遅咲きのニューヒロイン、モーフィッド・クラーク。
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 『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ3部作の前日譚「ロード・オブ・ザ・リング:力の指輪」(Prime Video にて配信中)で、かつてケイト・ブランシェットが演じたガラドリエルの若き日を演じているモーフィッド・クラークとは? 彼女の生い立ちから、これまでの経歴を紹介する。

 モーフィッドは1989年3月17日、スウェーデン生まれの現在33歳。彼女が2歳の時に、一家は母の故郷である英国のウェールズに引っ越す。7歳からウェールズ語の学校で学び、今も英語とウェールズ語のバイリンガル。そのためモーフィッドは、ガラドリエルを演じる時に「彼女は今、どの言語で考えているだろう? エルフ語だろうか?」と考えることができたと looper.com のインタビューで語っている。また、彼女はウェールズが大好きで、トールキンがエルフの言語を創造する時にウェールズ語に発想を得たことを誇りに思っているという。

 モーフィッドが演技に出会ったのは、母親のおかげだった。The Guardian.com によると、彼女は発達性読み書き障害とADHDに悩んで16歳で学校をドロップアウトするが、そんな彼女に母親が勧めたのが、演劇学校ナショナル・ユース・シアター・オブ・ウェールズ。モーフィッドはそれまで何をしても自信が持てなかったが、ここで演技を学ぶうちに自信が持てるようになったという。

 彼女はその後、ドラマ・センター・ロンドンで演技を学び、舞台やテレビ出演を経て、2014年にミア・ワシコウスカ主演の『ボヴァリー夫人』で映画デビュー。その後も、リリー・ジェームズ主演の『高慢と偏見とゾンビ』(2016)、アレクサンドル・アジャ監督のサバイバル映画『クロール −凶暴領域−』(2019)、デヴ・パテル主演の『どん底作家の人生に幸あれ!』(2019)など順調にキャリアを進めてきた。

 そんな彼女が注目を集めたのは、初の主演作『セイント・モード/狂信』(2019)。日本ではデジタル配信だったので話題にならなかったが、モーフィッドはこの映画で、精神のバランスを崩して自分を追い詰めていく若い女性を熱演し、2021年の英国アカデミー賞(BAFTA)でライジングスター賞にノミネート、BAFTA アワード・ウェールズで最優秀女優賞を獲得。また、英国インデペンデント映画賞、ロンドン映画批評家協会賞など多数の映画賞で話題を集め、映画界で注目される存在になった。

 「力の指輪」のオーディションについて、EMPIRE 誌のインタビューによれば、最初は何のためのオーディションか明かされていなかったが、待合室で隣に座っていた女性に、これが「力の指輪」のためのものだと教えてもらい、すぐトイレに行って自分に言い聞かせたという。「あなたはこのために何年も訓練してきた、あなたの血の中にはもう戦うエルフがいる、子供の頃から『ロード・オブ・ザ・リング』に夢中になってきたんだから」と。しかしオーディションは6回に及び、まるでずっと終わらないのではないかと感じたという。

 そんな彼女に、ついに合格の知らせが届いたのは、彼女が2019年のトロント国際映画祭に『どん底作家の人生に幸あれ!』の出演者として出席し、ステージであいさつをする寸前だった。彼女はこの時の体験について、電話で出演決定の知らせを受けて舞い上がってしまい、ステージには出たものの、客席にいる妹を見ていたら急に何も見えなくなり、警備員に助けられて退場してしまったと、トーク番組「The Late Show with Stephen Colbert」で語っている。そんな状態になってしまうほど、彼女にとってガラドリエル役はどうしてもやりたい役だったのだ。

 「力の指輪」で人気者になったモーフィッドは、新作企画が続々と決定している。マット・スミスと共演するホラー映画『スターブ・エーカー(原題) / Starve Acre』が撮影済み。シェイクスピアの名作をコメディーとして描き、オフィーリア役をモーフィッド、ハムレット役をリズ・アーメド、レアティース役をジョー・アルウィンが演じる『ハムレット(原題) / Hamlet』も進行中。脚本は『マクベス』『アサシン クリード』のマイケル・レスリー。遅咲きの英国女優モーフィッドが、これからどんな活躍を見せるのか期待したい。(文・平沢薫)