世界の左ウイング歴代ベスト20(3)

 オランダ5人、ブラジル3人、アルゼンチン、イングランド、ウェールズ各2人、オーストラリア、ドイツ、ポルトガル、ポーランド、デンマーク、フランス各1人。今回、選んだ左ウイング歴代ベスト20名の内訳だ。

 オランダ人選手の多さが際立つ。オランダ代表、さらにアヤックスをはじめとする同国のクラブサッカーは、世界の流行とは一線を画すように、常時4−3−3や3−4−3を採用。「5人」はウイング付きの布陣がもたらした産物と言える。

 その影響を最も受けたのがスペイン。クライフ思想に染まるバルセロナ経由で、ウイングありきの布陣はスペイン全土に広がった。だが、ここに挙げた20人の中にスペイン人選手の名前はない。絞り出せば、ビセンテ・ロドリゲス(元バレンシア)、ルーケ(元デポルティーボ・ラ・コルーニャ)、ペドロ(元バルセロナ)といった名前は出てくるが、いずれも20位台がせいぜいだろう。代わりにスペインリーグでその役を担っていたのは外国人選手だった。中盤選手過多。その一方でウイングに人材が不足するというアンバランスは、スペイン代表に端的に表れていた。

 イタリア人も0だ。右ウイングのベスト20ならブルーノ・コンティ(元ローマ)が候補に挙げられるが、左は苦しい。ウイング文化が乏しい国。ウイング付きの布陣を見かける頻度はいまなお低い。

 日本も、しばらく前までイタリア的でありスペイン的だった。代表チーム、Jリーグともウイング不在のイタリア的な布陣が幅を利かせていた。欧州の流行に遅れること10年。ようやく4−2−3−1が入ってきても、ウイングに相応しい人材がいないため、その3の左には遠藤保仁が起用されることもあった。オシムジャパンの頃の話だが、中盤過多で、ウイングつきの布陣を採用してもそれに相応しい人材がいない状況は、スペイン代表と酷似していた。

 それからおよそ15年。少なくともいまイタリア代表、スペイン代表に三笘薫を超える左ウイングはいない。中盤過多から、ウイングに人材が集まり始めた日本。日本人がウインガーとしての適性が高い国民にさえ見えてきた。20年後に同じ企画をしたとき、日本人選手がこのなかにランクインしている可能性は高いと見る。

【最強左ウイングの泣きどころ】

【10位】クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)=右利き

 右ウイングもこなしたが、左ウイング、センターフォワード(1トップ)が多かった。左か真ん中か。マンチェスター・ユナイテッドの一員としてバルセロナと対戦した2008−09シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝では、国内リーグとは異なり、4−3−3の1トップとして出場した。


現在はアル・ナスル(サウジアラビア)に所属するクリスティアーノ・ロナウド

 対するバルサのリオネル・メッシも同様。右ウイングから1トップにポジションを変えて臨んだ。攻撃はいいが守備に問題を抱える両スーパースターを、アレックス・ファーガソン、ジュゼップ・グアルディオラ両監督は、CL決勝という大一番に、ウイングではなく1トップとして起用した。相手のサイドバック(SB)とセンターバック(CB)。攻め上がりを警戒すべきはSBになるからだ。

 1−0のバルサリードで迎えた後半21分、ファーガソンは攻撃強化のためディミタール・ベルバトフを投入。1トップに据えた。ロナウドはそれまでパク・チソンが務めていた左ウイングに回った。その守備面がなにより心配された。対峙するのはバルサの右SBカルレス・プジョル。そのわずか4分後のことだった。マンUのGKエドウィン・ファン・デル・サールからのゴールキックがロナウドめがけて蹴り込まれる。だがボールは競りかけたプジョルにこぼれる。ロナウドに奪い返そうとする姿勢はない。

 プジョルから右ウイング、サミュエル・エトーにボールが渡ったその2つ先のプレーでバルサに追加点が生まれた。エトーのクロスの跳ね返りをシャビ・エルナンデスが入れ直す。そのクロスがメッシのヘディング弾につながるアシストとなった。世界最強の左ウイングの泣きどころが露呈した瞬間だった。

【9位】クラウディオ・ロペス(アルゼンチン)=左利き

 最も印象深いのは1999−20シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)だ。伏兵バレンシアの切り込み隊長としてチームを牽引。クラブ史上初の決勝進出に導いた。準々決勝のラツィオ戦、準決勝のバルセロナ戦は、採点するならば9以上だった。両チームともクラウディオ・ロペスにやられたと言っても大袈裟ではない。ラツィオは当時、欧州の強豪だったので、2試合連続番狂わせの立役者になったわけだ。

【Jリーグでもプレーした名ウインガー】

 左利きの選手は一般的に、進行方向が読みやすいと言われる。格闘技で言うところの半身(はんみ)の体勢から、おおよそ左足1本でプレーするからだが、クラウディオ・ロペスは変幻自在だ。低重心のフォームから両足を車輪のように滑らかに回転させ、右方向にも左方向にも鋭い角度で突き進む。ライン際を突いて出てもよし、切れ込んでもよし。ゴールにさまざまな角度から迫れるので得点力もある。2トップの一角としても持ち味を発揮する。

 クラウディオ・ロペスは翌シーズン、ラツィオへ移籍。活躍が相手の目に止まり、引き抜かれた格好だ。一方、バレンシアは翌シーズンもCL決勝に進出してバイエルンと対戦。延長PK戦で2シーズン連続涙を飲んだ。クラウディオ・ロペスがそこにいれば、結果は違っていたはずである。

【8位】ミカエル・ラウドルップ(デンマーク)=右利き

 ラツィオ、ユベントスを経てバルセロナへ。ヨハン・クライフが監督の座に就いた翌シーズン(1989−90)の話だ。ウイングプレーを好むクライフサッカーの申し子として活躍した。左ウイングには左利きを、右ウイングには右利きを置くのが当時の定番だったが、クライフは右利きのミカエル・ラウドルップを左に、左利きのフリスト・ストイチコフを右に配置。いまでは多数派を占めるこの左右の関係が浸透していくきっかけになった。

 グングン加速していくドリブルは、さながらスポーツカーだ。弟のブライアンにも言えることだが、搭載しているエンジンが違うという感じだ。スピードが出てもバランスが崩れない。ボールコントロールも乱れない。安定感を感じるドリブラーだ。

 1993−94シーズン、ロマーリオがバルサ入りし、外国人選手がロナルト・クーマンを含めて4人になると、外国人枠が当時は3人だったため、ミカエル・ラウドルップの出番は、この4人のなかで一番減少した。すると翌シーズン、レアル・マドリードへいわゆる"禁断の移籍"を果たした。そこで2シーズン過ごした後、ヴィッセル神戸にやってきた。ここで挙げるベスト20人のなかで、Jリーグでプレー経験があるのは、ミカエル・ラウドルップの他にはポドルスキ(17位)に限られる。

【7位】ガレス・ベイル(ウェールズ)=左利き

 ウェールズ代表の左利きの左ウイングと言えば、ライアン・ギグスをまず想起する。ボールを足下に置き、細かなタッチで相手の逆を突きながら技巧的なドリブルを魅せるギグスに対し、ベイルは直線的で推進力に溢れていた。身体もギグスよりふた回りほど大きく、がっしりとした体型から繰り出すドリブルは戦車を連想させる迫力があった。

 サウサンプトンでデビューした当時は左サイドバックで、低い位置からグイグイと数十メートルドリブルで持ち運び、16歳とは思えぬパワフルなクロスを蹴り込んでいた。トッテナム・ホットスパーを経てレアル・マドリード入りしたのは2013−14シーズン。カリム・ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウドと形成した3トップはBBCと命名され、一世を風靡した。

 右より左のほうが、居心地がよさそうだったクリスティアーノ・ロナウド。CF役のベンゼマも同様に左のほうが得意だったため、ベイルは必然的に右に回ることが多かった。内より縦に行くのが得意で、右足キックが得意ではないベイルが、BBCのなかで最も輝けなかった理由と考える。CL決勝には2013−14シーズン以降、5年間で4度出場しているが、後半の2回はベンチスタートだった。ウェールズ代表としてはユーロ2016で真髄を発揮。中心選手として制限なく動き回り、小国をベスト4に導いた。
(つづく)