厚生労働省が発表している「2021年 国民生活基礎調査の概況」によると、世帯年収2,000万円以上の世帯は全体のわずか1.4%しかいません。平均所得金額は564万3,000円、中央値は440万円のなか、世帯年収2,000万円はかなりの高所得者に該当します。だからといって、世帯年収2,000万円のパワーカップルでも住宅ローンで失敗する可能性はゼロではありませんし、高所得者だからこそ失敗しやすいポイントもあります。
今回は、世帯年収2,000万円の人が住宅ローンを組むうえで知っておきたい注意点や、失敗の回避策について解説します。

世帯年収2,000万円でも住宅ローンで失敗する!? 失敗事例と回避策

世帯年収2,000万円の人が、住宅ローンを利用する際にありがちな四つの失敗事例と、その失敗を回避するための考え方は以下のとおりです。

ライフイベントを考慮せずに夫婦の所得を合算してペアローンを組んだ
住宅ローンを利用する際、夫婦の年収を合算することで、より多くの借り入れが可能になります。ただ、ここで気を付けておかなければならないのは、「2人ともその収入が今後ずっと続くとはかぎらない」ということです。

例えば、出産や育児、介護などによってそれまでのキャリアを中断しなければならなくなった場合、収入が大幅に減る可能性も十分に考えられます。特に出産や育児のために休業し、復帰する予定だったけれども、さまざまな事情により復帰を断念せざるを得ない状況に陥る可能性に関しては、慎重に考えておかなければなりません。

そのため、借り入れる額は1人分の収入で無理なく返せる額を設定することが失敗しない秘訣です。そのうえで、もう1人の収入分を繰り上げ返済などに充てればいいのです。

住宅ローンの返済以外の支出を少なく見積もっていた
住宅ローンの契約では、物件の購入代金以外にも頭金や印紙税、ローン事務手数料や保証料のほか、登録免許税、不動産取得税、固定資産税、火災・地震保険料、修繕積立費などの諸費用が発生することを忘れてはいけません。そして、これらの費用は物件の価格に比例して高額になるのが一般的です。

高級物件や高級住宅地の場合は、管理費や修繕積立費が通常の物件に比べて高くなるだけでなく、周りの生活レベルも高い傾向があるため、住宅ローンの返済以外の支出も多くなりがちです。

特に、子どものいる家庭などでは、教育費の負担も考慮したうえで、住宅の購入費用に充てられる金額はどのくらいかを考える必要があります。そして、物件の購入費用以外に必要となる金額を加味しながら、住宅の購入価格の目安を決めるようにしましょう。

頭金を入れなかった・諸費用込みの住宅ローンを組んだ
住宅ローンの利用にあたっては、前述の諸費用が必要になりますし、頭金も用意しなければなりません。購入する物件が高級物件の場合、必要な頭金や諸費用も高額になります。

もちろん、住宅ローン商品のなかには、頭金を不要とするものや、諸費用込みでローンが組めるものも存在しますが、その分適用される金利が高くなるなどのデメリットがあるケースが多くみられます。

確かに、預貯金をあまり使いたくないと考える人にとって、頭金が不要で、諸費用込みにしてくれる融資条件は魅力的に映りますが、その分、借入金の利息負担が増え、毎月の返済負担が重くなることにつながります。そのため、住宅ローンの利用については、入念な返済シミュレーションを行って比較検討することが大切です。

また、高所得者の場合、住宅ローン控除を最大限活用したい、という節税目的で多めに借り入れるという選択肢もあります。その場合は、住宅ローン控除の適用が終わった時点で、毎月の返済額が適正になるように、繰り上げ返済を行えるだけの資金を準備しておくことが鉄則です。

額面年収を基に住宅ローンを組んだ
年収が高くなると、税金や社会保険料などの負担も重くなり、額面と手取り額の乖離は大きくなります。例えば、年収1,500円の夫と年収500万円の妻のケースにおいて、この夫婦の手取り額は大体以下のとおりです。

(夫)
・社会保険料(年額):約150万円
・所得税:約211万円
・住民税:約112万円
年収が1,500万円あったとしても、社会保険料や税金で500万円近くが引かれるため、手取り収入は年間1,027万円、ボーナスを考慮しない場合月額に換算すると約85万円です。

(妻)
・社会保険料(年額):約71万円
・所得税:約14万円
・住民税:約25万円
年収500万円の妻の場合、社会保険料および税金で引かれる額は約110万円のため、手取り収入は年間390万円、月額に換算すると約32万円です。

世帯収入が2,000万円だったとしても、手取り収入は約1,400万円、月額約117万円にまで下がってしまうのが現状です。そのため、額面ではなく、手取り収入をベースに、余裕をもって返済できるかどうかという視点が大切になります。

世帯年収2,000万円の住宅ローン借入可能額と借入適正額

では、世帯年収2,000万円の住宅ローン借入可能額と借入適性額にはどれくらいの差があるのでしょうか。以下に詳細をみていきましょう。

世帯年収2,000万円の住宅ローン借入可能額の目安は?
世帯年収2,000万円の内訳を、世帯主1,500万円、配偶者500万円と想定すると、夫婦で協力して申し込めば世帯年収の7~10倍の1億4,000万円~2億円程度まで借りられる場合が多いです。ただし、住宅ローンについては1人あたりの融資上限額を1億円(団信込み)とする金融機関がほとんどのため、1億4,000万円が実際の借入可能額と考えてよいでしょう。

また、融資可能額については、年収倍率で考えるのではなく、返済負担率(返済比率)で審査を行う金融機関が多く、目安とする返済負担率は30%~35%、高くても40%までとしています。返済負担率とは、「年収に占める年間のローン返済額の合計額」を数値化したもので、「年間のローン返済額合計÷年収」で求めます。

世帯年収2,000万円の借入適正額の目安は?
家族構成や、自動車ローンや奨学金などといったその他の借り入れの有無にもよりますが、無理なく返済していくためには、住宅ローンの返済額を世帯主の手取り月収の25%までに抑えたほうがいいといわれています。あわせて、ローン返済額以外に発生する住宅関連支出を含めた住居費が、30%程度になるようにしましょう。

世帯主の年収が1,500万円なら7,000万円程度、1,000万円なら5,000万円程度までの借入額に抑えることで、返済できなくなるリスクを最小限に抑えられます。

【世帯年収2,000万円】住宅ローンの返済シミュレーション

以下の条件で試算した年収2,000万円世帯の返済シミュレーションをみてみましょう。

世帯主条件:40歳、男性、月収125万円、ボーナスなし、配偶者あり、子(中学生2人)
35年ローン→ARUHIフラット35(9割以下)、借入金利1.52%(2022年9月の実行金利)、元利均等返済、新機構団信あり、自己資金は物件価格の2割、ボーナス返済なし
(配偶者条件:35歳、女性、月収42万円、ボーナスなし)
※8000万円超は他行で同条件の住宅ローンを組んだと仮定

頭金や諸費用の支払いで預貯金が減ることが想定されますが、子どもの学費などこれから必要となるお金を残せるかという視点も必要です。その視点から考えると、上の世帯主の年収1,500万円、配偶者の年収500万円の世帯であっても、世帯主の収入の10倍近い住宅ローンを組んでしまうと、世帯主の手取り収入の半分以上を返済に回すことになり、住宅関連の支出を加味すると、負担が重すぎることがわかります。

まとめ

金融機関のなかには、世帯年収の10倍程度まで住宅ローンを融資してくれるところもありますが、借入可能額と返済可能額は異なります。大切なのは、「借りられる額を借りるのではなく、無理なく返せる額を借りる」ことです。

そのことを頭に入れ、今後のライフイベントや学費などの支出に備え、毎月の返済額が世帯主の手取り月収の25%程度まで(住宅関連支出を含めるなら30%程度まで)になるように調整することで、住宅ローンで失敗する確率を低く抑えることができます。