「一度はラグビーを辞めようと思った」リーチ マイケルがワールドカップイヤーに完全復活「日本代表は今、歴代1位の強さ」
ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<07>
リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)前編
ボールを持った瞬間、観客席から一斉に「リーチ!」という掛け声が飛ぶのは、もはやスタジアムの定番となった。
FL(フランカー)/No.8(ナンバーエイト)リーチ マイケル、34歳──。
父がスコットランド系ニュージーランド人で、母がフィジー人。15歳で来日し、大和魂を持つラグビー選手だ。東海大時代から日本代表の一員となり、ワールドカップにも過去3度出場するなど、まさに"日本ラグビー界の顔"のひとりである。
ベテランの域になった今季も、タックルやボールキャリーで縦横無尽にピッチを駆け巡り、リーグワンでも突出した活躍を見せた。ケガによる不調の時期を脱し、4度目のワールドカップ出場を目指すリーチは、フランスでの本大会まで100日を切った今、何を思うのか──。
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リーチ マイケル●1988年10月7日生まれ・ニュージーランド出身
── 所属する東芝ブレイブルーパス東京は、残念ながら今シーズン5位でプレーオフに進出できませんでした。しかし、リーチ選手はボールキャリー数でリーグトップの196回を記録するなど、絶好調なシーズンを送りました。
「今季はよりトレーニングやフィットネスをハードワークしました。歳を取ると、いろんなものを制限して体をセーブする、というのが基本的な流れですけど、そうじゃなくてもう1回(体を)作り上げるために、今までやっていた量の倍ぐらいやりました!」
── ケガでずっと悩んでいた股関節の痛みはよくなりました?
「股関節が痛かった時は、100%のスピードが出せなくて、左ひざも痛かったです。でも、今は股関節もひざもよくなって、痛いところがなくなってよかった。今までケガで手術したのは12カ所。指だったり、手首だったり......全部骨折ですね(苦笑)」
── 昨秋の日本代表合宿で話を聞いた時、リーチ選手は「北九州に行って(体調が)100%になった」と言っていました。
「北九州に(股関節治療専門の)先生がいて、その人に治してもらったんです。でも、2年ぐらいかかった。(コロナ禍により)途中で終わった2020年のトップリーグではかなり体調が悪く、2021年6月の(ブリティッシュ&アイリッシュ)ライオンズ戦の頃は最悪でした。だから、日本代表にいたくなかった」
── 34歳になりましたが、体調が戻ったことで逆にパフォーマンスは上がっている?
「はい。言い訳をせずに体を作り上げたので(パフォーマンスは)上がっています。2020年の時は一度、ラグビーを辞めようと思った。(痛みが続いていたら)今年の日本代表(2023年W杯)をやって終わりにしよう、引退しようと思っていました」
── そこまで思っていたとは驚きです。今は引退しようと思っていない?
「はい、もう1年、やります。とりあえず(ワールドカップ後に)東芝ブレイブルーパス東京でもう1年やってから(その時に今後のことは)考えます」
── 日本代表候補の選手たちは、リーグワンのシーズン中からコーチ陣とオンラインミーティングをやっている影響か、みんなパフォーマンスがよかったですね。
「ワールドカップがあるからじゃないですかね。あと、日本代表のコーチ陣から個人的にフィードバックも受けているからだと思います。僕はLO(ロック)ワーナー・ディアンズ(東芝ブレイブルーパス東京)と一緒にジェイミー(・ジョセフHC)が担当してくれていました。
── 2019年の日本大会では史上初めて、日本代表がベスト8に入りました。今回のフランス大会でもベスト8、さらにそれ以上を狙うには、なにが大事になってくると思いますか?
「大事なことは3つ。規律と自分たちの強みをどれだけ出すことができるか。勢いがある時、勢いがない時にどういう判断していくか。そして、どのようにゲームコントロールしていくか。特にリーダー陣には、これらを判断する重要な役割があります」
── 2019年ワールドカップ前と同じく、なかなか格上に勝つことができていない現状に関してはどう思っていますか。この4年間は、コロナ禍の影響もありました。
「4年前とチームは変わったし、新しい選手も出てきた。ただ、オーストラリア代表、フランス代表、そしてオールブラックス戦では、すごく一瞬(の小さな隙)のところで負けた。それ以外では勝負ができている。その部分を仕上げれば、勝ちにつながるんじゃないかと思っています」
── 2019年ワールドカップ時と比べて、今の日本代表はどのあたりが強くなっていると思いますか?
「選手層が厚くなった。CTB(センター)ディラン・ライリー(埼玉ワイルドナイツ)のようなデカいバックスが入ってきて、LO/FLジャック・コーネルセン(埼玉ワイルドナイツ)やワーナーといったセカンドローの存在も大きい。
ポテンシャル、馬力のある選手がすごく増えてきた。それが一番、チームとしてレベルアップできているところかな。(ラグビー面では)キック(を使うところ)は同じですが、2019年にやっていたラグビーにプラスアルファを加えている感じですね」
── 日本代表で注目している若手は?
「やっぱり、ワーナーですね! あと、CTBニコラス・マクカラン(東芝ブレイブルーパス東京)はまだキャップを取っていないけど、代表合宿にも呼ばれました。ニコラスはまだまだバケると思うから、もう少し鍛えないといけないですね(笑)」
── ワールドカップの予選プールで戦うチリ代表、イングランド代表、サモア代表、アルゼンチン代表、それぞれの印象をお願いします。
「チリ代表はスクラムが強い。頑丈でデカいファイターが多く、セットプレーにフォーカスしてくるチームかと思います。 前回大会と同じで、彼らが予選プールで勝つなら日本代表戦だと思っているだろうから、しっかりと戦いたい。
イングランド代表はエディー・ジョーンズ(現オーストラリア代表HC)からスティーブ・ボーズウィック(元・日本代表FWコーチ)に指揮官が替わった。いい時はすごくいいけど、ちょっと崩れた時に一気に崩れるチームという印象もある。ただ、フォワードの強さ、バックスのデカさ、セットプレーやハイボールレベルの高さは侮れない。
サモア代表とは7月のパシフィックネーションズシリーズで日本代表と対戦(7月22日@札幌)するが、おそらくこの時に戦うチームとワールドカップでぶつかるサモア代表は違うチーム。でも、ベースのラグビーは同じで、フィジカルやスキルといった個人技でやってくる。
サモア代表で一番怖いのは、なにを仕掛けてくるのかわからないところ。ワールドカップに向けて、新たにどんな選手が入ってくるのか。元オールブラックスなど世界のトップ選手が集まる可能性もあるから、今回のワールドカップではサモア代表とやるのが一番怖い。
アルゼンチン代表はディフェンスのチーム。どんどんボールを蹴って守ってくる。フォワードはデカく、スクラムが強く、バックスのランニングスキルもすごく高い。勝つためにはリーダーの判断、ゲームマネジメントがカギとなる。たとえば、スクラムに負けた時、勝っている時どうするのか、キックオフレシーブの判断もカギになってくると思います」
── 前回と同様に、予選プールで4連勝した勢いで決勝トーナメント、というイメージ?
「はい、もちろん! 全試合に勝っていくプランニングもしています。まずは1戦目(チリ代表戦)に勝って、2戦目(イングランド代表戦)から3戦目(サモア代表戦)、そして4戦目(アルゼンチン代表戦)につなげていきたい」
── 決勝トーナメントに進出できれば、準々決勝でエディー・ジョーンズHCの率いるオーストラリア代表と対戦するかもしれませんね。
「その可能性も出てきましたね。でも、まずは(予選プールで)全勝したいです!」
── ただし、海外で開催されたワールドカップで日本代表は、まだベスト8に進出したことがありません。
「ファンの力はかなり大きい。2019年の日本大会の時、ファンが自分たちの背中を押してくれて助かった部分はたくさんあった。
フランス人は、母国チームの次に好きなチームは日本代表だと思う。昨秋にフランスで試合をやった時、僕らのやっているラグビーが好きだったようで、フランス国内に日本代表ファンが相当いるのを感じました。特にイングランド代表戦では、日本代表を応援してくれるはず(笑)。そういったファンを味方につけないといけない」
── 今回も日本代表メンバーに選ばれれば、自身4度目のワールドカップになります。
「日本代表は今、歴代のなかで1番強いと思う。個人的にも調子が上がってきたので、世界のトップレベルでどのくらいできるのか、それが一番楽しみです!
日本代表は世界でもっとも面白いラグビーをしていると思う。だから、それをワールドカップの舞台で見せることができれば、本当にうれしいですね」
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【profile】
リーチ マイケル
1988年10月7日生まれ、ニュージーランド・クライストチャーチ出身。15歳で来日して北海道・札幌山の手高校に入学。東海大学を経て2011年に東芝ブレイブルーパス(現・東芝ブレイブルーパス東京)に加入する。日本代表歴は2008年11月のアメリカ戦で初キャップを獲得。2013年に帰化。2014年から2021年まで日本代表キャプテンを務め、ワールドカップは2011年・2015年・2019年と3度出場。ポジション=FLフランカー、No.8ナンバーエイト。身長189cm、体重113kg。