『#真相をお話しします』が提示する「今という名のミステリ」結城真一郎インタビュー(1)
テクノロジーの発展やツールの進化によって社会は変わり、社会で起こりうる出来事を書く小説も変わる。
特にミステリは新しく世に普及したガジェットや最新の情勢をこれまでになかったストーリーやトリックとして生かしやすい。結城真一郎さんの『#真相をお話しします』(新潮社刊)は、2020年代の「今」を小説に落とし込んだミステリ作品集として大きな話題を呼んでいる。
コロナ禍で一気に普及したリモート会議ツールや精子提供、マッチングアプリが事件の背景になり、動機になり、トリックになるこの作品集はどのように生まれたのか。結城さんにお話をうかがった。(インタビュー・記事/山田洋介、撮影/金井元貴)
テクノロジーの発展で「往年のトリック」が生まれ変わる 結城真一郎インタビュー(2)を読む
■結城真一郎『#真相をお話しします』が提示する「今という名のミステリ」
――結城さんの新作『#真相をお話しします』にはここ最近世の中に普及したことや、話題になったトピックがミステリに織り込まれています。作品に現代性を与えることは普段から意識されているのでしょうか?
結城:意識してないと言えば嘘になりますが、今回は特に現代性を前面に出しているところがあります。ただ、デビュー作の『名もなき星の哀歌』はあまり現代性と関係ない作品ですし、二作目の『プロジェクト・インソムニア』は今の世の中にはない架空の技術を入れていますから、いつも意識しているわけではないです。
――全体として統一感がありました。企画当初から「現代性」をテーマに書いていこうというのがあったわけですか?
結城:そういうわけではないです。この本に入っている短編はいずれも「小説新潮」に掲載されたものですが、いずれ単行本になることを見越して、何かテーマがあった方がまとめやすいかな、という「下心」はありましたが(笑)。統一感があったと思っていただけたなら狙い通りというか、伏線回収完了という感じです。
――個人的には「三角奸計」で使われたリモートミーティングのツールを使ったトリックがおもしろかったです。「こういう使い方があるのか」と新鮮でした。
結城:ありがとうございます。僕もコロナ禍でリモート飲み会を何度かやったのですが、通信のタイムラグや、複数人が同時にしゃべると成立しないところとかが鬱陶しくて嫌だったんです。
そういうリモートミーティングに対して、みんなが感じているであろう不都合さや鬱陶しさが目眩しになるトリックだったり、そのトリックが生きてくるシチュエーションがあるんじゃないか、というのが発想の出発点になっています。
――結末の驚きという意味では「#拡散希望」が素晴らしかったです。これはYouTuberを題材にされていますが、どのように構想されたんですか?
結城:YouTuberの中でも「迷惑系YouTuber」とか私生活を切り売りするタイプのYouTuberを書いてみようというのが最初の発想としてあって、そこからどういう番組が異常かな、と考えていきました。そこが決まったら、どんな登場人物で、どんな主人公なら驚きがあるのかを考える、という流れです。
――全体として、後ろの作品にいくほど話の構造もトリックも精密になっていくように感じました。
結城:それは偶然だと思います。本の中では最後に置いている「#拡散希望」は書いた順で言うと二番目なので。
でも、「#拡散希望」は例外ですが、最初の「惨者面談」はデビュー直後に書いたもので、「ヤリモク」や「パンドラ」「三角奸計」は書き下ろし長編を何冊か経て書いているので、話の複雑性や読者の騙し方のコツのようなものは後ろの作品ほど若干洗練されているのかもしれません。グラデーションのように感じられたなら、そのせいかもしれませんね。
――書き方の洗練のお話がありましたが、デビューされて以降、自分の小説に変化を感じられたりはしますか?
結城:どうなんでしょう。読みやすくはなったのかな…。デビュー直後に、たとえばアイデアとして「三角奸計」のストーリーを思いついていたとしても、書いてみたらもっと冗長になっていたでしょうね。
あまり実感はないですが、情報を整理して書いたり、状況を端的に表すというところは上達しているのかもしれません。デビュー作の単行本を読み返すと「何だこれ?」って思う部分もありますし。
――小説を書くときに念頭に置いていることについて教えてください。やはり読者を「騙す」と言いますか、「驚かせる」ことを目指して書いているのでしょうか?
結城:あえて第一義が何かと言われたら、「風呂敷をたたみきる」ことです。
「こうしたら読み手は驚くだろう」ということより、作中のあちこちに書いたことが最後に結実すること、「これ、最後に伏線回収できるの?」というところまで風呂敷を広げても、最後にパズルがきれいにはまって一枚絵が完成することに注力していますし、そこが自分の持ち味だと思っています。自分も読書をしていて楽しいポイントもそこだったりするので。
――風呂敷を広げる時はたたむ時のことを考えているんですか?
結城:「最後にたたんでこの形にする」と決めてから広げています。無茶に広げてたたみきれなかったことは今のところはないです。
想定外の展開で、これまで見えていた世界がガラリと変わるという「どんでん返し」も大切にしたいですが、それと同じくらい「きれいにたたむ美学」も大切にしたいんです。
――読者が一緒に謎解きを楽しむことも想定されていますか?
結城:いろいろな読み方をする方がいると思うのですが、自分自身ミステリを読む時は謎を解いてやろうと身構えては読まないタイプなんですよね。
もちろん先を予想したり、謎を解こうと考えながら読んでいただくのもいいですし、ストーリーに身を任せて読んでいただいてもいいのですが、どちらかというと後者の方向けに書いているところがあります。
仮に本気で謎解きをしながら読もうとなった時に、この本の作品の謎を全部解けるかというとそれは無理じゃないかと思います。というのも、冒頭から情報を丁寧拾っていけば排他的に一つの解が出てくるという書き方はしていませんから。どちらかというと、流れに身を任せて読んでいただいて、読み終わった後に「ああ、だからこうだったんだ」と振り返って楽しめるスタイルに近いかもしれません。
テクノロジーの発展で「往年のトリック」が生まれ変わる 結城真一郎インタビュー(2)を読む
【関連記事】
株トレードで個人トレーダーが勝つために必要なこと
【「本が好き!」レビュー】『あちらにいる鬼』井上荒野著
特にミステリは新しく世に普及したガジェットや最新の情勢をこれまでになかったストーリーやトリックとして生かしやすい。結城真一郎さんの『#真相をお話しします』(新潮社刊)は、2020年代の「今」を小説に落とし込んだミステリ作品集として大きな話題を呼んでいる。
コロナ禍で一気に普及したリモート会議ツールや精子提供、マッチングアプリが事件の背景になり、動機になり、トリックになるこの作品集はどのように生まれたのか。結城さんにお話をうかがった。(インタビュー・記事/山田洋介、撮影/金井元貴)
■結城真一郎『#真相をお話しします』が提示する「今という名のミステリ」
――結城さんの新作『#真相をお話しします』にはここ最近世の中に普及したことや、話題になったトピックがミステリに織り込まれています。作品に現代性を与えることは普段から意識されているのでしょうか?
結城:意識してないと言えば嘘になりますが、今回は特に現代性を前面に出しているところがあります。ただ、デビュー作の『名もなき星の哀歌』はあまり現代性と関係ない作品ですし、二作目の『プロジェクト・インソムニア』は今の世の中にはない架空の技術を入れていますから、いつも意識しているわけではないです。
――全体として統一感がありました。企画当初から「現代性」をテーマに書いていこうというのがあったわけですか?
結城:そういうわけではないです。この本に入っている短編はいずれも「小説新潮」に掲載されたものですが、いずれ単行本になることを見越して、何かテーマがあった方がまとめやすいかな、という「下心」はありましたが(笑)。統一感があったと思っていただけたなら狙い通りというか、伏線回収完了という感じです。
――個人的には「三角奸計」で使われたリモートミーティングのツールを使ったトリックがおもしろかったです。「こういう使い方があるのか」と新鮮でした。
結城:ありがとうございます。僕もコロナ禍でリモート飲み会を何度かやったのですが、通信のタイムラグや、複数人が同時にしゃべると成立しないところとかが鬱陶しくて嫌だったんです。
そういうリモートミーティングに対して、みんなが感じているであろう不都合さや鬱陶しさが目眩しになるトリックだったり、そのトリックが生きてくるシチュエーションがあるんじゃないか、というのが発想の出発点になっています。
――結末の驚きという意味では「#拡散希望」が素晴らしかったです。これはYouTuberを題材にされていますが、どのように構想されたんですか?
結城:YouTuberの中でも「迷惑系YouTuber」とか私生活を切り売りするタイプのYouTuberを書いてみようというのが最初の発想としてあって、そこからどういう番組が異常かな、と考えていきました。そこが決まったら、どんな登場人物で、どんな主人公なら驚きがあるのかを考える、という流れです。
――全体として、後ろの作品にいくほど話の構造もトリックも精密になっていくように感じました。
結城:それは偶然だと思います。本の中では最後に置いている「#拡散希望」は書いた順で言うと二番目なので。
でも、「#拡散希望」は例外ですが、最初の「惨者面談」はデビュー直後に書いたもので、「ヤリモク」や「パンドラ」「三角奸計」は書き下ろし長編を何冊か経て書いているので、話の複雑性や読者の騙し方のコツのようなものは後ろの作品ほど若干洗練されているのかもしれません。グラデーションのように感じられたなら、そのせいかもしれませんね。
――書き方の洗練のお話がありましたが、デビューされて以降、自分の小説に変化を感じられたりはしますか?
結城:どうなんでしょう。読みやすくはなったのかな…。デビュー直後に、たとえばアイデアとして「三角奸計」のストーリーを思いついていたとしても、書いてみたらもっと冗長になっていたでしょうね。
あまり実感はないですが、情報を整理して書いたり、状況を端的に表すというところは上達しているのかもしれません。デビュー作の単行本を読み返すと「何だこれ?」って思う部分もありますし。
――小説を書くときに念頭に置いていることについて教えてください。やはり読者を「騙す」と言いますか、「驚かせる」ことを目指して書いているのでしょうか?
結城:あえて第一義が何かと言われたら、「風呂敷をたたみきる」ことです。
「こうしたら読み手は驚くだろう」ということより、作中のあちこちに書いたことが最後に結実すること、「これ、最後に伏線回収できるの?」というところまで風呂敷を広げても、最後にパズルがきれいにはまって一枚絵が完成することに注力していますし、そこが自分の持ち味だと思っています。自分も読書をしていて楽しいポイントもそこだったりするので。
――風呂敷を広げる時はたたむ時のことを考えているんですか?
結城:「最後にたたんでこの形にする」と決めてから広げています。無茶に広げてたたみきれなかったことは今のところはないです。
想定外の展開で、これまで見えていた世界がガラリと変わるという「どんでん返し」も大切にしたいですが、それと同じくらい「きれいにたたむ美学」も大切にしたいんです。
――読者が一緒に謎解きを楽しむことも想定されていますか?
結城:いろいろな読み方をする方がいると思うのですが、自分自身ミステリを読む時は謎を解いてやろうと身構えては読まないタイプなんですよね。
もちろん先を予想したり、謎を解こうと考えながら読んでいただくのもいいですし、ストーリーに身を任せて読んでいただいてもいいのですが、どちらかというと後者の方向けに書いているところがあります。
仮に本気で謎解きをしながら読もうとなった時に、この本の作品の謎を全部解けるかというとそれは無理じゃないかと思います。というのも、冒頭から情報を丁寧拾っていけば排他的に一つの解が出てくるという書き方はしていませんから。どちらかというと、流れに身を任せて読んでいただいて、読み終わった後に「ああ、だからこうだったんだ」と振り返って楽しめるスタイルに近いかもしれません。
テクノロジーの発展で「往年のトリック」が生まれ変わる 結城真一郎インタビュー(2)を読む
【関連記事】
株トレードで個人トレーダーが勝つために必要なこと
【「本が好き!」レビュー】『あちらにいる鬼』井上荒野著