堂安律はクロアチア戦で日本人最多3得点目にこだわらない。「これほど勝ちたいと思うことはない。歴史を変えたい」
ドイツ戦では出場から4分、スペイン戦では2分──。堂安律が得点までにかかった時間だ。
相手が堂安のプレーに対応する前に、一気に決めてしまう。『機を見るに敏』とはこのことだ。だが、堂安いわく、これは彼にとって特別なことではない。
「でも、僕、けっこう途中から点取ってるんすよね」
理由は、はっきりしている。
今大会すでに2ゴールを決めている堂安律
「PSVの時にちょっと途中出場することが増えて、準備の仕方もわかってきています。もちろん選手としては本望じゃないですし、サブから行くのは本当うれしくないですけど、26人全員で戦っている大会なので」
現在はドイツ1部フライブルクでプレーする堂安だが、その前はオランダPSVに所属し、今年2月ごろは途中出場の続く時期があった。本来ならしたくなかったベンチスタートの続く経験が、日本代表でも本望ではない状態に置かれることで花開いている。
クロアチア戦を前に、堂安が課題に感じているのは攻撃力だと言う。
「クロアチアはシステムもスペインと似た形ですけど、ストライカーが前に張るというよりは、どちらかいうとボックスで仕事するストライカーが多くて、そういうちょっと変化はあります。
ただ、守備の強度をしっかり上げれば、僕たちもハメれると思います。攻撃の精度はもっと上げる必要あるかなっていうのはこの3試合で選手全員が感じていたので、そこは修正して臨みたいと思います」
具体的にはどういうことか。
「やっぱりボールを保持している時にビッグチャンスが作れていないっていうのは、正直、見ているみなさんもそうでしょうけど、選手本人も感じている。コスタリカ戦みたいな感じにならないようにしたい。
やっていて思うのは、もっとシンプルにもロングボールと速い攻撃を使っていいのかなって。これまでもけっこうチャンスになっているのは、ロングボールを蹴って、セカンドを拾ってからの2次攻撃なので。
綺麗な攻撃だけじゃなくて、誰かがチームのために背後を走ってやるとか、そういうのは少し必要になってくると思います。まずは背後を狙うことで(スペースが)空いてくる」
本来はボールを握りたい日本の戦い方にこだわらず、これまでもロングボールを蹴ることはあったが回数を増やすことも......という提案だ。
出場停止の板倉滉のためにも一方で、前線からの守備も重要だ。たとえば、クロアチアの左CBヨシュコ・グヴァルディオル(ライプツィヒ)は持ち出しを得意とする。いかに封じるか、さらにはそこをいかに突破するか──。
「本当に(グヴァルディオルは)すばらしいタレント。ブンデスでも見ている。僕たちも選手同士で(クロアチアのことを)話し合っていて、真ん中は硬い選手が多いですし、中盤3人と2センターバックは経験のある選手ですけど、サイドを攻略するチャンスはあるのかなと思って。
今日のトレーニングではいい話し合いができました。ゴールをこじあけるのは真ん中だけじゃない。うまく(相手を)はがせる。解決策は見入れたんじゃないかと思う」
話し合いの内容にこそ触れなかったが、自信に満ちていた。
優勝国2カ国を倒し、次に戦うクロアチアは前回大会のファイナリスト。たぎる思いは熱い。
「そうですね、やっぱり選手全員が燃えています。どんな対戦相手でもおそらくこのベスト16っていうのは、全員が本当に体を投げ捨てて戦う覚悟ができている。本当に楽しみにしてほしいですし、ここまで来たら対戦相手は関係ないと思うんで。全部、どの相手もおそらく強いですし、ドイツ、スペインを倒した自信を持って臨めるので、準備はできています」
また、堂安個人にフォーカスすれば、一大会3得点の日本人選手はこれまでいない。現状でその記録を狙えるのは堂安だけだ。
だが、「ゴールはうれしいし、記録は狙えればうれしいけど、それは考えていなくて。まずはベスト16の壁を打ち破りたい」とチームの勝利を最優先に考えている。
時にはオフェンスの選手のエゴがチームを救うこともあるが......と聞いてみたが、一蹴されてしまった。
「いや、もう勝ちたい気持ち、それだけなので。これほど勝ちたいと思うことはないですし、この26人プラススタッフで歴史を変えたい、という気持ちは本当に強い」
フローニンゲン時代のチームメイトで、つき合いの長い板倉滉は次戦出場停止だ。だが、彼の分まで......とは軽々しく口にしない。
「彼自身が一番悔しいと思うので。落選したメンバーのことについて聞かれた時も言いましたけど、もう『彼の分まで戦う』みたいなことを簡単には言えないです。彼が試合を見た時に誇らしいなと思えるような試合を全員でやりたいと思いますし、彼の力はこれから絶対必要になってくるので、しっかり休んでもらって次につなげたい」
0-0の時間を長くしながら...ここから先は一戦必勝。3戦トータルの成績で争うグループステージとは違う。だが、堂安はこれまでどおりに戦うと言う。
「もともとグループステージの時から、0-0の時間を長くしながら得点を狙っていくというのが僕たちのこの大会のテーマというか戦術ではあったので、それは正直変わらないと思います。これだけ途中出場で結果を出してくれる選手もいますし、すばらしい選手がいるので、その戦い方は変わらないのかなと思います」
歴史を塗り替える。新しい景色を見に行く。それが必ずしも自らの左足からでなくても構わない。ただただ、勝利を誓う──。堂安律はそんな純粋な思いにあふれていた。