ここ数年ですっかり浸透した「推し活」。アイドルやキャラクターを応援する活動を指しますが、海外ではどうなっているのでしょうか? アメリカ・シアトルに住んで20年、子育てに奮闘するライターのNorikoさんに、「アメリカの推し活事情」について教えてもらいました。

一致団結して「推し」を応援する日本のファンたち

昨年末、King&Prince(キンプリ)の大ファンで「推し」を心の支えにしている日本の友人から連絡がありました。ファンたちの間で「メンバーの海外での活動を応援したい」という話が出ており、そこでアメリカのラジオ局への選曲リクエスト方法を教えて欲しいとのことでした。

こんな応援方法もあるのですね。なるほど、と調べてみると、アメリカには簡単なフォーム送信のみで選曲リクエストができるラジオ局がたくさんあるようだったので、そのリストをつくって友人に送ることにしました。なかには曲名とアーティスト名を入力して送信ボタンをクリックするだけという、めちゃくちゃ敷居の低いラジオ局もあり、これなら英語が苦手でも楽勝です。

年明けには、その友人からはお礼とともに、無事リクエストが通ってアメリカのラジオ局でキンプリの曲が流れるとの報告が。しかも、昨年発売されたキンプリの4枚目のアルバム「Made in」収録の全曲だそう! 公式インスタグラムによると、24時間で1万以上のリクエスト数を記録したとか。最近になって、ユニバーサル・ミュージック・グループの2023年第1四半期トップセラー・アーティストに、キンプリも含まれるとのニュース記事も見ました。これも、日本人ファンのパワーでしょうか?

先日放映された中居正広さんと香取慎吾さんのテレビ共演に涙するファンが続出したとか。とくにファンというわけではありませんが、私もつられてうるっと来てしまいました。SMAP世代は皆、かつて一世を風靡した国民的アイドルの近況が明かされ、少なからず思うところがあったのではないでしょうか。SMAPと言えば、解散前のファンの購買行動が記憶に残るところ。キンプリも今、CD売り上げが急増している只中だそうです。

キンプリのファンにしても、元SMAPのファンにしても、一致団結して感謝を行動に移し、喜びをファン同士で分かち合えるのは、うらやましい気がします。きっと、「推し活」ならではの醍醐味ですよね。

●アメリカの推し活はノリが命?

アメリカでも、90年代のバックストリート・ボーイズから、現在は活動休止中ながら話題を振りまき続けているBTSまで、アイドル・グループのファンは存在します。

ただ、日本のような「アイドル」感とは別に、アーティストとしての才能、楽曲、ダンスなどのパフォーマンスのクオリティーがより求められるように思います。また、みんなで楽しく盛り上がることが重視され、クラブやイベントで踊れる人気の曲が、そのまま売り上げランキングに反映されるのも特徴と言えるかもしれません。

それにしてもアメリカに来て驚くのは、日本のアニメやゲームのファンの熱量です。私の住むシアトルはとくに、マイクロソフト、アマゾン、任天堂アメリカなど、ITやゲーム企業が多いせいかもしれませんが、コミックやアニメ、ゲームのファンを対象とするイベントが年間を通して開催されています。

そうしたイベントの当日は、コスプレイヤーが街中にあふれるので、ひと目でそれとわかります。中にはファンによるファンのための祭典が大型イベント化した例も。ファン向けのイベントは全米各地に見られますし、どの都市を訪れても商店街やショッピングモールには必ずと言っていいほどコミックやアニメ、ゲームの専門店があるほどです。

シアトルでは、日本から進出する紀伊國屋書店に、日本のコミックやアニメのファンが押し寄せています。

●人気のきっかけは、アニメやゲーム楽曲が多い

以前、JUDY AND MARYの代表曲「そばかす」が好きだと言うアメリカ人に会ったことがあり、なぜかと思ったら、90年代に放映されていたアニメ「るろうに剣心」の主題歌だったのですね。おそらく、子どもの頃によく観ていたのでしょう。

最近、日本の若い世代を中心にTikTokなどでバズっているPUFFYですが、2000年代のアメリカでも、カートゥーンネットワークによるアニメ「ハイ! ハイ! パフィー・アミユミ」の主人公のモデルとなって主題歌も担当したことから、全米ツアーを成功させるほどの人気を博していました。

アメリカで認知されている日本人アーティストの楽曲は、やはりアニメやゲームで使われているものが強い印象です。私も当時、PUFFYのシアトル公演を観に行きましたが、会場は親子連れでにぎわっていました。

近年では、Perfume、HYDEのシアトル公演もあり、それぞれコアなファンを抱えている様子でした。そのほか、日本のアイドルとサブカルの「ハイブリッド」を見事に体現していると感心したのが、きゃりーぱみゅぱみゅです。

アメリカ人好みのダンサブルな音楽性に加え、日本の「カワイイ」ファッションで、異文化への憧れをうまく取り込んでいます。シアトルのライブ会場では、多くのアメリカ人ファンがきゃりーぱみゅぱみゅ風コスプレをして、ノリノリでサビを大合唱していました。男性ファンだけでなく、女性ファンもかなり目立っていたのを覚えています。

●アメリカでの「マリオ」の人気にびっくり!

今年に入って、アメリカでのマリオ・シリーズのキャラクターの知名度と人気ぶりにも改めて驚かされました。

2月、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド内にアメリカ初となる「スーパー・ニンテンドー・ワールド™」がオープン。わが家も小学生の息子を連れて早速行ってきました。

予想はしていたものの、その一画だけがとにかくものすごい人だかり。メインのアトラクション「マリオカート〜クッパの挑戦状」への入場は、なんと平日朝でも3時間半待ちでした! 私たちは行列に並ばず入れるパスを持っていたため、全アトラクションをギリギリ回れましたが、それがなかったら1日券では厳しかったはず。

親子連れだけでなく、若い学生のグループや、30、40代らしき大人のカップルも多く見かけました。別売の「パワーアップバンド」を買わないと楽しめないアトラクションがあり、これがまた結構なお値段なのですが、ほとんどの人が買っていました。

どんぴしゃスーパーマリオ世代の私も、息子に付き合って、というのは口実で、童心にかえってアトラクションを満喫しました(パワーアップバンドは息子の分のみ購入)。親子で共通認識を持つマリオ・シリーズって、やっぱりスゴい! おそらく、ここを訪れた親世代は私と同じく、久々のマリオの世界にノスタルジーを感じていたのではないでしょうか。

日本人では違和感のあるかもしれない、完コピのコスプレで訪れていたピーチ姫のお母さん、マリオとルイージ兄弟の子どもたちに遭遇できたのも、アメリカならではの体験?

●マリオの映画や80年代の“エモい”音楽が人気!

そして、4月にはいよいよ映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が日本に先駆けてアメリカで公開。ユニバでその世界観を楽しんだばかりの息子は、いたく感動し大喜びでした。

ユニバ同様、劇場には親子連れだけでなく幅広い年齢層が足を運んでおり、ファンだけにわかる細かい演出と伏線回収に反応し、笑いに包まれる瞬間も幾度となくありました。

週末の4D上映の回は、割高にもかかわらず、ほぼ満席の盛況ぶり。アメリカのトレンドである80年代要素(ファミコンや80代音楽)と、武闘派の女性リーダーの活躍(ピーチ姫)が盛り込まれたことも功を奏してか、記録的な大ヒット映画となりました。

映画にちなんだコラボ商品も数々登場して注目を集めるなど、この歴史的インフレの中、アメリカでも日本同様にファンの購買意欲の高さがうかがえます。マーケティングに利用される推し活文化は、もはや世界共通?

80年代と言えば、アメリカのクラブ・シーンや動画サイト、ストリーミング再生を中心に、「シティ・ポップ」と呼ばれる洋楽の影響を受けた日本の懐メロのブームも続いています。人気の理由は、やはりノスタルジーだと言われます。

竹内まりやさんや八神純子さんなど、当時活躍した日本人アーティストにハマるアメリカ人ファンも続出。新旧、いろんな形で日本の文化がアメリカで受け入れられ、ファンが増えているのは、日本人としてうれしい限りですね。