロー・プログラムでは、3500世帯以上の家族が、高層ビルが立ち並ぶ貧困地域から他の高層ビルや郊外に無作為に移動し、縦断的な追跡調査が行われた。郊外に引っ越した100人の母親と子どもへの電話インタビューでは、高層ビルは「制限された監獄環境」のようなものだと感じており、引っ越した後は恐怖からの解放により新たな効力感を得ていることがわかった 。豊かな地域から社会経済的地位の低い地域に引っ越した後にうつ病が現れるという逆のケースも考えられる」

 同論文では、「高層ビルは人をおかしくする」と主張する建築学的研究のほとんどは古く、社会経済的な立場を考慮していないと述べているという先行研究も紹介されているが、実際に、日本においてもタワーマンションに対して異様な威圧感を受ける人は多いのではないだろうか。