‘80年代のホンダ狭角Vツインは、熱いファン向け揃い【このバイクに注目】(このバイクに注目)
BROS 1987年
Vバンクの挟み角が52°と狭い独得なVツインのBROS(ブロス)。’70年代までメジャーだった4気筒とは明らかに違う、マイノリティ好きにはたまらないこのフォルムに夢中だったファンは少なくなかった。
クルマの排気ガス規制をクリアするCVCCエンジン開発のため2輪開発を控えていたホンダは、1978年からCB750F/900Fを皮切りに大攻勢の展開をはじめた。しかし世界を制覇した並列4気筒から、これを契機にV型レイアウトで刷新していく流れを加速させていた。
そのV型もGPマシンNR500を筆頭にパフォーマンスはV型4気筒だったが、2気筒のV型は様々なバリエーションが派生。
最もポピュラーで’80年代の顔でもあった90°VツインのVT250F、縦置きVツインのGL400/500(輸出名CX500)に続き、アメリカンの45°VツインNV750と瞬く間にラインナップされたが、そこに留まらず狭角52°という敢えてメジャー狙いをしない濃い趣味性を漂わすのが、当時のホンダ流儀だった。
VT250F 1982年
GL400 1978年
NV750 1982年
ミドルクラスではVツインをコンパクトに配置する52°位相クランクのレイアウトが功を奏するVツインをいくつも開発すると、ビッグバイクではそのフォルムからエンジンの前後長があるため、車格やライポジをコンパクトにするにはVバンクの挟み角を詰めたくなる。そこでホンダが工夫を凝らしたのが、クランクを単気筒のように一対ではなく、Vツインでもクランクピンを共有せずズラせるようクランクウエブを一枚加える構成。
そこで登場したのが52°という挟み角のVツイン。クランクピンを76°ズラすので(位相)1次振動が90°Vツインと同じに打ち消すことができる。
そしてこのレイアウトだと、ふたつのシリンダーの円筒が干渉しない一番近い挟み角となり、エンジンの前後長が短くコンパクトで、幅もクランクピン共有の単気筒並みとはいかないが、薄いクランクウエブ一枚しか増えないスリムさも得られる。
ということで、コンパクトさが求められる600~400ccクラスのVツイン向けとして開発、NV400SPやアメリカンのNV400CUSTOMが狭角52°の設定で吸気2バルブ排気1バルブの3バルブ燃焼室と共に登場したのだった。
NV400SP 1983年
NV400CUSTOM 1983年
クランクピンを76°位相した1次振動がない狭角52°Vツイン
ハンドリングなどスポーツ性で優位なためパリダカールモデルでも採用実はCX500が登場した頃から、Vツインはコンパクトさとトラクションのグリップの良さで、アメリカではダートレーサーとして大幅な改造で使用されていて、その実績から狭角52°Vツインでオフロードのパリダカール系マシンが1983年に登場、何と空冷でXLV750Rとして少数生産されていた。
これをベースに本格的なワークスマシンNXR750も、パリダカールラリーへ投入され、そのレプリカとして初代アフリカツインがこの52°Vツインで1988年にデビューしたのだ。
さらにヨーロッパをはじめ、こうしたアップライトなデュアルパーパス・タイプの車格がツアラーとしてブームとなり、TRANSALP 600Vも1987年から登場、XL700V Transalpは2008年までマイナーチェンジを重ねながら継続されていた。
このように狭角52°のVツインは、派生モデルも幅広くマイノリティなニーズへも対応して、多くのホンダファンの期待に応えていたのだ。
現在の用途に応じたエンジン開発ではなく、生産効率から同一エンジンで多様なモデルへ流用する状況からすると、いまさらながらファンには羨ましい状況だったことになる。
ホンダというと、メジャーなプロダクトばかり思い浮かべるかも知れないが、本来はバイク・メーカーとしてマイノリティ重視のフィロソフィを基本としていたのだ。
XLV750R 1983年
NXR750 1989年
AFRICA TWIN 1988年
TRANSALP 600V 1987年
XL700V Transalp 2008年