特定の要件を満たすものを設計することは非常に高度な能力ですが、近年はAIを用いて新しい材料やタンパク質、コンピュータープログラムなどを設計できることが実証されています。新たに中国の研究チームが、オープンソースの命令セットアーキテクチャRISC-VのCPUを、人間より大幅に短時間でAIに設計させることに成功したと発表しました。

Pushing the Limits of Machine Design: Automated CPU Design with AI

https://doi.org/10.48550/arXiv.2306.12456



Chinese Researchers Used AI to Design RISC-V CPU in Under 5 Hours | Tom's Hardware

https://www.tomshardware.com/news/chinese-researchers-usedai-to-design-industrial-scale-risc-v-cpu-in-under-5-hours

研究チームは、高度なAIを用いて材料やコンピュータープログラムを作る能力はすでに実証されているものの、これらの対象を設計するための探索空間は比較的狭いため、「機械は人間のように設計ができるのか?」は未解決の問題だと指摘。そこで、「コンピューターの頭脳であり人類がこれまでに設計した世界で最も複雑なデバイスの1つ」であるCPUをAIに設計させることにしたと述べています。

AIにRISC-V CPUを自動設計させるため、研究チームは正式なプログラムコードの代わりに外部の入出力観測値のみを使用し、CPUの論理回路をBinary Speculation Diagram(BSD)というグラフ構造で生成させるというアプローチを採用しました。BSDを生成する際には、モンテカルロ法による展開とブール関数を用いて精度と効率を保証したとのこと。



実際にAIが自動設計したRISC-V CPUは65nmプロセスで製造され、最大300MHzで動作したと研究チームは報告しています。また、このCPUでLinux Kernel 5.15を使用してベンチマークテストのSPECint2000を実行し、どれほどの性能を発揮するのかも確かめられました。

研究チームが行ったベンチマークテストの結果が以下。中央にある「CPU-AI」が今回AIが設計したRISC-V CPUであり、1992年にホビーPC向けで登場したA3010をやや上回り、1991年に登場したi486SXと同程度の性能があることがわかります。



今回の研究において、AIはわずか5時間以内にCPUを自動設計することができました。これは、人間のチームが同等の作業を行った場合と比較して約1000倍も高速だったと研究チームは報告しています。

AIが開発したCPUが1991年に登場したCPUと同程度の性能しかないことについて、物足りない結果だと思う人もいるかもしれません。しかし、研究チームは入出力観測のみからCPUを開発したことは大きな成果であり、「私たちのアプローチはノイマン型に関する人間の知識を自律的に発見できることを示しました」とコメント。AIを使用してCPUの設計サイクルを大幅に短縮し、半導体業界を変革する可能性があると主張しました。