三笘薫が克服すべき課題が見えたマンU戦 一流ウイングの証である「縦抜け」をやめたのはなぜか
ブライトンホームのマンチェスター・ユナイテッド戦。プレミアリーグ8位(勝ち点52)対4位(同63)の対戦である。マンチェスター・ユナイテッドの残り試合が5に対してブライトンは6。イングランドのチャンピオンズリーグ(CL)本大会出場枠は4なので、ブライトンにとって4位チームをここで叩くことは、その可能性がわずかながら広がることを意味する。ヨーロッパリーグ(EL)の場合は、勝てば出場圏内(6位以内)に飛び込む。
三笘薫にさっそくチャンスが回ってきた。前半4分。最終ラインで相手CBビクトル・リンデロフが回そうとした横パスをカット。GKダビド・デ・ヘアと1対1になった。ところがボールが足もとに入りすぎたのか、三笘のシュートはデ・ヘアの顔面に直撃。チャンスを逃す。
これを決めていれば心に余裕が生まれ、三笘のその後のプレーも違ったものになっていたのではないか。タラレバで恐縮だが、そう言いたくなる、大きな意味を持つワンプレーだった。
この両者は11日前(4月23日)にFAカップ準決勝で対戦していて、その時はマンチェスター・ユナイテッドが0−0、延長、PK戦に及んだ試合を制している。三笘が対峙する右サイドバック(SB)アーロン・ワンビサカに手を焼いた試合としても印象に残る。自慢の縦突破を封じられたことと、0−0延長PK負けという結果に深い関係があるとすれば、ブライトンの左ウイング対マンチェスター・ユナイテッドの右SBのマッチアップは、この試合でも引き続き注目すべきポイントと言えた。
1−0で勝利したマンチェスター・ユナイテッド戦にフル出場した三笘薫(ブライトン)
三笘対ワンビサカの対戦は何度もあった。10回はあったはずだ。三笘の足もとに実際、ボールはよく集まった。前半24分にはインナーラップしたペルビス・エストゥピニャンからボールを受けると、独特のステップを踏み縦抜けを図った。対峙したのはこの試合これが4回目で、縦勝負を挑んだのは2回目だった。1回目はCKを獲得。どちらかと言えばワンビサカのほうが手を焼いているように見えた。FA杯準決勝で三笘を抑えたことで期待値が上がり、逆に硬くなっているのではないかと楽観的になれたのも束の間、2回目の縦抜きを止められ、ゴールキックの判定が下ると三笘はトライすることさえしなくなった。
【三笘の誘いに乗ってこない相手SB】
縦に抜けるか、抜かれるか、これはウイング、SBそれぞれにとって大きな問題だ。斬るか斬られるかの関係と言ってもいい。白黒がつく瞬間なのだ。縦に"勝負する"という表現が使われる理由でもある。
左ウイングに右利きを、右ウイングに左利きを置く傾向が、ここ十数年ぐらいの間に急速に強まった。右利きの右ウイング、左利きの左ウイングは数をグッと減らしている。一番の理由は切れ込んでシュートが狙いやすいからだ。三笘もこのマンチェスター・ユナイテッド戦で切り返しから、その手のプレーを試みている。後半13分には、後方から走り込んだダニー・ウェルベックへ身体を開き右足でラストパスを送っている。右利きの左ウイングらしいプレーで惜しいシーンを作り出している。
だが、相手のCBにとって本当に嫌なプレーは最深部からのマイナスの折り返しだ。その角度が鋭ければ鋭いほど、えぐればえぐるほど、チャンスの度合いは高まる。内ではなく縦にどれほど抜けて出ていけるか。鋭い折り返しを決められるか。ウイングとしての一流度、怖さを推し量るバロメータになる。
そうした意味でこの日の三笘のプレーはいささか寂しかった。先述の前半24分のプレーが縦抜けにチャレンジした最後になる。三笘よりワンビサカのほうが一枚上手だった。鈍感なのか、鋭いのか、三笘の誘いに乗ってこないのだ。ここまで逆が取れず、弱気を露呈させる三笘を見るのは珍しい。
単なる相性の問題だとすれば、ワンビサカは2人といないわけで、ただの苦手として処理できるが、問題が三笘側にあるとすれば厄介だ。技術的問題なのか、精神的問題なのか。いずれにしても克服しなければならない課題になる。
後半アディショナルタイムの93分、エストゥピニャンがドリブルでインナーラップし、三笘が開いて構えるというシーンがあった。先述した前半24分のシーンがそうであったように、エストゥピニャンが三笘にパスを配球するのが定石だ。しかしエクアドル代表の左SBは三笘の存在に見て見ぬ振りをするように、ミドルシュートを放った。
それなりに強烈ではあったが、ゴールが入る確率はせいぜい4?5%という無謀に近い一撃だった。三笘にパスを送るなら、自分で打ったほうがマシ。エストゥピニャンに三笘はそう判断させてしまったことになる。
後半の追加タイムは続く。98分、相手CBルーク・ショーがハンドの反則を犯し、ブライトンは土壇場でPKをゲット。アレクシス・マクアリスターがゴール左上隅にこれを決め、1−0で勝利を飾った。
マンチェスター・ユナイテッド(4位変わらず)との勝ち点差は8に縮まり、順位も8位からEL圏内である6位に上昇。ブライトンは万々歳の結果に終わった。PKが決まるや、三笘も喜びを爆発させるかのように両手を広げ、歓喜の渦巻くゴール裏のサポーター席に駆け寄った。だが、個人としての満足度はどれほどだったのか。
とは言ってもフル出場だ。対峙する右SBに自慢のプレーを封じられれば、普通のウイングならば交代だ。集中力を切らし、ドツボにハマっていくものだが、三笘にはそれがない。精神的に大きく崩れることはない。賢い選手に見える。アタッカーに必要な爆発性を発揮することはできなかったが、それでも10段階の採点で7近い数字はつけられる。それもまた三笘の魅力なのかもしれない。