真っ向勝負──今秋のドラフトで世代ナンバーワン左腕と評される大阪桐蔭の前田悠伍と並び、上位指名候補として注目を集めているのが、左腕から最速152キロを投げる享栄の東松快征(とうまつ・かいせい)だ。

 その言葉どおり、身長178センチ、体重92キロの堂々とした体躯から力強い快速球を捕手のミット目がけて投げ込む。その迫力は、高校生のレベルをはるかに超えている。


最速152キロを誇る享栄のエース・東松快征

【大阪桐蔭・前田悠伍と双璧】

 今年4月上旬に行なわれたU18日本代表候補強化合宿2日目の紅白戦で、東松は前田と3イニングずつを投げ合った。しなやかさと抜群の制球力、キレで完成度の高さを見せた前田に対し、東松はスピードで勝負。互いにヒットを数本許したが、勝負どころですばらしい決め球を披露。高校生トップレベルの両左腕の投げ合いに、詰めかけた12球団46人のスカウトたちからも高い評価を得た。

「前田くんとは今まで面識はなかったですが、勝手にライバル視していました。でも、会ってみるとすごくやさしくてフレンドリー。彼が得意としている変化球をどういう意識で投げているのかも聞くことができました。ボールの握りについてもアドバイスをもらい、早速試してみたら、翌日からかなりの確率でマスターできました。6月に大阪桐蔭と練習試合が予定されているので、『その時にもう一回投げ合いたいね』と約束しました」

 激戦区の愛知で甲子園切符を手にするのは並大抵ではない。なかでも長年のライバルである東邦には、1年生大会の決勝、2年夏の準決勝、昨年秋も準決勝と、3回続けて負けている。

 そんなこともあって、大藤敏行監督は東松に瞬発力、加速度、パワーの向上、関節可動域の拡大を目的に初動負荷トレーニングを課した。父親が重量挙げの日本チャンピオンだったこともあり、自宅にはバーベルなどの器具が揃っていた。東松は高校入学時からトレーニングに励み、今ではスクワット150キロ、デッドリフト210キロまで持ち上げられるようになった。

 食トレも欠かさず、母親がつくってくれるごはんのおかげで10キロ近く体重が増えた。力強いがっしりした体ができあがり、同時にフォーム改造にも踏みきった。大藤監督がその成果について語る。

「動作解析でチェックしたら、かつぎ投げをするところがあったので、打者に見づらいフォームにしようということで取り組んできました。今まで振りかぶっていたフォームをやめて、セットからシンプルに無駄な動きをなくして投げる。ゆったりしたフォームから驚くような速い球がきたら打者はびっくりする。今はしっかりフォームができあがれば、コントロールもよくなると教えています」

【プロスカウトが語る変化】

 そして大藤監督は、東松への期待を口にする。

「自分が納得いかないと動かない子なので......。今年に入ってからは、智辯和歌山、健大高崎、敦賀気比などの強豪校相手に好投を続けています。本人も満足しているようなので、ここままいけるのではないでしょうか。

 東松を中学時代に見た時、日本一の投手になれると思いました。絶対に甲子園に行って、私に二度目の胴上げ(中京大中京の監督として2009年夏に全国制覇)をするんだと言ってくれています。うれしい限りですが、それだけ素質のある子なんです。とにかくひたむきな性格で、打者に向かっている。最後の夏ですから、やってくれると思っています」

 東松を見つづけているDeNAの中川大志スカウトは、フォーム改造についてこう見ている。

「これまではどちらかと言うと力だけで投げていたが、改造してからはフォームのバランスがよくなりました。昨年の夏に比べると、今年は体の上下動がなくなり、目線がぶれないようになってきた。リリースも安定して放れるようになって、体の強さをしっかりボールに伝えることができている。順調に成長していますね。彼のスピードボールは大きな魅力。力強さは、高校生のなかではトップクラスでしょう」

 いよいよ高校生活、最後の夏が始まろうとしている。東松はこんな目標と夢を掲げる。

「自分はしなやかさよりもドーンといくタイプ。ピッチングも真っすぐが基本です。そこにカーブ、スライダー、フォーク、ツーシームと、カットボール気味の高速スライダーがあります。とくに高速スライダーとフォークは、もっとコントロールをつけたいです。夏に向けて勝てる投手になりたいです。ドラフトまではとにかくケガをしないように、しっかり体づくりをしていきたいです。夢は甲子園で日本一になって、U18のエースになって日本を世界一にする。夏までに157キロを投げて、ドラフト1位で競合指名」

 夢の実現に向けて、東松は懸命に格闘している。