ヤマハTRX850はいま流行りの270°パラツイン先駆車だった!【このバイクに注目】(このバイクに注目)
操る醍醐味をアピールした個性派パラツイン・スポーツ登場
ヤマハTRX850は、ライバルメーカーにないカテゴリーの、知る人ぞ知る個性派ツインスポーツとして1995年にデビュー。
時代は’80年代のレプリカブームがエスカレートし過ぎたこともあって、’90年代へ入る手前に熱も冷め、ネイキッドブームやツアラースポーツにパリダカレプリカなど、メインストリームを模索する渾沌とした状況にあった。
そこへ登場したのが、パリダカールで名高いスーパーテネレXTZ750のパラツイン(並列2気筒)を搭載した、ハーフカウルの大人向けをアピールしたTRX850だ。
いかにもハイパワーを狙ってはいない、しかし中速の”曲がれる”トラクションを発揮する270°位相クランク、そして見るからにスリムなダイヤモンドトラスフレームと、それは日本製ロードスポーツがまだ追いかけたことのないこだわりの個性に溢れていた。
XTZ750 SuoerTenere 1989年
270°位相クランク(画像はTDM900)
TDM850 1992年
そのコーナリングで後輪が路面を噛むとアピールしていた270°位相の2気筒不等間隔爆発は、実績あるスーパーテネレのパラツインをベースに100cc排気量をアップ、逞しい中速トルクでキャリアを積んだライダーを納得させていた。
しかし、てっきり砂漠の砂地でポテンシャルを発揮する不等間隔爆発の270°位相クランクがスーパーテネレ譲りと信じるファンが圧倒的だったが、何とスーパーテネレは一般的な360°。
パリダカール制覇に向けて270°の開発は進んでいたが、過酷なレースだけに新たなチャレンジのリスクは避けていたからだ。
しかしこのTRX850での実用化から、TDM850で1996年から、そしてパリダカールへ出場していたXTZ850TRXにも1997年から採用されたというのが事実。
ヤマハの広告でもスーパーテネレでの実績から……といった表現もあって、多くのファンはTRX850が初の270°位相とは知らなかったはずだ。
車体幅のスリム化を狙ったトラスフレーム。シリンダー背面にオイルタンク
TRX850は、レプリカ全盛期とは異なるアプローチをアピールする意味もあって、フレームはスポーツモデル定番のアルミ製ツインスパーとせず、パイプ構成でしかも三角形を組み合わせてエンジン幅よりスリムにまとめたダイヤモンドトラスにチャレンジ。
搭載するパラツインもエンジオイルをクランク下に溜める一般的なウエットサンプではなく、シリンダー背面にオイルタンクが位置するドライサンプ方式を採用して、重心付近へ質量を集中化することで従順なハンドリングを狙っている。
そうしたコンセプトから、フロントフォークにはイニシャル調整のアジャスター、またリンクを介したリヤサスでもダンパーのアジャスターを装備して、走りにこだわるライダーを意識した装備となっていた。
因みにSR400/500もオフロードモデルからの転用なため、エンジン下部を衝撃から守るドライサンプで、オイルタンクはフレームのバックボーン、またシングルスポーツで人気だったSRX400/600も、エンジン前部にオイルタンクを持つドライサンプ。日本メーカーの中で異例な存在でもある。
こうしてキャリアを積んだライダーには、軽快なハンドリングやコーナリングも評価されたが、ビッグバイクファンは既に1,000ccを選ぶ流れが定着していて、850ccは中途半端な位置づけに見られがちとなり、せっかくのライダーに親身で楽しみの深い個性派ツインは、これをベースに進化することなく消えることに。
しかし、いま見ると700ccや900ccの中間排気量モデルより個性が魅力的で、しかも最新パラツインのほとんどが採用する270°クランクを20年以上も前から採り入れるなど斬新さも際立つ。そのデビューは時期尚早であったのかも知れない。
R=スイングアーム+1本ショックタイヤサイズF=120/60ZR17 R=160/60ZR17全長/全幅/全高2,070/705/1,155mm軸間距離1,430mmシート高795mm燃料タンク容量18L価格\850,000(1995年・税抜き)