海の「プラグインハイブリッド」 働き方改革な電動貨物船“普及型”が進水 クルマっぽい装備
一般的な貨物船サイズの「電動船」が新たに進水しました。蓄電池と発電機を組み合わせた電気推進船は、外部への電力供給機能も持ち合わせた「プラグインハイブリッド」です。量産電動船のベースとしても位置付けられています。
もう「お試し」じゃないぞ 船の電動化「普及型」
旭タンカー(東京都千代田区)が発注した499総トン型の「ハイブリッド型電気推進貨物船」が2023年1月18日、本田重工業の佐伯工場(大分県佐伯市)で進水しました。同船はGHG(温室効果ガス)の大幅な削減を図るため、大容量蓄電池とディーゼル発電機を組み合わせて推進用の大型モーターを駆動させるシステムを採用。より安全な運航を行うため、離着桟時の操船やさまざまな業務を支援するソフトウェアも搭載する予定です。
進水したハイブリッド型電気推進貨物船(深水千翔撮影)。
今回、進水したのは商船三井や旭タンカーなどが出資するe5ラボ(東京都千代田区)がコンセプトデザインを手掛け、三菱重工業グループの三菱造船(横浜市)が設計とシステムインテグレーションを行う普及型ハイブリッドEV貨物船「ROBOSHIP」のプロトタイプに当たります。
e5ラボの末次康将CTO(最高技術責任者)は「この船は、徹底的に『普及』にこだわっている。既存船と全く同じ航続距離と速力、そして貨物容積を取れるのが特徴だ」と話します。
同社が企画したEV船では、世界初のピュアバッテリータンカー「あさひ」(492総トン)が2022年3月に竣工しており、旭タンカーが川崎港を拠点に東京湾内で外航船に燃料補給を行うバンカリング船として運用しています。2023年1月には、その「あさひ」の2番船である「あかり」が進水し、東京汽船の電気推進タグボート「大河」(約280総トン)も就航しました。
これに続く新造船として本田重工で建造が進められているハイブリッドEV貨物船の竣工は、4月を予定しています。旭タンカーを船主に、運航を上組海運が担い、神戸港から相生バイオマス発電所への木質バイオマス燃料輸送に従事します。
発電機のCO2フリー化もすぐ?
同船は従来のディーゼル主機関に代わって、大容量蓄電池(容量401kw/h)と発電機のハイブリッドで出力360kWのPM(永久磁石)モーター2基を駆動させる電気推進システムを搭載し、バッテリーからの給電による航行を可能にしました。
出入港や離着桟、荷役といった作業時には蓄電池に貯めた電気を使用することで、港内作業の完全ゼロエミッション化を実現。これにより運航時のCO2(二酸化炭素)排出量や燃料費を既存船に比べて最大50%削減することを見込んでいます。将来的には発電機の燃料をLNG(液化天然ガス)や水素、アンモニア、合成燃料などに切り替え、航行を含む全てのオペレーションのCO2フリー化を目指します。
進水したハイブリッド型電気推進貨物船(深水千翔撮影)。
船型は中口径プロペラ2基を備える2軸2舵のツインスケグ幅広船型で、貨物の積載量を増やしつつ、浅喫水に対応することで喫水制限がある港にも入港できるようにしました。船を横に動かすことができる船首側のバウスラスターと2基のプロペラ、そして操船支援機能を組み合わせることで、非常に狭い水路でも接岸ができる操船性能を備えます。
船内はDC(直流)マイクログリッドやPMモーターの採用によって、ディーゼル船に比べ機関部区画はコンパクトになるため、空いた場所は乗組員の居住区の拡張や追加貨物スペースなどに充てることを想定しています。
ほとんどクルマ? PHEV、ドラレコ、ナビ…
さらに新造船は、電力会社との提携・共同開発により、災害時に船から陸への給電が可能な電力供給船機能も持ちます。自動車でいう「プラグインハイブリッド」のようなものです。
自然災害などにより陸上送電設備がダウンし、沿岸部の広範囲に給電ができない場合、船に搭載された発電機から陸上に電力供給を行います。陸上の道路や送電インフラが寸断されても、海上から被災地付近の港へ急行することで、消防・病院・避難所といった拠点となる施設に向けて大容量電力を確保できます。
また、乗組員の業務を支援するシステムとして、e5ラボが立ち上げたスタートアップのMarindowsが開発している「内航標準プラットフォーム」も搭載します。
船陸間の通信を常時接続できるようにし、航行する船舶の遠隔モニタリングや予兆検知、CBM(状態基準保全)などを実現するとともに、同社が端末を通じて、徹底した労務軽減と安全運航の向上を目指すとのこと。加えて、海難事故が発生した場合に備えてネットワーク型ドライブレコーダーや、陸上と船上の双方から船舶の位置と状態が把握できるネットワーク型ポータブルナビの装備も予定しています。
進水したハイブリッド型電気推進貨物船(深水千翔撮影)。
末次CTOは「工業製品としてシステムをモジュール化し、数を作ればコストを下げられる。ハイブリッドEV貨物船の建造・運航で得られた経験を共有し、標準船型のさらなるブラッシュアップを進め、日本の造船産業を盛り上げるためにもハイブリッドの電気船を内航だけでなく輸出向けも大量に建造できるようにしたい」と今後の展望を話していました。