神戸の観光地といえばベイエリアや中華街などが有名だが、今回訪れたのは六甲山系の山々に囲まれた里山エリア。約700棟の茅葺き古民家や循環型の農業、牧場と住宅街が共存する、緑豊かな里山だ。市街地からも近い(車で約30分ほど)都市型の里山として、観光はもちろん、ワーケーションや移住でも注目を集めているのだそう。

○循環型酪農を実践する牧場

「弓削牧場(ゆげぼくじょう)」(神戸市北区)は閑静な住宅街の奥、標高400メートルの裏六甲と呼ばれる自然豊かな場所にある。ここでは、酪農をはじめ39年前から西日本の個人の酪農家として初めてチーズをつくり、乳製品の製造販売や乳製品の食べ方の提案をするためにレストラン「チーズハウスヤルゴイ」をオープン。また独自の取り組みのミニバイオガスユニットから取れるガスの活用や消化液肥(有機JAS資材認証済)を使っての野菜やハーブ、果樹の栽培。養蜂の導入と、環境に配慮した循環型の取り組みが行われている。

都市部の近くにある「弓削牧場(ゆげぼくじょう)」。弓削牧場(有限会社箕谷酪農場)代表取締役の弓削忠生さん・和子さん

牛たちがのんびり過ごしている

かわいい仔牛にも会えた

"中高一貫教育"の牛たち(育成牛たち)は24時間放し飼いでストレスフリー。放牧の様子

牛乳はロボットによる完全自動搾乳で絞られる

乳製品は絶品! チーズハウス・ヤルゴイでは、自家製チーズや牧場内で作られた有機野菜を使用した料理が味わえる。併設されたショップでは、チーズをはじめ、牧場でとれた牛乳やはちみつ、石鹸や化粧水、ハーブ苗や堆肥、有機JAS資材認証を得た液肥なども販売している。

併設のレストラン「チーズハウス・ヤルゴイ」とショップ

自家製チーズや牧場内で作られた有機野菜を使用した料理が楽しめる。写真はランチセット「地鶏のハーブ焼とホエイシチュー」(2,695円)

やさしい甘みの「弓削牧場のミルク 低温殺菌ノンホモ牛乳」(M330円)

牧場の新たな看板メニュー「フロマージュ・プチタロウ」などお土産も豊富に取り揃える

牧場のトレードマークにも登場するオーナーの3人のお子さんも現在それぞれの形で牧場に関わっているそう。左から2番目が長男の太郎さん、一番右は次女の麻子さん

○江戸時代の建物が地域のコミュニティスペースに

神戸市北区にある農村地域の淡河(おうご)町「淡河宿本陣跡」は、江戸時代に参勤交代の大名にも利用された由緒ある建物。本陣とは、江戸時代に参勤交代の大名や宮家、公家、幕府役人など、身分の高い旅行者が休泊し、諸街道の宿場に設置された大旅館を指す。この建物が50年以上もの空き家期間を経て、地域の有志メンバーで立ち上げた「一般財団法人淡河宿本陣跡保存会」によってよみがえった。

「淡河宿本陣跡」管理人の武野辰雄さん

2階建て瓦葺きの大屋敷のほかに、茶室や白壁の土蔵など貴重な建築が残る。建物の雰囲気を生かしたカフェ「本陣なな福」や雑貨店「Re・Era(りえら)」が運営されているほか、地域の催しなどにに活用されている。

座敷

中庭

映画『るろうに剣心最終章 The Final/The Beginning』(2021年公開)のロケ地の一つでもある。劇中では、屋敷は桂小五郎の隠れ家として、中庭は新選組の屯所として登場した

縁側でくつろぐ人たちの姿も見られた

○元病院をリノベした昭和レトロな複合施設

同じく淡河(おうご)町にある「ヌフ松森医院」は、元病院施設をリノベーションした地域の交流拠点施設。元病院のレトロな雰囲気を生かした古き良き「昭和レトロ」をコンセプトとしている。

昭和レトロな雰囲気が魅力の「ヌフ松森医院」。2017年に現在のオーナーが保存・再生のために購入し、地元の関係者と「淡河松森医院跡みらい会議」を発足。現在「淡河松森医院跡の利用再生プロジェクト」が進行中とのこと

元待合室を利用した喫茶店「珈琲スタンドカセットテープ」と、昭和レトロな雑貨や駄菓子を販売する元レントゲン室の「新松森商店」が現在営業中。ほかにもレンタルスペースやシェアオフィスなどが併設されている。

施設内のあちらこちらにレトロ雑貨が並ぶ

元待合室を利用した喫茶店「珈琲スタンドカセットテープ」の「クリームソーダ」(400円)と「野瀬野菜のナポリタン」(650円)

元診察室を改装した食堂

元レントゲン室を改装した駄菓子屋「新松森商店」

ワーキングスペースも併設。神戸市ではこの施設内の2部屋を「お試し住居」として貸し出しているそう

オーナーの上垣内賢司さん夫妻

○六甲山の泊まれるシェアオフィス

六甲山の森の中に2021年3月オープンしたのが、"泊まれるシェアオフィス"「ROKKONOMAD(ロコノマド)」。

森の中のシェアオフィス「ROKKONOMAD(ロコノマド)」入り口。神戸・三宮から車で約40分、六甲ケーブルを利用すれば六甲山上駅から徒歩約12分と車なしでのアクセスも可能。神戸市が推進する「六甲山上スマートシティ構想」のビジネス交流拠点「共創ラボ」として開設された

案内してくれた「ROKKONOMAD」のヤンセン尚子さん。ここでは「生活音が街とは違う」と言う

ワークルーム。森の中にある施設だが、インターネット光回線を完備し、オンライン会議も問題なく行える環境が整っている

ソーシャルルーム

かつて保養所だった建物を改修しているため、宿泊も可能。BBQができるウッドデッキや庭、コテージを備えているため、オフィス合宿や会議などグループで利用されることも多いのだとか。

神戸の街を望むウッドデッキ

コテージ

宿泊客室

○西日本最大級の道の駅! 遊園地や温泉も併設

道の駅好きは必ず訪れてほしいのが、西日本最大級の広さを誇る「道の駅神戸フルーツ・フラワーパーク大沢(おおぞう)」(2017年3月オープン)。中世ヨーロッパのルネッサンス様式の美しい建物や庭園のほか、遊園地やゴーカート、温泉、バーベキュー場、ドッグランなど一日中楽しむことができる滞在型の道の駅となっている。

「道の駅神戸フルーツ・フラワーパーク大沢(おおぞう)」

これが道の駅……? と驚く広さとヨーロッパ風の建物と庭園

テーマは「花と果実のテーマパーク」。近隣農家で収穫したての野菜や果物がそろうマーケットのほか、地産地消のメニューがそろうレストランやカフェもある。施設内には四季折々の花が咲き、7月下旬ごろから11月上旬ごろにかけて、桃、ブドウ、梨、リンゴなどのフルーツ狩りを楽しむこともできる。

とにかく広い!

野菜や果物がそろう「FARM CIRCUS MARKET」

遊園地もある

○農村体験やお試し移住ができる古民家

里山での暮らしに興味を持った人は古民家「一十土(いっとうち)」へ。移住相談窓口となってくれる神戸地域おこし隊・吉田彰さんの自宅兼職場だ。民泊(1棟貸し/最大8名/4万円)としても開放しており、農村での種まき・苗の植付け・水やり・草刈りなどといった体験ができる宿泊体験「お試し移住」ができる。そのほかコワーキングスペースやレンタルスペースを提供、サイクリングツアーも行われている。

お試し移住ができる古民家「一十土(いっとうち)」。農村ツーリズムとして"里山サイクリングの拠点となる施設"としても活用されている

神戸市地域活性化アドバイザーで神戸版地域おこし協力隊の吉田彰さん夫婦

コワーキングスペース

里山での暮らしを体験できる

○完熟させてから出荷する絶品イチジク

神戸市北区六甲山脈の裏側に位置する大沢(おおぞう)町にある「すまいるふぁーむ藤本」は、卓越した農業技術を有する「神戸アグリマイスター」の資格を有する藤本喜郎氏が営む生産農家。

「すまいるふぁーむ藤本」イチジクのビニールハウス。イチジクのほかにいちごやぶどう、スイートコーンの生産販売も行う。同じ敷地内に農産物直売所「大沢ファーマーズマーケット」もある

卓越した農業技術を有する「神戸アグリマイスター」の資格を有する藤本喜郎氏

イチジクの収穫量は兵庫県が全国3位、中でも神戸市は県内一の産地だ。こちらでは都市に近い場所を生かし、完熟させてから出荷しているという。もぎたての新鮮なイチジクは絶品!

さまざまな栄養を含むため「不老長寿のくだもの」とも言われるイチジク

もぎたて新鮮なイチジク。おいしい!!

都市に近いため完熟させてから出荷できる

○移住者が古民家で営むベーグル店

神戸市北区淡河町の山中にあるベーグル店「はなとね」は、神戸市指定有形文化財に指定された築260年以上の茅葺き民家「前田家住宅」を活用。子育てを機に県外から移住した村上敦隆さん夫婦が営んでおり、ベーグルとスチームベーグル(米粉の蒸しぱん)の店頭販売を行っている。

ベーグルは北海道のあんこや、抹茶&ホワイトチョコ、バジル&チーズなど全11種類、スチームベーグルは、黒糖きなこや杏仁豆腐など全5種類の中から、日によって数種類が店頭に並ぶ(200円〜270円)。ベーグルのやさしい味わいが古民家の雰囲気とぴったり。心地よい時間を過ごすことができる。

古民家ベーグル店「はなとね」

素材にこだわったやさしいベーグル

大都市でありながら、海にも山にも囲まれた神戸市。実は市街地のすぐ近くにこんなにも自然いっぱいの里山がある。ちょっと足を伸ばして訪れてみてはいかがだろうか。