古いクルマほど重課税となる自動車税制の是非を問う(写真:umaruchan4678 / PIXTA)

クルマの税金はいろいろな問題を抱えるが、早急に改善すべきは、新規登録(軽自動車は届け出)から13年を超えた車両の増税(重課税)だ。

例えば、2019年9月末日以前に新規登録を受けた1501〜2000ccエンジンを搭載する自家用乗用車の場合、自動車税は年額3万9500円が基本だ。

それが最初の登録から13年を超えると、4万5400円に重課される。自動車税の増税は、小型/普通車については15%の上乗せだ。

軽乗用車は、この比率がさらに高い。2016年3月末日以前に最初の届け出を行った軽乗用車の場合、軽自動車税は年額7200円だが、13年を超えると1万2900円に高まる。税額は80%の上乗せで、それまでの1.8倍を払わねばならないのだ。

重量税は18年超で5割増しに

古いクルマの増税は、自動車税と軽自動車税に留まらない。自動車重量税にも適用される。

例えば、車両重量が1001〜1500kgの乗用車では、エコカー減税対象車を除くと、継続車検を受けるときに納める2年分の自動車重量税は、2万4600円だ。それが新規登録から13年を超えると、3万4200円に増税される。39%の上乗せで、それまでの1.4倍を支払う。

しかも、自動車重量税の増税は2段階に分けて行われ、新規登録から18年を超えると、税額がさらに高まる。


古いクルマを大切に乗っている人も多いが…(写真:yamahide / PIXTA)

先にあげた車両重量1001〜1500kgの乗用車は、継続車検を受けるときに納める自動車重量税(2年分)が3万7800円になるのだ。増税のないときの2万4600円に比べると、18年を超えた車両の税額は約53%の上乗せで、1.5倍もの重課となる。

軽乗用車の自動車重量税は、エコカー減税対象車を除くと、継続車検時に納める2年分は6600円だ。これが13年を超えると8200円になり、24%の上乗せ。18年を超えると8800円となるから、6600円に比べると33%増えて1.3倍に高まる。

自動車税と自動車重量税を合計すると、エンジン排気量が1501〜2000cc、車両重量が1001〜1500kgの乗用車の場合、1年当たりの基本となる税額は5万1800円だ。それが新規登録から13年を超えると6万2500円となり、1年当たり1万円以上も重課となるのだ。

軽乗用車の場合は、1年当たりの基本的な税額は合計1万500円で、13年を超えると1万7000円に増える。軽乗用車でも6500円の値上げだ。では、なぜ13年を超えた車両の税金を重課するのか。

その理由は、「古いクルマは新しい車種に比べて燃費が悪く、二酸化炭素を含めて排出ガスを多く発生させるから」だという。ここには、「環境性能の優れた低燃費車に乗り替えさせるため、古いクルマを増税しよう」という意図が見える。

しかし、クルマは古くなったからといって燃料消費量が急増するものではない。これは、当然のことである。また、燃費性能に優れる軽自動車やコンパクトカーは、そもそもが低燃費だ。

例えば、14年前の2009年に発売された7代目スズキ「アルト」は、計測方法の古い10・15モード燃費ではあるが、24.5km/Lを達成していた。最新のWLTCモードで測定しても、20km/L近くになるだろう。


7代目アルト(写真:スズキ)

ハイブリッド車であっても、大型車になるとWLTCモード燃費は12km/L前後に留まる。こうしたクルマは減税されて、「古いから」というだけで燃費のいい軽自動車が増税されるのは、実際の環境性能と照らし合わせて矛盾がともなう。

また、新車は開発/生産/流通/販売/廃棄の各過程でも、資源を消費して二酸化炭素を排出する。たとえ新しいクルマの燃費性能が向上しても、長く大切に使わず、生産して廃棄することがエコロジーだとは限らない。

物価上昇や燃料費高騰の中で

古いクルマの増税は、困っている人達をさらに苦しめる。

例えば公共交通機関が未発達な地域では、年金で生活する高齢者が、毎日の買い物や通院のために古い軽自動車を使っている。年額7200円の軽自動車税が13年を超えて1.8倍の1万2900円に高まると、それだけで家計を圧迫するのだ。

しかも、今は燃料価格も高騰している。2023年1月中旬におけるレギュラーガソリンの全国平均価格は168円だ。


ひところよりは落ち着いたとはいえ、まだまだ高い(写真:Satoshi§ / PIXTA)

2000年は105円、2010年は132円だったから、今の168円は13年前の1.3倍になる。このほかにも、今は電気代などを含めて、いろいろな物価が上昇した。

その一方で、平均所得や年金受給額は高くなっていない。物価が上がる中で所得は増えず、仕方なく古いクルマに乗り続ける人も多い。特に最近は、新型コロナウイルスの影響で、飲食店の関係者などには、所得が大きく下がった人もおられる。そのような人達から、高額の税金を巻き上げるのが、今の自動車税制だ。

半導体などの不足により、新車の納期も長引いている。以前は1〜2カ月で納車されたのに、今は納期が6カ月から1年以上に達する車種も増えた。

そうなれば新車が納車されるまでは、今まで使ってきた古いクルマの車検を取り直して乗り続けるしかない。この状況でも、新規登録から13年を超えると、自動車税、軽自動車税、自動車重量税は増税されてしまう。

不可解なのは自工会(一般社団法人・日本自動車工業会)の対応だ。自工会は以前から「日本の自動車関連の税金は、複雑で税額も高すぎる。税金の内容をシンプルにして、ほかの国のユーザーと同等に負担を減らすべきだ」と提唱してきた。


自工会会長の豊田章男氏はユーザーに寄り添う発言も多いが…(写真:トヨタ自動車)

ところが、クルマのユーザーをもっとも苦しませている新規登録から13年を超えた車両の増税については、私の知る限り何も提言していない。

そこで自工会に問い合わせると「税金についての提言は行っているが、重課(増税)に関する個別の提言はしていない」(広報室)という。

税金の提言は総括的に行い、細かな言及はしないとも受け取られるが、自工会の提言は決して大雑把なものではない。自動車関連の税金に関する各種の情報やデータを細かく分析して、具体的かつ詳細な提言をわかりやすく行っている。

それなのに、新規登録から13年を超えた車両の増税に黙っているのは不自然だ。

前述の通り、今はガソリンを筆頭にさまざまな物価が高騰して、なおかつ所得が大幅に減ったユーザーも多い。新車の入手も困難だ。新規登録から13年を超えた増税の撤廃は、自動車ユーザーにとって緊急の課題になっている。

自工会はユーザーの味方であれ!

今の状態を放置するならば、自工会の“税金を下げる提言”も解釈が違ってくる。税金を下げる目的が、ユーザーの利益を守ることではなく、クルマをたくさん売ることに置かれると考えられるからだ。

つまり、古いクルマのユーザーが増税に耐えかねて新車を買えば、自動車業界の利益に繋がる。苦しみながらも増税に耐えれば、国の税収が潤う。


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自工会と国は、一見すると税金を巡って対峙しているように思えるが、実際にはアンダーテーブルで手を握り合っている。このように見られても仕方ない。

クルマ好きの1人としては、自動車業界と国が癒着して、困っている人達から多額の税金を巻き上げているとは思いたくない。前述のとおり新規登録から13年を超えた車両の増税は、どのように考えても悪法だから、即座に撤廃すべきだ。自工会もユーザーの味方であるなら、増税に反対する趣旨の提言をせねばならない。

(渡辺 陽一郎 : カーライフ・ジャーナリスト)