「機能性ディスペプシア」の自覚症状はご存知ですか?医師が監修!
胃もたれや胃痛など、上腹部の不快感に悩まされていませんか?
胃薬を飲んでいるのに中々症状が改善しない場合、機能性ディスペプシアの恐れがあるかも知れません。
自覚症状がある病院受診者の44~53%は、この病気が発覚するといわれています。
幸い、適切な薬を飲めば治る病気となり、はやく楽になるためにもすぐに病院を受診しましょう。
治療をしないと症状は長引く傾向にあるので、何ヶ月もつらい思いをすることになるでしょう。
ここでは、機能性ディスペプシアの症状や治療法・予防方法について詳しくご紹介します。
機能性ディスペプシアの特徴
機能性ディスペプシアとはどのような病気ですか?
機能性ディスペプシア(FD:Functional dyspepsia)は、上腹部の不快感が長く続く病気です。比較的最近使われ始めた医学用語なので、一般的にはあまり知られていません。生命を奪うような病気ではないものの、嫌な症状が長期間継続するため、患者さんのストレスは相当なものになるでしょう。
機能性ディスペプシアの患者さんは、胃痛や胸焼け・膨満感など、胃を中心とした上腹部の症状を自覚し、病院を受診します。ところが、胃カメラ検査など色々な検査方法で調べても、症状につながるような胃ガン・胃潰瘍などの異常は見つかりません。
胃の炎症は起きている場合も起きていない場合もありますが、慢性胃炎ともまた区別されます。いずれにしても、不快な症状がはっきり出ているのに、特定の病気と診断されないことが、機能性ディスペプシアの特徴の1つです。
しかも、多くの場合、上腹部の不快感は慢性の経過で寛解と増悪を繰り返します。さらにその症状が週1回以上あり、6か月以上持続する場合が多く見られます。
特定の病気が見つからないのに上腹部の不快症状が出ては治まるサイクルを何度も繰り返しているなら、機能性ディスペプシアの確率が高いでしょう。
自覚症状はありますか?
自覚症状はあります。色々な自覚症状が出るのが機能性ディスペプシアの特徴ですが、みぞおち付近の痛み・不快感から胸焼け・嘔吐感などが代表的なものです。「いつもよりご飯が食べられなくなった」と、訴える患者さんもいます。少し食べただけでお腹がいっぱいになることは、健康な人でも珍しくありません。一見病気の症状とは思わず、すぐに病院を受診しようとは考えない方が大半でしょう。ですが早期膨満感も、機能性ディスペプシアのよくある症状の1つです。何とか食べることができても、食後の胃もたれが激しくなるケースもあります。
また、げっぷが異常に多く出る症状が出て周りの視線が気になり、つらい思いをすることもあるようです。機能性ディスペプシアになると、1日2~3回の食事を快適に済ませられなくなる上、どの症状も長引きます。精神的なストレスも強く感じやすい病気です。
原因には何がありますか?
機能性ディスペプシアが引き起こされるメカニズムははっきり解明されているわけではなく、複数の原因が重なり合って発症することも多いようです。現時点ではストレスが引き金となり、胃や消化器官に機能的な問題が生じるという説も有力となっています。また、十二指腸の炎症の関与も指摘され、研究が進められている状況です。
健康な状態なら、食べたご飯はスムーズに十二指腸に送られ、問題なく消化可能です。ところが、ストレス・昼夜逆転の生活・慢性的な睡眠不足などの原因で消化器官に強い負担がかかると、本来の機能が正常に働かなくなります。
胃の粘膜に知覚過敏が起き、ちょっとした刺激で痛みや吐き気の症状が出ることもあるようです。胃酸過多など上腹部の不快症状も典型的な症状の1つです。他にも、遺伝要素や嗜好品の影響も指摘されています。
患者さんの割合はどのくらいですか?
近年、患者さんが増加中です。胃痛など、何らかの自覚症状があって病院を受診した患者さんのうち、44~53%が機能性ディスペプシアと診断されます。また、健康診断を受診後、11~17%の割合で、機能性ディスペプシアと診断されているようです。この数字からも、機能性ディスペプシアがとても身近な病気で、いつ発症してもおかしくないことが分かります。気のせいで済まさず、「自分もそうかも知れない」と可能性を否定しないことが大切です。
機能性ディスペプシアの診断と治療
診断はどのように行うのでしょうか?
機能性ディスペプシアの診断は、問診と検査の結果を踏まえて行います。他の病気ではないことを確認しなければいけないので、検査は色々な方法で徹底的に行います。症状だけで自己判断することはできない病気です。
問診ではどんな自覚症状が、いつからどれぐらいの期間出ているか、質問します。食後膨満感・いわゆるみぞおちの痛み・胸焼けなどの自覚症状が1つ以上出ているかどうか、症状が何ヶ月も前から出ているのかどうか、お尋ねします。
以前より食事量が減った場合も、この病気の可能性があります。病院を受診する3ヶ月前から同じ不快症状が続いているようなら、機能性ディスペプシアの疑いが濃厚です。
検査の種類について教えてください。
機能性ディスペプシアかどうか調べる検査は数種類あるので、色々な検査を受けることになるでしょう。通常はまず、胃カメラ検査で胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がんなどの病気の可能性を調べます。また、ピロリ菌に感染しているかどうかも、検査で調べなくてはいけません。他にも、超音波検査や血液検査を行うこともあり、腹部のCTを撮ることもあります。
こういった複数の検査を実施し、結果を総合的に判断し、機能性ディスペプシアの診断を下すのが一般的な流れです。
検査を一通り行っても、最終的に異常が見つからない場合、機能性ディスペプシアの診断を下す根拠になります。
機能性ディスペプシアと間違われやすい病気はありますか?
胃を中心につらい症状が出るので、消化器系の病気と間違われやすいでしょう。慢性胃炎も間違われやすい病気で、以前は特にストレス性の胃炎と誤診されることが多かったようです。
機能性ディスペプシアは、比較的最近生まれた医学用語で、近年になって色々なメカニズムが判明しつつあります。はっきりした原因がないため、病院に行っても気のせいだと診断される場合が多く、他の病気と区別することは簡単ではありませんでした。
しかし、色々な症例により胃に炎症が認められない場合でも機能性ディスペプシアの症状が出るケースも報告されており、その反対のケースがあることも分かっています。
現在では胃炎とは別の病態だと認識されるようになっており、炎症の有無だけで機能性ディスペプシアかどうか診断されることはなくなっているでしょう。
治療法が知りたいです。
治療は、基本的に服薬治療と生活習慣の改善の2本立てになります。処方される薬は、生活習慣などをヒアリングした上で決まるため、患者さんによって異なります。一般的には、消化器系の薬が出されることが多いでしょう。患者さんは胃の機能が衰えてしまっていることで共通しているので、胃の運動機能を良くする薬や胃酸が出過ぎないようにする薬が処方されます。
検査でピロリ菌がいることが判明した患者さんは、除菌することで症状が改善する可能性があるため、除菌のための薬が処方されるはずです。
ただ、ピロリ菌を除菌するための薬は人によってきき方が違うため、胃酸分泌抑制薬や消化管運動機能改善薬、それに漢方薬なども処方されます。
消化管運動機能改善薬のアセチルコリネステラーゼ阻害薬は、胃の蠕動運動を改善する有効成分アコチアミドの働きでピロリ菌を除菌し、症状を改善できるケースもあるようです。また、胃に負担をかける食生活が原因になっている可能性がある場合、食事の改善法を指導します。
精神的なストレスが引き金になっていると思われる患者さんは、ストレス発散法なども考えなくてはいけません。重いストレスの場合、抗うつ薬や抗不安薬が処方されることもあります。
ウォーキングなどの有酸素運動も胃の働きを改善する効果があるので、普段身体を動かしていない患者さんには運動療法を指示することもあります。
再発することはありますか?
あります。数人に1人は治療後再発するというデータも報告されています。病院で受診後きちんと治療を受け、服薬を終えた後は症状が落ち着いている患者さんもいらっしゃいます。ただ、元々寛解と増悪を繰り返す病気なので、再発する可能性は十分にあるでしょう。また、治療しても同じ症状が再発するケースや以前とは違う症状が出るケースもあります。
いずれにしても大半は軽症で済むようですが、異変を感じたらすぐに医療機関に相談しましょう。
機能性ディスペプシアの予防法
生活習慣で気をつけることはありますか?
生活習慣では、特に食生活とストレスに気をつけましょう。規則正しい生活を送り、暴飲暴食を避けることも、機能性ディスペプシアの予防に効果的です。日光を浴びる時間が少ないとセロトニンの分泌量が減り、イライラしやすくなるため、朝型生活を心がけることが大切です。自律神経が乱れると機能性ディスペプシアを発症しやすくなります。
寝不足や太陽の光を浴びない生活が続くと自律神経も不安定になりがちなので、夜型生活はできるだけ避けた方が良いでしょう。
ストレスを溜めないことも大切なのですね。
とても大切です。あまりくよくよと悩まず、ぐっすり眠るようにしましょう。嫌な出来事を経験した場合でも、前日によく眠れているかどうかで、ストレスに対する耐性に差が出ます。寝不足が続くと、ミスを連発しがちとなり、トラブルも起きやすくなる悪循環に陥ってしまいます。また、物事を意識して前向きに考えることも大事です。
ただ、精神的なストレスがかなり強い場合、ときに抗うつ剤などの薬を服用することも必要です。脳内のセロトニンが足りなくなると、ささいなことでもイライラし、ストレスも感じやすくなってしまいます。
足りないセロトニンを補う薬もあるので、自力ではどうにもならない時は薬も上手に頼りましょう。
食事の際はどのようなことに注意すればよいですか?
機能性ディスペプシアを改善・予防するための食事法では、3つのことに気をつけましょう。まず、よく噛んでゆっくり食べることが大切です。次に、食べ過ぎないよう注意してください。腹八分目を意識して、お腹いっぱいになりすぎないようにします。早食いも大食いも胃に負担がかかる食べ方です。
最後に、食後の休憩も忘れないようにしましょう。食べてすぐ動くと胃によくありません。食べ終わってから30分はリラックスして過ごしてください。
胃に負担をかける脂っこい料理や激辛フード・お酒の飲みすぎを避けることも大切ですが、基本的にはこの3つの食事法を軸に食生活を整えていくと効果的です。
セルフチェック法を教えてください。
胸焼けや胃痛など上腹部の不快症状を自覚している場合、機能性ディスペプシアの可能性があります。出雲スケールなど消化器症状のセルフチェック方法は、インターネット上でも公開されているので、チェックしてみて下さい。
「胸焼けがする」・「おなかがはる」・「喉の違和感がある」など10数項目の簡単な質問に答え、点数を数えるだけで大体の可能性が分かります。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
上腹部の不快症状があるなら、気のせいで済まさず、すぐに医療機関を受診しましょう。胃もたれが度々あるだけでも、食事を楽しむことができません。今は医学が進み機能性ディスペプシアのことがよく分かってきているので、専用の薬も開発され適切な治療法も色々あります。
自己判断で市販薬を飲むより、本当に必要な薬を処方してもらうと、不快症状からはやく解放される近道となります。
編集部まとめ
機能性ディスペプシアは身近な病気で、いつ誰がなってもおかしくありません。
胃もたれや胃痛など上腹部の不快症状が中々治らない、と自覚しているなら、すぐに医療機関で診てもらいましょう。
放置しても、自然によくなることはありません。病院の先生に相談することが、不快症状からはやく解放される近道になるはずです。
参考文献
機能性ディスペプシア(FD)(日本消火器病学会ガイドライン)