関本賢太郎から見た好調・阪神の岡田彰布監督の采配 優しい投手起用、「勝負勘」も冴える
関本賢太郎が語る好調・阪神 前編
岡田彰布監督について
セ・リーグの首位を走る阪神。5月は14勝4敗(5月24日時点。以下同)と、さらに勢いが増している。そのチームを指揮する岡田彰布監督の采配は、かつての"教え子"にどう見えているのか。
第一次政権時(2004〜2008年)に複数のポジションを守れる内野手として、リーグ優勝に貢献するなど活躍した関本賢太郎氏に、岡田監督の選手起用や采配について聞いた。
ベンチで明るい表情が多い岡田監督
――チーム好調の主な要因を挙げるとしたら何ですか?
関本賢太郎(以下:関本) まず、先発ピッチャー陣が盤石です。打線は水モノですが、今の阪神は打線の状態がいい時は余裕を持って勝つし、状態が悪い時は投手力で勝っている、という印象です。
阪神が試合の中盤でリードしている場合、相手チームの先発ピッチャーのほうが早く代打を送られて交代となりますよね。その代打を出したタイミングで逆転できればいいですが、できなかった場合は、相手チームはいわゆる"勝ちパターン"ではないピッチャーをつぎ込むことが多くなります。
そうなると、阪神の小さいリードが大きくなって、そのまま阪神のペースで試合が終わっていく。今のチーム状態であれば、先発ピッチャーがノックアウトされない限り、まず負けることないでしょう。ただ、ノックアウトを食らうようなピッチャーがいないんですけどね。
――岡田監督の、リリーフ陣の起用法についてはいかがですか?
関本 ひとりの投手に3連投はさせていませんよね。最近では、9回が岩崎優投手ということだけが決まっている。先発ピッチャーは6回、7回まで投げてくれるので、ピッチャーをそこまで使わずに済み、4人以内で終わることが多いです。連勝中は、けっこうピッチャー陣に負担がかかるものですが、そういうこともなく"馬なり"で勝てています。
――確かに、リリーフ陣は登板数がほぼ均等になっています。
関本 岡田監督と安藤優也投手コーチが、誰かに負担がかからないように配分しているんでしょう。現状、勝っている展開で投げる投手、負けている展開で投げる投手は決まっていません。負けている展開で投げさせているのは、(ジェレミー・)ビーズリー投手ぐらいじゃないですか。
そのビーズリー投手も、けっこう球威がありますからね。ピッチャー陣の層が厚すぎるから彼はビハインドの展開で投げていますが、他のチームなら勝ちパターンで投入してもいい力はあると思います。
――第一次政権時と比べて、選手起用や采配に違いはありますか? ベンチでは、岡田監督が柔和な表情を見せる場面も多いような気がします。
関本 年齢も重ねていますし、以前より柔らかくなった印象は少しありますね。ピッチャーの起用で言えば、当時はJFK(ジェフ・ウィリアムス、藤川球児、久保田智之)が勝ち試合、江草仁貴投手、桟原将司投手、橋本健太郎投手らをビハインドの展開で登板させてきっちりわけていましたが、先ほども話したとおり今はみんなで回している感じです。
――今は誰が投げてもある程度は抑えられる?
関本 そうですね。だから野手にも「今日は負け試合」という感覚はないはずです。ピッチャーの起用の仕方で、監督の気持ちはわかるもの。第一次政権で言うと、負けているのにJFKが出てきたら「今日は勝つぞってことなんだな」となりました。それが監督のアンサーなんです。
今は、全員が勝っている展開で投げるピッチャーという状況なので、誰が出てきても「今日は勝たなあかん日や」となっている感じがするんです。
――野手の起用に関してはいかがですか?
関本 1番の近本光司選手から8番の木浪聖也選手まで、ほぼすべてのポジションが固定されています。レギュラーの選手は、試合の最後まで替えずに責任をしっかり持たせる。逆にその立場じゃない選手に対しては、いろいろなライバルをあてがいながら競争心を煽っています。
そういうところは第一次政権時と同じですね。競争心を煽りながら、選手の状態を監督自身がチェックしているんですよ。相手のピッチャーのタイプによって「このバッターは合う、合わない」というのをすごく観察しているんです。
――5月18日の中日戦での、ヨハン・ミエセス選手の起用も当たりましたね。
関本 タイムリーも打つなどミエセス選手が奮起したのはもちろんですが、監督の眼力もあるでしょうね。練習などを見ていて、「打てそうだったから使った」とコメントしていましたし。相手ピッチャーとの相性を見極めて、島田海吏選手や井上広大選手も起用したりというのは、ひらめきというか"勝負勘"の冴えを感じますよね。
――関本さんは以前、岡田監督が就任した際の課題を挙げるとすれば、「岡田監督の言葉を選手が理解できるかどうか」と言われていました。現状はどう見ていますか?
関本 それを話した時と同様、今でもそんなに選手たちとコミュニケーションをとっているようには見えませんが、選手は起用のされ方で信頼されていることが伝わっているはず。「頼むで」と言葉をかけなくても、ずっと使ってくれたら「やらなきゃいけない」と思いますから。
――大山悠輔選手や佐藤輝明選手に関しても、不振な時期が長く続いても替えないと明言していますね。
関本 苦言を呈することはあっても、結局は信じて使い続けていますよね。梅野隆太郎選手があれだけ打てなくても、西勇輝投手をはじめ、日頃からバッテリーを組ませているピッチャーの時は替えませんし。それが、信頼だと思うんです。
逆に選手とコミュニケーションを取りすぎると、情が入ったり采配に影響を及ぼしたりといったことが出てくるかもしれない。岡田監督の場合は、「グラウンドで結果を出せ」という考え方を徹底していると思います。
(中編:佐藤輝明の不調の原因、恐怖の「8番・木浪」、中野拓夢のセカンドコンバートなどを語った>>)
【プロフィール】
関本賢太郎(せきもと・けんたろう)
1978年8月26日生まれ、奈良県出身。天理高校3年時に夏の甲子園大会に出場。1996年のドラフト2位で阪神タイガースに指名され、4年目の2000年に1軍初出場。2004年には2番打者として定着し、打率.316の高打率を記録した。2007年には804連続守備機会無失策のセ・リーグ新記録を樹立。2010年以降は勝負強さを買われ代打の神様として勝負所で起用される。2015年限りで現役を引退後、解説者などで活躍している。通算1272試合に出場、807安打、48本塁打、312打点。