高校・大学も強豪校ではなく自身もほぼ無名の存在から…今村佳太という「新しいエース」が琉球ゴールデンキングスをBリーグ優勝に導いた
今シーズン、自他ともに"エース"を背負ってきた男は、従来のエース像とは少し違った形で琉球ゴールデンキングスをBリーグで初の優勝へと導いた。
5月28日、Bリーグファイナル第2戦に臨んだ琉球は、レギュラーシーズンで史上最高勝率の53勝7敗(8割8分3厘)の成績を残した千葉ジェッツを88-73で下し、昨年は同じ舞台に立ちながらも手からすり抜けた王座を射止めた。
優勝後のシャンパンファイトで盛り上がる今村佳太(左)と渡邉飛勇(右)
宇都宮がセレモニーで優勝トロフィーを掲げる様を、今村佳太は退場せずにコートサイドにとどまって見届けた。その光景を目に焼きつけて、次シーズンでの捲土重来を期するための燃料を蓄えるかのように――。
それからちょうど1年。前年の悔しさを糧にしてきた27歳は、ファイナルという必ずしもレギュラーシーズンで強かったチームがすんなり勝てるわけではない、ある種の魔物を振り払い、セレモニーの壇上で満面の笑顔を見せながら仲間たちと喜んだ。
「去年のシーズンも今年も我慢という言葉を使い続けていたんですけど、ファイナルの舞台は本当にそれだけじゃ勝てないっていうのはわかっていました。千葉が自分たちをこの舞台でも成長させてくれたと思っているので感謝をしていますし、『(一方で優勝を)奪い取るという気持ちでいく』というのが、今まで琉球ゴールデンキングスがチャンピオンになれなかった要因のひとつだったのかなと思います」
今シーズンは、前年にまして桶谷HCを含めた周囲からエースと呼ばれるようになった。リーグのベストファイブに選出されたドウェイン・エバンスが広島ドラゴンフライズへ移籍したこともあり、オフェンスではファーストオプションとしてプレーすることが増えた。ディフェンスでも相手が嫌がる守り方を意識し、レベルを上げた。
今回のチャンピオンシップでも、今村が真にチームの中心になったことを明確に示す場面が幾度かあった。クォーターファイナルの名古屋ダイヤモンドドルフィンズとの初戦では、試合時間残り30秒強に1対1からレッグスルーからの3Pをねじ込み勝利を手繰り寄せた。ファイナル第1戦では2度目の延長で3P、ドライブインからのフローター、レイアップを決めた。まさにエースたるプレーぶりだった。ファイナル初戦を96-93で勝利を収めたあと、今村はこのように語っている。
「試合をとおして、なかなか乗り切れない試合でフラストレーションもたまりましたが、去年のファイナルでのあの光景を絶対に見たくないと思っていました。この(ファイナル)ゲーム1に勝つことの大きさは誰よりも重く考えてやってきたので、とくに(最初の)延長の時は自分がシュートを打たないといけないときに(相手に奪われる)パスをして『このままでは終われない』と思っていましたし、明日もそのつもりでやっていきたいです」
今シーズン、チームはスキルコーチを招聘し、今村もドリブルなどのスキルを向上させ、自らの得点だけでなくアシストパスの精度にも磨きをかけ、より高いレベルでオールラウンドなプレーができる選手となった。
琉球は桶谷HCの指揮の下、タレントよりもチームとしての戦い方に重きを置いてきた。千葉もベンチ層の厚いチームではあるものの、ファイナルでは琉球のディフェンス戦略の前に富樫勇樹ら数名の中心選手のみの得点に抑えた。一方、琉球はより多くの選手が伏兵となって要所でシュートを決めるなど、活躍。それは、琉球の先発以外の選手たちによる得点が2試合の合計で90点だったのに対して、千葉はわずか21点だったことでも示された。チャンピオンシップ(CS)とファイナルの最優秀選手が、アレン・ダーラムとコー・フリッピンというベンチから出てくる選手たちがそれぞれ選ばれたこともまた、このチームにはヒーローとなれる者がいたるところにいることを表していた。
そうした集団として戦うカルチャーのある琉球で、今村がエースといういわば個の称号を与えられていることは、なかば相反するところがあるようにも感じられるが、彼に対してこめられた意味は従来からの絶対的スコアラーといったものではない。
例えば、上述したようにスキルが上がったことで、中へ切れ込むと相手ディフェンダーが寄ってくる。自身による得点は難しくなる反面、パスをさばいて味方を生かすことはできる。今村は「より周りを巻き込んで」という言葉を何度も使ってきたが、どのような形でも自身が起点となってチームに対して効果的な働きをすることでエースの責務を果たすことこそが、琉球における彼の「エース像」なのだ。
数字を見ると、レギュラーシーズンの平均11.3得点は前年からわずか0.8点上がったにすぎない。チャンピオンシップ(CS)での同14.2点は、昨年の16点を下回っている。ところが、総得点におけるフリースローやペイント内での得点が占める割合といった詳細まで見ると、レギュラーシーズンでもポストシーズンでも総じて上がっている。これは今村がよりリングへアタックする場面が増えたことの証といえよう。
あらためて、エースとしての自覚、覚悟はいつから固まったのかと問うと、今村はこのように答えた。
「誰よりも勝ちたいという気持ちがあるのは自分だと思っていますが、"エース"は言葉でしかなくて、チームメートが僕に任せてくれたり、スタッフが最後の場面でボールを渡す指示をしてくれたり、そういうものの積み重ねが結果的に今(そう呼ばれるようになっていること)につながっていると思います。(去年のファイナルで)負けたというのが自分の中では本当に大きくて、今シーズンは絶対に自分が優勝に導くというのは最初から決めていたので、そこから覚悟を決めました」
琉球在籍4年目で今シーズン、チームのトップスコアラー(16.4点)となったジャック・クーリーはファイナル終了後、今村についてこのように話している。
「これはいろんな取材でも言ってきたことなんだけど、僕は佳太がベストな日本人選手だと思っているし、彼とプレーができてとても恵まれていると感じているよ。彼のディフェンス力と得点能力に比肩する選手は、このリーグに多くない。だから僕は彼が『エース』だって呼ばれることには何も問題はないよ」
今村らガード陣が速攻時などに躊躇なく3Pを打ち、勇気を持ってドライブすることができるのはこのビッグマンの存在も大きいと感じた。
「今、プレーしていて、自分がチームを優勝に導ける選手だなという自信もありますし、それだけのシーズンを送ってきたと思っています」
横浜ビー・コルセアーズとのセミファイナルを制した後、今村はケレン味のない口調でそう語った。
高校も大学も強豪校にいたわけでもなく、自身も無名に近い存在だった。
そんな男が、前年の悔しさを成長への糧として日本一のチームの"エース"となった。