【漫画付き】妊娠中食べないほうがいいものってありますか?

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妊娠中の食生活について、ちまたでは、過度なほどの情報が飛び交っているようだ。中には相反する意見などもあり、どれを信じていいのかわからない。そこで、柴田産婦人科医院の柴田浩之先生に、優先順を付けて整理していただいた。絶対ダメなもの、できれば避けたいもの、実は大丈夫なものなど、段階を追って見ていこう。

監修医師:
柴田 浩之(柴田産婦人科医院 院長)

獨協医科大学卒業。獨協医科大学付属病院第一麻酔科、日本医科大学付属病院産婦人科、日本赤十字社葛飾赤十字産院、下都賀総合病院産婦人科、都立墨東病院周産期センター産婦人科へ勤務後、2003年に柴田産婦人科医院副院長、2019年に院長就任。同院における2万例以上の出産経験から、「安全・安心・アットホームな医療」に務めている。日本産科婦人科学会専門医、厚生省認定麻酔科標榜医、母体保護法指定医、日本医師会認定健康スポーツ医、八王子市立学校医。

ワースト3は、お酒・生肉・タバコ

編集部

妊娠中、絶対食べてはいけないものを教えてください

柴田先生

あまり細かく言いだすとキリがないので、最初に“ざっくり”まとめさせてください。とにかく、「酒類、生肉、タバコ」の3点は絶対に控えましょう。それ以外の食べ物は、賞味期限を厳守し、加熱してから食べること。これだけなら、覚えやすいのではないでしょうか。

編集部

酒類から順に詳しい説明をいただけますか?

柴田先生

妊娠と気づく前のごく初期に知らずに飲んでしまった、もっと言えば、酔いつぶれるくらい飲んでしまった、としても通常問題ありません。ただし、その後は飲まないようにして下さい。問題なのはたとえ少量であったとしても妊娠期間中コンスタントに飲み続けることです。胎児アルコール症候群といって、お子様の正常な発達、発育を妨げる原因となり得ます。

編集部

続けて、生肉とタバコの弊害についてもお願いします。

柴田先生

生肉で怖いのは、トキソプラズマという寄生虫です。水頭症といって頭蓋腔内に水(髄液)が過剰に貯まる病態や視力障害といった合併症を引き起こすことで知られています。タバコもさまざまな合併症を起こしますよね。例えば流産早産死産子宮内胎児発育遅延胎盤の早期剥離、などなどあらゆる合併症の原因となり得ます。もちろん受動喫煙でも起こりえます。

3大タブーを守れるようになってきたら

編集部

「生肉」の中には生魚も含まれるのですか?

柴田先生

いいえ。足のある家畜の生肉という意味です。魚で言えば、アジやサバなどの青魚、イカ、その他に含まれるアニサキスという寄生虫が問題です。高温や低温で死滅しますので、加熱調理するか刺身であれば冷凍ものを利用するといいでしょう。なおアニサキスは通常の調理で使うような塩、酢、わさびなどでは死滅しません。また、カキなどの二枚貝の生食は、ノロウイルスが怖いので避けてください。

編集部

過剰に食べないほうがいいものは?

柴田先生

ビタミンAが多く含まれている食物ですね。代表的なものとして、ウナギレバーなどがあげられます。ビタミンAの過剰摂取により、奇形を起こす可能性のあることが知られてきました。ただし、ニンジンなどの植物性ビタミンAなら問題はありません。また海草類も、ヨウ素の過剰摂取により甲状腺の機能を損なう恐れがあります。

編集部

逆に「実は食べても大丈夫」という食品はあるのでしょうか?

柴田先生

生ハム」は危険とされることもあるようですが、国産大手の取り扱っている「生ハム」は加工品なので、食べても大丈夫です。厳密な意味での「生」ではありません。ナチュラルチーズも同様で、リステリアという食中毒を起こす菌がいると言われているものの、これも国産大手のものであれば大丈夫でしょう。食品衛生法の下、厳密に管理されているからです。詳しくは、乳製品メーカーのホームページなどを調べてみてください。ただし、賞味期限は守るようにしましょう。

編集部

生肉と聞くと生卵が心配になってきます。

柴田先生

日本は生卵を食べる珍しい国で、それだけにサルモネラ菌などの殺菌消毒を徹底しています。ただし、消毒できる範囲は殻の外側まで。何らかの原因で卵の中にサルモネラ菌が入り込む確率は、10万個のうち3個前後といわれています。しかし、サルモネラ菌に感染した卵を食べたからといって、必ずしも食中毒になるとは限りません。妊娠中は免疫能が低下しているので生卵は避けた方が無難ですが、絶対という程のこともないでしょう。但し養鶏場などから直行してきた新鮮な卵の生食は妊娠中は是非避けて下さい。

編集部

他にもありましたら続けてお願いします。

柴田先生

アニサキスやノロウイルスの問題を除けばすしや刺身は一般に食べても大丈夫です。食あたりや食中毒の心配は、通常の範囲なら抑えられているはず。問題視されがちなのは、魚自体が摂取してきた水銀などの重金属類ですが、量にもよりますよね。食事として食べる程度の量なら、気にしなくていいのではないでしょうか。

食事だけで補うのが難しい栄養素も

編集部

食べたほうがいいものはありますか?

柴田先生

何か特定の食べ物に偏るのではなく、バランスのいい食事をこころがけましょう。あえてあげるとすれば、緑黄色野菜や小魚などでしょうか。妊娠中に不足しがちなビタミン類やカルシウムなどを補ってくれます。

編集部

食べ物以外のサプリメントについてはどうでしょう?

柴田先生

ビタミンの一種である葉酸は、食事から十分に取ることが難しいとされています。脳や脊髄といった中枢神経系の形成と関係しており、無脳症や二分脊椎など神経管欠損症の予防になりますので、妊娠前からサプリメントで補うといいでしょう。当医院でも手頃な価格で「葉酸+マルチビタミン」などを処方しています。

編集部

妊娠中の食生活が子どものアレルギー体質を決めるって、本当ですか?

柴田先生

小児科の先生と話し合ってみたのですが、はっきりした因果関係がわかっていないので、あまり気にしなくてもいいと思います。

編集部まとめ

禁忌の食べ物を覚えきれずに混乱するより、まずは、「酒類、生肉、タバコ」の3点に集中しましょう。もちろん、のまない、食べない、吸わないという意味です。その後、慣れてくるにしたがって、できるところから範囲を広げていくのがコツ。また、「もしかしたら、体に悪いのでは」という自然な感覚も大切にしたいですね。妊婦、危うきに近寄らず。あえてリスクをおかす必要はありません。