融資審査に通る創業計画書と通らない創業計画書の決定的な違い
独立・起業は人生を賭けた大勝負。その成否を決める大きな要因の一つが「資金」だ。
自己資金だけで開業できない場合、銀行から融資を受けるのが一つの方法になるが、これらについて知らなかったり、「お金を借りる」ことへの嫌悪感から乏しい自己資金で起業し、資金繰りが不安定な創業期を乗り切れずに倒産してしまうケースは多い。その意味で融資のリテラシーは起業に必須だ。
『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一著、幻冬舎刊)はこれから起業する人、事業を成長させたい人に向けて金融機関からの融資を受けるノウハウを解説する一冊。どうすれば融資を受けやすくなるのか、あるいは融資を受けにくい人とはどんな人なのか。著者の田原広一さんにお話を聞いた。今回はその後編である。
田原広一さんインタビュー前編を読む
■融資審査に通る創業計画書 通らない創業計画書
――傾向と対策を知って備えさえすれば、誰でも融資はクリアできるとされています。融資の際の「傾向」とはどのようなことを指すのでしょうか?
田原:相手が何を求めているのかを把握して、それに応えるような準備をすることです。
たとえば転職面接であれば、相手は「この人はうちに転職してきた後に活躍できるかどうか」しか見ていませんよね。融資も同じで、金融機関は「この人は貸したお金を返してくれるかどうか」しか見ていません。それが傾向です。「貸したお金を返してくれる人」とはどういう人かを考えて、創業計画書で表現していけばいい。
――創業計画書については「融資審査に通りやすい書き方」を解説されていましたね。
田原:創業計画書はフォーマットがあって、その項目にあることが聞かれるので準備はしやすいと思います。創業時の融資って、そもそも過去がないので過去の実績についての質問がないですしね。
「創業の動機」や「どういうことをやっていくつもりか」「取引先や仕入れ先、外注先」「従業員はどうするか」「融資金をどういうところに投資するか」など、「これから」について聞かれるので、そこに答えていけばいいわけです。
――融資を受けにくい業種、業態などはありますか?
田原:あります。最近厳しいのがフランチャイズです。コンビニの場合は潰さないように体制が整っているので、融資は比較的受けやすいのですが、問題はコンビニ以外のフランチャイズで、こちらはすごく厳しくなっています。
ただ、絶対無理ということではなくて、たとえば清掃業社で経験があって、これからはフランチャイズに加盟することで自分の経験を活かしつつフランチャイズのメリットも受けたいというような提案であれば通りやすいと思います。
あとは、真似されやすいビジネスも比較的難しいです。たとえば中国から商品を仕入れてメルカリで売るようなビジネスで、なおかつ扱うのが新品だけというようなケースは誰でも真似ができてしまうじゃないですか。
金融機関側も「新品しか仕入れないで戦えるほど甘くない」ということはわかっていますから、古物商の資格を持っていないと9割9分審査落ちします。
――創業から2年間で、2、3行以上の金融機関と付き合うことをお勧めされていました。「どこの銀行とどう付き合う」というモデルケースがありましたら教えていただきたいです。
田原:政府系金融機関の日本政策金融公庫でまず借りていただいて、二つ目に関しては近くの信用金庫とか信用組合など、比較的小さい所と取引していただきたいです。
日本政策金融公庫は国の機関ということで「保証協会」という概念はないのですが、信用金庫は民間企業ですから、「何かあったら私たちが負担しますから、積極的に融資をしてくださいね」という保証協会があります。彼らのおかげで民間の金融機関が創業融資を積極的に行えるわけです。
一方で、信用金庫で融資を受けるときはこの保証協会の審査があります(※)。審査に通ればローンを組めるし、通らなければお金を借りられません。
なぜ日本政策金融公庫と民間の信用金庫・信用組合の二箇所で借りていただきたいと言ったかというと、国(日本政策金融公庫)の審査と民間金融機関の保証協会の審査に通っておくと、相談先が二つになるんですよね。そうすると二度目以降の融資の審査に通りやすいんです。何かあった時に助けてくれるかもしれない場所は複数用意しておいた方がいい、ということです。それぞれに融資を受けて、両方と取引実績を持っておくことをおすすめしています。
※信用金庫との取引実績がつくことで、保証会社を経由せずとも融資をしてくれるケース(プロパー融資)もあるが、創業時の融資では、基本的に保証協会を経由した融資となる。
――銀行からの融資の他に、投資家から出資を受ける創業者もいます。融資との組み合わせ方についてアドバイスをいただければと思います。
田原:投資家からの出資というとベンチャーキャピタルやエンジェル投資家だと思いますが、ベンチャーキャピタルについては創業したばかりでは考えない方がいいと思います。というのも、ベンチャーキャピタルはその事業に相当の成長性がないと出資してくれません。例えば過去にものすごい実績を持っている経営者でもない限り、創業初期から何千万円も出資してくれることは基本的にはないです。
エンジェル投資家も、本物の「エンジェル」もいれば、エンジェルの皮をかぶった「悪い投資家」もいるので注意が必要です。「株を50%渡せば300万円出資してあげる」と言ってくる人もいるので。
何も要求せずに出資してくれる本当の「エンジェル」が周りにいるなら出資してもらってもいいと思いますが、最初にエンジェル投資家に出資してもらい金融機関との取引を持たなかったことで、追加でお金が必要になった時に困ってしまうケースもありますし、株を渡すと売却されてしまうリスクもある。数百万円程度の調達であれば金融機関の融資の方が楽なんじゃないかと思いますね。
――最後にこれから起業を考えている人や、起業した会社をもっと大きくしていきたい人に向けてメッセージをいただければと思います。
田原:会社って、手元のお金を上手に使えばちゃんと利益が出るんです。その利益で借りたお金を返済して、その実績によって後々で追加の融資を受けられる。そうやってお金の好循環を作っていくことが起業家にとってはすごく大切になります。今回の本を通して、その好循環を生む資金調達戦略を解説していますので、ぜひ参考にして身につけていただきたいと思っています。
(新刊JP編集部)
田原広一さんインタビュー前編を読む
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自己資金だけで開業できない場合、銀行から融資を受けるのが一つの方法になるが、これらについて知らなかったり、「お金を借りる」ことへの嫌悪感から乏しい自己資金で起業し、資金繰りが不安定な創業期を乗り切れずに倒産してしまうケースは多い。その意味で融資のリテラシーは起業に必須だ。
『増補改訂版 独立開業から事業を軌道に乗せるまで 賢い融資の受け方38の秘訣』(田原広一著、幻冬舎刊)はこれから起業する人、事業を成長させたい人に向けて金融機関からの融資を受けるノウハウを解説する一冊。どうすれば融資を受けやすくなるのか、あるいは融資を受けにくい人とはどんな人なのか。著者の田原広一さんにお話を聞いた。今回はその後編である。
■融資審査に通る創業計画書 通らない創業計画書
――傾向と対策を知って備えさえすれば、誰でも融資はクリアできるとされています。融資の際の「傾向」とはどのようなことを指すのでしょうか?
田原:相手が何を求めているのかを把握して、それに応えるような準備をすることです。
たとえば転職面接であれば、相手は「この人はうちに転職してきた後に活躍できるかどうか」しか見ていませんよね。融資も同じで、金融機関は「この人は貸したお金を返してくれるかどうか」しか見ていません。それが傾向です。「貸したお金を返してくれる人」とはどういう人かを考えて、創業計画書で表現していけばいい。
――創業計画書については「融資審査に通りやすい書き方」を解説されていましたね。
田原:創業計画書はフォーマットがあって、その項目にあることが聞かれるので準備はしやすいと思います。創業時の融資って、そもそも過去がないので過去の実績についての質問がないですしね。
「創業の動機」や「どういうことをやっていくつもりか」「取引先や仕入れ先、外注先」「従業員はどうするか」「融資金をどういうところに投資するか」など、「これから」について聞かれるので、そこに答えていけばいいわけです。
――融資を受けにくい業種、業態などはありますか?
田原:あります。最近厳しいのがフランチャイズです。コンビニの場合は潰さないように体制が整っているので、融資は比較的受けやすいのですが、問題はコンビニ以外のフランチャイズで、こちらはすごく厳しくなっています。
ただ、絶対無理ということではなくて、たとえば清掃業社で経験があって、これからはフランチャイズに加盟することで自分の経験を活かしつつフランチャイズのメリットも受けたいというような提案であれば通りやすいと思います。
あとは、真似されやすいビジネスも比較的難しいです。たとえば中国から商品を仕入れてメルカリで売るようなビジネスで、なおかつ扱うのが新品だけというようなケースは誰でも真似ができてしまうじゃないですか。
金融機関側も「新品しか仕入れないで戦えるほど甘くない」ということはわかっていますから、古物商の資格を持っていないと9割9分審査落ちします。
――創業から2年間で、2、3行以上の金融機関と付き合うことをお勧めされていました。「どこの銀行とどう付き合う」というモデルケースがありましたら教えていただきたいです。
田原:政府系金融機関の日本政策金融公庫でまず借りていただいて、二つ目に関しては近くの信用金庫とか信用組合など、比較的小さい所と取引していただきたいです。
日本政策金融公庫は国の機関ということで「保証協会」という概念はないのですが、信用金庫は民間企業ですから、「何かあったら私たちが負担しますから、積極的に融資をしてくださいね」という保証協会があります。彼らのおかげで民間の金融機関が創業融資を積極的に行えるわけです。
一方で、信用金庫で融資を受けるときはこの保証協会の審査があります(※)。審査に通ればローンを組めるし、通らなければお金を借りられません。
なぜ日本政策金融公庫と民間の信用金庫・信用組合の二箇所で借りていただきたいと言ったかというと、国(日本政策金融公庫)の審査と民間金融機関の保証協会の審査に通っておくと、相談先が二つになるんですよね。そうすると二度目以降の融資の審査に通りやすいんです。何かあった時に助けてくれるかもしれない場所は複数用意しておいた方がいい、ということです。それぞれに融資を受けて、両方と取引実績を持っておくことをおすすめしています。
※信用金庫との取引実績がつくことで、保証会社を経由せずとも融資をしてくれるケース(プロパー融資)もあるが、創業時の融資では、基本的に保証協会を経由した融資となる。
――銀行からの融資の他に、投資家から出資を受ける創業者もいます。融資との組み合わせ方についてアドバイスをいただければと思います。
田原:投資家からの出資というとベンチャーキャピタルやエンジェル投資家だと思いますが、ベンチャーキャピタルについては創業したばかりでは考えない方がいいと思います。というのも、ベンチャーキャピタルはその事業に相当の成長性がないと出資してくれません。例えば過去にものすごい実績を持っている経営者でもない限り、創業初期から何千万円も出資してくれることは基本的にはないです。
エンジェル投資家も、本物の「エンジェル」もいれば、エンジェルの皮をかぶった「悪い投資家」もいるので注意が必要です。「株を50%渡せば300万円出資してあげる」と言ってくる人もいるので。
何も要求せずに出資してくれる本当の「エンジェル」が周りにいるなら出資してもらってもいいと思いますが、最初にエンジェル投資家に出資してもらい金融機関との取引を持たなかったことで、追加でお金が必要になった時に困ってしまうケースもありますし、株を渡すと売却されてしまうリスクもある。数百万円程度の調達であれば金融機関の融資の方が楽なんじゃないかと思いますね。
――最後にこれから起業を考えている人や、起業した会社をもっと大きくしていきたい人に向けてメッセージをいただければと思います。
田原:会社って、手元のお金を上手に使えばちゃんと利益が出るんです。その利益で借りたお金を返済して、その実績によって後々で追加の融資を受けられる。そうやってお金の好循環を作っていくことが起業家にとってはすごく大切になります。今回の本を通して、その好循環を生む資金調達戦略を解説していますので、ぜひ参考にして身につけていただきたいと思っています。
(新刊JP編集部)
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