今季J2が開幕してしばらく、大きな驚きとともに話題をさらったのが、清水エスパルスの不振だった。

 昨季のJ1得点王、FWチアゴ・サンタナを筆頭に、"超J2級"の巨大戦力を擁する清水は、しかし、開幕から7試合勝利なし(2敗5分け)と大きく出遅れ。J1昇格の圧倒的な筆頭候補が、まさかの事態に見舞われていた。

 しかし、シーズン序盤にして監督交代に踏み切った清水は、その後の6試合を4勝2分けとV字回復。着々と順位を上げ、上位クラブを戦々恐々とさせている。

 まだまだ予断を許さないとはいえ、ひとまず危機的状況は脱したと言っていいのだろう。

 こうなると、清水に向けられていた懐疑的な視線は、自然と他クラブへと移っていく。

 というのも、スタート大失敗の清水の影に隠れてはいたが、今季J2では昇格候補と目されながら中位以下に低迷しているクラブが少なくないからだ。

 そのひとつが、ジュビロ磐田である。

 昨季J1で最下位(18位)に終わり、同17位の清水とともに今季J2へ降格してきた磐田は、清水ほど前評判は高くなかったとはいえ、J1昇格の有力候補であったことは間違いない。

 ところが、開幕戦でいきなりの黒星を喫すると、その後も波に乗れず、勝ったり、負けたり、引き分けたり。連敗はないものの、連勝もなく、なかなか勝ち点が伸びてこないのが現状だ。

 第13節終了時点で4勝4敗5分けの勝ち点17は、スタートでコケた清水(9位)をも下回る11位。事態はなかなかに深刻である。

 スコアレスドローに終わった直近の第13節、東京ヴェルディとの試合にしても、勝ち点を伸ばせない理由がよくわかるような内容だった。

 まず目についたのは、セットプレー時の守備における危うさだ。

「ここ最近、早い時間にセットプレーで失点していたので、結果的にゼロ(無失点)で終えたのは我々にとっては大きな前進だった」

 試合後、今季から磐田を率いる横内昭展監督はそう語り、「一歩前進」を強調していたが、磐田がよく守ったというより、東京Vが外してくれたと表現したほうが適切なプレーは、CKやFKの場面でいくつも見られた。

 指揮官自身、「毎回同じような形からこれまで失点してきた。今日も失点してもおかしくない場面があった」と認めているとおりだ。

 ゴール前へ何度も精度の高いボールを送り続けた東京VのFWマリオ・エンゲルスが、「いい加減に決めてくれ!」と言わんばかりのジェスチャーで悔しがっていたのもうなずける。

 その一方で、磐田の攻撃はボール保持でこそ上回っても、相手に脅威を与えるものにはなり得ていなかった。

「前半は(磐田に)ボールを持たれたが、決定機は我々のほうが多かったと認識している。ほとんどペナルティーエリアには入らせていない」

 東京Vの城福浩監督が口にしたこの言葉も、敵将ゆえの強がりとは言いきれず、客観的にも納得できるものだった。

 磐田のボール保持は大きく滞ることはないのだが、パスの細かなズレが目立ち、攻撃のテンポが上がらない。東京Vから見れば、ボールを持たれていても後手を踏むような展開にはなりづらく、ペナルティーエリア内にボールを持ち込まれ、決定的なシュートシーンを作られる確率は低かった。

 攻勢に試合を進めているようでいて、思うように勝ち点3を得られない。この試合に限らず、磐田に見られるそんな現状は、試合内容に即したものだと言っていいのだろう。


ボールを保持し攻勢にゲームを進めているように見えるジュビロ磐田だが...

 後半に入ると、「体力的なものも含めて、後半は(優位に立つ)自信がある」(城福監督)という東京Vが攻撃の時間を増やしたことで、磐田は得点を奪うどころか、攻勢に試合を進めることすらできなくなった。

 磐田がピッチ上で繰り広げるサッカーを見ていると、セットプレーの守備以外に大きな穴は見当たらない。

 自陣からパスをつないで攻撃を組み立てることもできるし、ハイプレスもまずまず機能。決して酷いサッカーをしているわけではない。

 しかし、それでいてこの苦境に立っているからこそ、そこから抜け出すのは難しいとも言える。

 今季の磐田は、一昨季に移籍加入したFWファビアン・ゴンザレスとの契約に規則違反があったとされ、FIFAによる補強禁止処分を科されている。

 今季開幕前には、すでに獲得が決まっていた大卒新人まで"内定取り消し"にせざるを得ず、新たな戦力は期限付き移籍から戻った選手と、ユースチームから内部昇格した選手のみ。今季中の戦力補強が許されない磐田は、不振脱出の起爆剤として、夏の移籍市場で新外国人選手を獲得してくることもできないのだ。

 東京V戦で先発出場したFW後藤啓介にしても、今季ユースチームから昇格してきたばかりのルーキー。これまでリーグ戦全13試合に出場(うち先発5試合)し、チームトップタイの4ゴールを記録している17歳は、補強ができないシーズンにあって貴重な新戦力となっている。

 だが、今後が楽しみなルーキーの活躍に胸が高鳴る一方で、17歳にセンターフォワードを託さざるを得ない現状には、一抹の不安も覚えてしまう。

 もちろん、長いシーズンは序盤戦を終えたばかり。現有戦力で連係を含めたプレー精度を高めていけば、巻き返しのチャンスはまだ十分に残されているはずだ。

 しかし、これから試合を重ねていくなかでは、当然、負傷者も出てくれば、コンディションが低下する選手も出てくる。実際、東京V戦では、頼みの後藤が負傷交代を余儀なくされた。今後は戦力補強ができないばかりか、現有戦力が維持される保証すらないのだ。

 そんなハンデを抱えながら1シーズンを戦い続けることに、相当な困難がともなうことは間違いない。

 補強禁止――。Jリーグ史上類を見ない厳しい処分は、1年でのJ1復帰を目指す昇格候補に大きな重荷となってのしかかっている。