何を見たのか、凄すぎて「夢」としか言えない!
行ってまいりました、羽生結弦氏東京ドームソロ公演「GIFT」へ。ただ、この感情を咀嚼するのには一晩では時間が足りません。何か凄いものを見たことは心が感じていますが、何を見たのかはいまだよくわからないのです。フィギュアスケートであるような、壮大な映画であるような。バレエやオペラやミュージカルと近しい場所にある「何か」。言葉にするなら「夢」としか言えないような、幸せで、こんな光景を見てみたかった、不思議なものがそこにはありました。
これは本当にフィギュアスケートだったのか?そんな段階から確認したくなるような、まったく新しい何かを前にして、僕はただただ「超えた…」と思いました。観衆の立場で思い描いていた予想を、ファンの立場で胸に抱いていた期待を、そしてフィギュアスケートというスポーツそのものを。これはフィギュアスケートの先にあるフィギュアスケートだった、そう確信します。規模・内容・衝撃あらゆる面での金字塔でした。これが「プロ」なんだと思い知らされました。これを生み出した選手を応援できること、応援してきたこと(お目が高い!)、幸せに思います!
↓やった!やった!すごいことをやってのけてしまった!
五輪よ、世界選手権よ、GIFTを見よ!
我こそが世界最高の舞台と自認するのなら!
いつになく早く目覚めた26日。グッズ購入で並ぶ予定があるわけではありませんが、家にじっとしていられず午前中に東京ドームに入ります。開演は17時。さすがにちと早過ぎたか。しかし、そんな思いはすぐに吹き飛びます。現地にはすでに人・人・人。グッズ購入列は長く伸び、記念撮影で人々がごった返しています。この日のためにやってきたのでしょうか、飛び交う異国の言葉の会話たち。これはワールドカップか何かなのか?壮大な祭りのようです。
開場の15時を迎える頃にはすでに東京ドーム前の広場は入場を待つ人で埋め尽くされていました。思い思いのグッズやバナー、ボアブルゾンで身を固め、楽しむ準備が万全の精鋭たちです。熱量は高く、冷静さは失わず。静かに落ち着いた入場でドームのなかの夢空間に入っていきます。僕も列に加わって会場入りすれば、早速本日の演出の一部となるシンクロライトを手渡されます。渡す際に座席を読み込んでいたところからすると、光のウェーブ的な仕掛けもありそう。極上エンタメの予感、高まります。
↓東京ドームをたったひとりのスケーターが埋め尽くすド級の公演!
↓すごい数の人がGIFTを待っていました!
会場に入るや驚かされたのはステージの壮大さ。グラウンドにドンとリンクが設営されているのは当然として、バックスクリーン側にはこの公演用の大型ビジョンと巨大な手のようなセットが。ビジョンの両サイドにはオーケストラが2組入りそうな数の演奏者用の席があります。グランドピアノ、ハープ、ビオラのような楽器も見えます。のちに聞いたところによれば、この公演には武部聡志さん率いるスペシャルバンドだけでなく東京フィルハーモニー交響楽団も参加するのだとか。ふたつの楽団が生演奏するという絢爛豪華さ、フレンチと中華のフルコースをはしごでもさせる気ですか。
そしてステージの周囲には明らかに仕掛けがある装置の数々が。これらの装置はのちに火を噴き、煙を出し、光を放ち、映像を映し、光の柱を打ち立てて、夢を描き出していくことになるのですが、よくもこれだけ用意したものだと呆けるようでした。そして「これが羽生氏とファンの生み出した好循環の極みなのだ」と拳を握りました。素晴らしい演技を披露する人と、それに惚れ込んだ人たちが「極上」を求めれば、こうなるのだと。惜しみなく、妥協なく、最上のものを作り手が用意し、それを信じて人々が集うという循環がつづけば、必然としてこうなるのです。ステージを見ても何をするのかまったくわからない「未知」も含めてドキドキが止まりません。「何コレ!」「何コレ!」「何コレ!」と目に入るものに5・6回「何コレ!」を言わされましたよね。「す、すご…」と唸り、「や、安…」とチケット代を二度見しましたよね。
そしていよいよ始まる公演。大型ビジョンとリンクと、そしてビジョンとリンクをなだらかにつなぐ斜めのスクリーンとがひとつながりになった銀幕に映像が映し出され、羽生氏のナレーションで「GIFT」の物語が始まります。斜めのスクリーンが割れて中央からリフトが登場すると、大型ビジョンには不死鳥の姿が。そしてリフトに乗った羽生氏が両腕を広げると、不死鳥の映像とシンクロするようにリフト上に「火の鳥」が現れます。
フィギュア界の定番曲でもある「火の鳥」をプロとなった今再び演じる羽生氏。そこには先制の一撃というか、「プロ」としての宣誓があるようでした。これまで数限りなく見てきた「火の鳥」、そのどれとも違う、どれをも凌駕する「業火の鳥」が舞っていました。翼のような衣装、オーケストラの生演奏による音楽、リンクには光の演出が施され、リンクサイドからは本物の炎が噴き上がっています。え?こんなの見せられたら、もういつもの「火の鳥」見れなくなっちゃうんですけど?超えていく、超えていく、業火の鳥がフィギュアスケートを超えていってしまう。もうこの1演目めで大賛辞「ブラボー!!」を繰り出してしまいました。絢爛豪華!
↓「僕が考える最強の火の鳥」を惜しみない本気でやるとこうなる!
「火の鳥」を演じ終えた羽生氏はバックステージに一度下がります。どうやら、ひとつ演じるごとに裏に下がって衣装を替え、少し息を入れている模様。その間にはGIFTの物語が映像と羽生氏ナレーションで語られていきます。咀嚼するのには少し時間が掛かりそうですが、夢を追うことと、その孤独と辛さと、それでも自分が選んでいく道…という「羽生結弦」の半生に及ぶ葛藤が描かれているようです。自ら綴ったという言葉たちは、ファンとしては少し胸が切なくなる内容もありますが、それを隠さないこともまた「プロ」の在り様なのでしょう。心をさらけ出さずにできる表現など高が知れています。全身全霊の表現、その一端がこの切なさでもあるのでしょう。切なさを悼むよりも、その決意を喜びたいと思います。
揺れ動く葛藤に重ね合わせるように演じられる「Hope&Legacy」、そして「千と千尋の神隠し」からの楽曲である新プログラム「あの夏へ」。GIFTの物語に融合しつつ、「羽生氏はハクに似てる」というファンの妄想をも汲み取って「どう?」と微笑みかけてくるような憎いセレクトです。リンクの周囲にある装置を駆使した幻想的な演出も、「夢」感を加速させています。画面に映る主要な部分だけでなく、全部を全身で感じるエンターテインメントです。人数を入れるためだけのドーム公演ではなく、このスケールで演じたいものがあったからこそのドーム公演だったのだなと改めて納得する思い。この目で見られてよかった…!
↓「千と千尋の神隠し」より、ハク様です!
さらにつづくGIFTの物語。大型ビジョンに巨大な羽生氏を投影して始まった「バラード第1番」が大切な人たちと栄光を分かち合った平昌五輪の温かい記憶を示すものなら、ストーリー部分で流れる「Otonal」(楽曲)や第1部のラストに演じた「序奏とロンド・カプリチオーソ」は望んだ形には至らなかった北京五輪の痛みを示すものでしょう。ただ、この日はその痛みに再挑戦し、「やり直し」に臨むという位置づけである模様。ビジョンに表示した時計の日付を北京五輪からGIFTへと送り、競技会のスタイルで羽生氏は再びリンクに姿を現します。
ジャージの隙間から見えるチョーカー風の衣装、前振りからしても「序奏とロンド・カプリチオーソ」を演じることは疑いようもありませんが、本当にやるのか?と慄きます。「北京をやり直す」という前振りで臨めば、この演目での失敗は絶対に許されなくなります。競技会であればミスは採点と結果で自分に跳ね返ってくるだけですが、今このGIFTでミスをすればたくさんの人たちと作った物語が壊れてしまいます。「北京をやり直す」⇒「ダメでした」は自分ひとりの結果だけではなく、GIFTのすべてに痛みを負わせる手痛いミスになります。リスクが高い、高過ぎるのではないか。そんな前振りなどせず、ただヌルッと演じたらいいではないか。余計な心配をしてしまうほどの緊張が生まれます。
あるいは、そうした緊張をこそ羽生氏は求めたのでしょうか。競技会のような緊張感は、GIFTにとっても必要なものであるが、競技会から離れた自分が再び同じ緊張感を発信するには、ちょっとやそっとの状況では不可能である。だから「北京をやり直す」という高過ぎるハードルをあえて用意した。観衆を慄かせた。それゆえに、このロンカプで因縁の4回転サルコウが決まったとき、観衆には爆発的な喜びと熱狂が生まれました。コロナ禍で封じられていたものが、心に甦ったかのようでした。荒い息でガッツポーズを繰り出す演者と、スタンディングオベーションで熱狂する観衆とを「ショー」と呼ぶのは憚られます。これは「勝負」でした。真剣勝負でした。「超えたぞ」という思いで胸が熱くなりました!
↓声出し応援が解禁されていて本当によかった!ブラボー!!
40分間というご婦人のお手洗いにも嬉しい整氷時間を経て、GIFTは第2部へ。「Let's Go Crazy」(楽曲)の生演奏で始まった後半は、人々をエンターテインするためにコロナ禍のなかで生み出した「Let Me Entertain You」から。第1部がシリアスな展開であったところから反転して、いきなりのお祭り騒ぎとなりました。パワーアップしたLMEYを歓声をあげて見守るフィーバータイムで、40分間の休憩などなかったかのようにいきなり最高潮です。ステージも演出もド派手ですし、指差しコネクトで観衆を沸かせる羽生氏も楽し気でよい。気づけば腕のシンクロライトは眩く光っており、ドームがラスベガスのようになっています。僕も拳を突き上げてエンターテインされました。すっごい久々の感覚でした。
このあたりからGIFTの物語上では「もはや誰かを楽しませることもできず、ゲームオーバー」という割と辛めのくだりに入ったようですが、ここで登場した次なる演目はAdoさんの「阿修羅ちゃん」です。リンクサイドに立てた透明なモニターに羽生氏の動きを解析して作ったと思しき3Dモデルが表示される技術面や、ボカロ系の曲に合わせた軽快な演技で魅せつつ、「みんな、僕のことフリルを着た阿修羅って呼んでるらしいね?」というネットミームへのアンサーみたいなものも感じるセレクトにニヤリとさせられます。
自分のなかの葛藤、すなわち二面性がじょじょに明確になっていくGIFTの物語は、羽生氏自身が陰陽を演じ分けて、映像とナレーションでもそれを表現していきます。バックに流れる「マスカレイド」(楽曲)と、映像で表示される仮面をつけた羽生氏の姿。となればもう次なる演目は「オペラ座の怪人」しかありません。「オペラ座を見てみたい!」という熱い声を知ってか知らずか、みんなの見たいものを全部やってあげるというセットリストのサービス精神がすごい。ステージに設置した巨大な手が巨大なファントムの一部として活かされ、リンクサイドから炎が噴き上がって、かつてない壮大さとなったオペラ座。この楽曲もフィギュア界の定番曲のひとつですが、またフィギュアスケートを「超えて」しまったようです。こんな表現も「プロ」だからできることですね!
↓ウチの推しはスケールが大きい!「巨大な僕が両手を広げて…」は想像すらしていなかった!
つづく演目は「プロローグ」でも演じた「いつか終わる夢」。このプログラムは、やはり再生の象徴でしょうか。演目前後の物語には「今」を示すかのようなロングコート姿の羽生氏が登場し、「夢は終わった」けれども再び「温かい世界に気づき直す」ような姿が描かれます。その再生に合わせるように、腕のシンクロライトは灯っていきました。その光は、羽生氏が「独りじゃない」と気づき直したときの、みんなからもらった温かい光を示すかのようでした。そして、その光こそが「お帰りなさい、僕の夢」「みんなからのGIFT」であると物語では結びます。そうか、そういうことか。つまり、GIFTは僕だったのです。「プレゼントはワ・タ・シ」だったのです。五輪2連覇、4回転アクセル、そして「みんなの夢」。「みんなの夢」が新しい「僕の夢」になった。そういう物語なのだと思いました。
その感動に打ち震えるなか、羽生氏はシンクロライトとドームの天井に投影した光による満天の星のもとで「ノッテ・ステラータ」を演じます。燃え盛る火の鳥として生まれた魂は、幾多の苦悩と葛藤を経て、白鳥として再び羽ばたくのです。僕は太陽と一緒にいる不死鳥だ…とまで力強くは言えないかもしれないけれど、星たちは確かに自分の傍にいる。羽にチカラを与えてくれる。僕はまだ飛べる、また跳べる。「つづけていこう、走っていこう、GIFTを届けに行く旅を」というナレーションの言葉は、すごく簡単に言うと「これからも頑張るよ、ヨロシク!」と受け止めていいのかなと思います。羽生氏を支え、再生させた星のひとつとして、その言葉嬉しく思います。最高のGIFTをいただきました!
↓そしてエンドロールではMrs.GREEN APPLEの「僕のこと」を発表!
VIDEO たくさんの人と一緒に、凄いものを作ってくれました!
こんな素敵な日が得られるなんて夢のようです!
エンドロールのあと、すぐさまボアブルゾン姿で羽生氏は再登場してきました。東京フィルハーモニー交響楽団とGIFTスペシャルバンド、リンクサイドで踊ってくれたELEVENPLAYさんを紹介した羽生氏は、武部聡志さんから台本にはない労いの言葉と、新曲「GIFT」をプレゼントされました。羽生氏は上を向いて涙をこらえているようでした。
そして羽生氏はアンコールとして「春よ、来い」「SEIMEI」を演じ、「水平線」を歌いながらGIFTの夜を終えました。見たいものをお腹いっぱい見ることができて、たくさんの驚きと興奮を得て、沸いて、叫んで、泣いた。素晴らしい夜でした。一夜限りだからこそ美しく、一夜限りにするのはあまりに惜しい夢でした。東京ドームの端まで届いた羽生氏の肉声による「ありがとうございました!」に、「ありがとう!」が返せる世情で本当によかった。こんな素晴らしい夜をもらって、お礼まで言われたのでは釣り合いが取れません。
こうして見終わったあとだから改めて思いますが、GIFTを作るのは本当に大変だったろうと思います。コチラが想像していたよりも遥かに壮大で、遥かに膨大な公演でした。これはアスリート個人の枠でおさまる仕事ではありません。すべてを考え、すべてを演じ、すべてを指揮するのは途方もない道のりだったはず。誰かを頼る部分はあったにせよ、最後に決めるのは羽生氏自身であり、決断と判断の連続だったことでしょう。それがどれだけ苦しくて、困難であるか。何かのプロジェクトを自分でやったことがある人ならわかるというもの。決断と判断ほど心を使う仕事はありません。
そんな厳しい道を選んでくれたこと。
そんな厳しい道を選ぶと決めてくれたこと。
「プロのアスリートになる」という大きな決断と判断から始まった長く険しい道のり。やがてGIFTにつながるその道を選んでくれたことに、ただただ感謝するばかりです。羽生氏はどんな道を選ぶこともできる立場でした。研究者として静かにフィギュアスケートと向き合うことだって、後進の指導をすることだって、旅人となることだって、休むことだって、何だって選べました。そうした可能性のなかから、演じること、理想を追求すること、みんなの夢を叶えることを選び、「GIFT」を作り上げてくれた。本人がやると決めなければ始まりもしない「夢」を現実世界に描いてくれた。しかも、僕らが想像するよりも遥かに美しく、遥かに素晴らしい形で。期待を超える夢でした。贔屓による甘め感想ではなく「超えてきた」と心からお伝えします。100点満点で言えば1207万点です。限界超越、上限突破でした。
いやー、こんな凄いものを見てしまうと、フィギュアスケートやアイスショーがこれからどうなっていくのかと、ふとそんなことを考えてしまいます。これを誰が超えられるのか。こんなことを誰が再びできるというのか。もし誰も続けず誰も超えられなかったとき、この出来事は今この時代だけに咲いた空前絶後の花となってしまうのだろうか。GIFTを知ったことで、「このぐらいだろう」「ここまでだろう」という限界や上限は取り払われました。もっとできる、もっとできた、そう気づいてしまった。後戻りはできなくなってしまった自分が少し不安になりつつ、「プロ」という新たな地平に無限の可能性を感じる夜でした。これから「GIFT以後」を過ごしていく日々が始まりますが、こうなったらもう、超えて、超えて、さらに超えた未来へ行くしかないなと思いました!
↓終演後、ドームから出て夜空を見たとき、グッとくるものがありましたよね!
VIDEO 幸せそうな人がドームからたくさん出てきて、それをずっと見ていたくなりました!
できることなら、帰りたくなかった!
それぐらい最高でした!
こんな凄いものを見たら、毎回コレを求めてしまうんですが大丈夫ですかね!?