「肥満は神経発達症である」と科学者が提唱
肥満は近年急速に増加しており、世界で20億人が影響を受けている不健康の最大の原因の1つに数えられています。肥満と遺伝子に関する研究から、専門家が「肥満は子どもの頃の脳の発達に由来する神経発達症として分類されるべき」と提唱しました。
Sex-specific epigenetic development in the mouse hypothalamic arcuate nucleus pinpoints human genomic regions associated with body mass index | Science Advances
Scientists propose obesity is a neurodevelopmental disorder | BCM
https://www.bcm.edu/news/scientists-propose-obesity-is-a-neurodevelopmental-disorder
Obesity should be considered a brain disorder like autism or ADHD, US doctors sensationally claim | Daily Mail Online
https://www.dailymail.co.uk/health/article-11259433/Obesity-considered-brain-disorder-like-autism-ADHD-doctors-sensationally-claim.html
アメリカ・ベイラー医科大学のハリー・マッケイ氏らの研究チームは、2022年9月に科学誌のScience Advancesに掲載された研究の中で、マウスの脳で食べ物の摂取や身体活動、代謝をつかさどっている視床下部の弓状核という領域の調査を行いました。
その結果、発達期の弓状核はエピジェネティクス的な変化、つまり遺伝子配列を変えずに遺伝子の発現が変わる現象が起きていることが分かりました。これは、子どものころに弓状核がうまく成長しなかった場合、大人になってから体重の調節がうまくできなくなる場合があることを意味しています。
この結果についてマッケイ氏は「私たちは、生後間もない時期に弓状核がエピジェネティックな成熟を経ることを突き止めました。この時期は、体重調節の発達プログラムにも大変敏感なので、体重調節への影響は今回見つかったエピジェネティックな成熟の調節不全の結果である可能性が示唆されます」と説明しました。
さらに、研究チームがマウスの弓状核で見つかったエピジェネティクスのデータをヒトゲノムのデータと比較して分析したところ、マウスの弓状核でエピジェネティックな成熟を起こしているゲノムの領域と肥満度に関連するヒトゲノムの領域とが重なっていることが判明しました。
この発見は研究者らを特に驚かせたとのことで、研究チームは論文の中で「この関連性から、人間の肥満リスクは弓状核のエピジェネティックな発達によって部分的に決定されていることが示唆されます」と結論付けています。また、研究チームは今回見つかった変化が男性より女性でより早期に発生しており、この点で女性の方が早熟であることも突き止めました。
こうした研究結果から、マッケイ氏は「私たちの研究は、子どもの頃の環境と遺伝的影響の両方における肥満リスクに、発達におけるエピジェネティクスが関与している可能性が高いという新しいエビデンスを提供しています。従って、今後は発達の過程を対象とした予防の取り組みが肥満対策のカギとなる可能性があります」と述べました。