最終尾からブライトンのセンターバック(CB)ルイス・ダンクが前線にロングボールをフィード。サウサンプトンのCB、ポーランド代表ヤン・ベドナレクが頭でクリアしたボールに、誰よりも鋭く反応したのが三笘薫だった。ボールを拾うと正面右方向にワンドリブルを交えながらフリーで抜け出す。シュートが決まらないほうが不思議に見えるほど決定的なチャンスだった。

 三笘は余裕のある動きでシュートモーションに入ったが、なぜか右枠外に外してしまう。落胆するなとばかり、ドイツ人MFパルカル・グロスが駆け寄るも、三笘は天に向かい言葉にならない雄叫びを挙げ、悔しがった。

 前戦でニューカッスルに1−4と大敗。来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場権を逸したブライトンは中2日、正確には43時間30分しかない強行日程のなかでサウサンプトン戦を戦った。今季全38試合中36試合目。勝利を飾れば、来季のヨーロッパリーグ(EL)出場権を事実上、手中に収める一戦でもあった。

 ニューカッスル相手に見せ場を作れなかった三笘。なにより自慢の縦勝負を仕掛けることができなかった。野球で言えば、満足にバットを振らせてもらえなかったという感じだった。


サウサンプトン戦に先発、決勝点をアシストした三笘薫(ブライトン)

 サウサンプトン戦の前半8分に訪れた決定機は、名誉を回復する絶好の機会だった。それを逃したことで、負けじ魂に火がついたのか、直後の9分、11分と、三笘はたて続けに、珍しく強引な突破を見せる。相手のマークは2人。勝算はけっして高くないにもかかわらず、縦抜きにかかった。右足のインサイドでボールを運ぶ三笘らしいドリブルでタッチライン際を疾走。深い位置まで進出した。最初のシーンはマイボールのスローイン。続くシーンはゴールキックに終わったが、本拠地のスタンドは大いに盛り上がった。

 強行軍にもかかわらず、三笘の調子はよさそうだった。ただ、気合いを漲らせファイトしているのか、ポーカーフェイスに飄々とプレーしているのか。弱気なのか強気なのか、パッと見では判然としないところが三笘の特徴だ。"頑張っている感"が常に身体から滲み出ている久保建英(レアル・ソシエダ)とは対照的である。

【やさしいラストパスでアシスト】

 迎えた21分のプレーも、そういう意味で三笘らしかった。相手GKアレックス・マッカーシーとCBベドナレクのパス交換が乱れると、三笘は疾風のごとく現れ、ボールをさらい、ゴール正面で再度フリーの状態になった。力感のないフォームから放たれたのは、ゴールにパスを流し込むような軽やかなシュートだった。ところが、このシュートは左ポストを直撃する。ゴールはならなかった。

 そうこうしている間に試合は動く。前半29分、ブライトンはアイルランド代表の18歳、1トップを務めるエバン・ファーガソンの強引なシュートで先制する。

 サウサンプトンは現在20位。来季の降格がすでに決まっている最下位チームだ。プレミアのレベルがいくら高いとはいえ、6位ブライトンとの差は明白だった。40分、追加点が生まれたシーンもパスワークの乱れに起因していた。攻守が切り替わったのはブライトン陣内に3分の1ほど入った地点で、ボールを拾ったのは三笘だった。

 タッチライン際を行く三笘の前に立ちはだかるベルギー代表の19歳、ロメオ・ラビアを反則気味のアクションでなぎ倒すように前進。いつにない荒々しいムードを醸し出しながらトップスピードに乗り、それに合わせるように右足でボールを5回、6回と突いて出た。

 瞬間、蘇ったのは開始9分、11分に敢行した縦抜けのシーンだ。強引にも深々とゴールライン際まで進出し、左足でマイナスの折り返しを狙うものと思われた。だが、三笘は予想とは裏腹に、左足のアウトで中央を走るファーガソンにスライス回転の効いた、グラウンダーのやさしいラストパスを送り込んだ。一転してクールなプレーに及んだ三笘。剛と柔を使い分けるようなこのウイングプレーが、ブライトンに貴重な追加点をもたらしたのだった。

 試合は後半サウサンプトンが盛り返し、13分に1点差に迫るが、ブライトンは後半24分、グロスがダメ押しとなる3点目を決め、3−1で勝利した。三笘は後半43分、途中交代でベンチに下がった。今年に入ってからリーグ戦で先発した19試合中、途中で退くのは4試合目となる。世界広しといえど、ここまで「出場時間モンスター」な左ウイングは幾人もいないはずだ。

 冒頭で述べたとおり、終了の笛とともにブライトンは来季のEL出場権を手に入れた。だが今季終了後は、人材の流出が待ち構えている。今季並みの魅力をブライトンは維持できるか、欧州を代表する好チームでいられるかは難しい問題だ。ラスト2試合(マンチェスター・シティ戦、アストンビラ戦)は、そうした意味で記憶に焼きつけておきたい、価値の高い試合になる。

 2022−23シーズンのブライトン、見納めの時期が近づいている。