チームは5シーズン前にプレミア初昇格

 プレミアリーグに初挑戦する三笘薫にとって、ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンは最適なクラブのひとつと言えるだろう。昨夏に彼らはこの日本代表ドリブラーを引き抜いたが、初年度はユニオン・サン=ジロワーズ(ベルギー)へ期限付きで放出。今夏、満を辞して英国南岸のビーチリゾートに三笘を迎えたクラブは今、その歴史上における最盛期を謳歌している。


三笘薫はプレミアリーグ・ブライトンで活躍できるか photo by Getty Images

 風光明媚な海岸線を持つブライトンは、英国でもっとも魅力的な街のひとつだ。1979年に公開された英国映画『さらば青春の光』の舞台になったり、2002年にはDJファットボーイ・スリムが20万人以上もの観衆を集めたビーチパーティーを開催したりと、音楽や文化の発信地の顔も持つ。しかしフットボールの文脈では、長きに渡って僻地と言えた。

 1901年に創設されたブライトンが初めてイングランド1部リーグに到達したのは、1979年のこと。だがその4シーズン後に降格すると、以降は長きに渡って下部リーグを彷徨っていた。

 そんなクラブの命運を決定的に変えたのが、現会長のトニー・ブルームだ。地元出身で生粋のサポーターだったブルームは、ポーカーやスポーツ賭博で財を成し、2009年に当時3部リーグを戦っていた愛するクラブの筆頭株主となった。

 慧眼を持つブルーム会長は監督の人事にも手腕を発揮し、最初に招聘したグスタボ・ポジェのもと、チームは2011年に2部に昇格。さらに2014年に就任したクリス・ヒュートン監督が、2017年にクラブ史上初のプレミアリーグ昇格に導いた。

 より高みを目指す会長は、2019年5月に守備的な手法を得意としたヒュートン監督に見切りをつけ、現監督のグレアム・ポッターを招いた。

突破力と得点力を見せたい

 現役引退後にリーダーシップと感情知性の修士号を取得した穏やかな読書家の指揮官は、ガーナ女子代表のテクニカル・ディレクターや、ハル大学の育成マネジャー、スウェーデンのエステルスンドの監督などを経験した変わり種。

 2019年春の時点でプレミアリーグの舞台に立ったことはなかったが、前のシーズンに2部のスウォンジーでショートパスを主体とした印象的なプレースタイルのチームを築き、ブルームに引き抜かれた。

 ポッター監督は能動的かつ攻撃的なスタイルで勇敢に戦い、最初の2シーズンは15位、17位となんとか残留にこぎつけた。それでもフロントの信頼は揺るがず、迎えた昨シーズン、念願のトップハーフでのフィニッシュに成功──9位と勝ち点51、総得点42はクラブ史上最高の成績だ。

 そんなふうにかつてないほどの上昇気流に乗っているチームに、三笘が新たに加わるのだ。日本のファンにとって、新シーズンのプレミアリーグでもっとも注目したいチームのひとつになるだろう。

 現在25歳のドリブラーは、日本代表や日本で所属していた川崎フロンターレでは、左から鋭く仕掛けるウイングとして知られていたようだが、サン=ジロワーズ──このベルギー勢の筆頭株主もブルーム会長だ──では、主に左ウイングバックを務めていた。

 いずれにせよ、ブライトンのポッター監督も、昨季にローン先で活躍していた三笘を注視していた。三笘がベルギーリーグでの5試合目、セラン戦に後半から出場し、ハットトリックを遂げた時、ブライトンの指揮官は「エキサイティングな選手だ」と言って喜んでいる。

 またベルギーの日刊紙『ヘット・ニュースブラッド』に寄稿するトマ・カミ記者は、三笘について、こう綴っている。

「カオル・ミトマがボールを持てば、観衆は何かが起きると予感する。スタジアムにいる誰もが息を止めて、彼に注目するんだ。(サン=ジロワーズの)ファンは心から彼を愛している」

 そのスピーディーな突破力と重要な場面での得点力をプレミアリーグでも披露できれば、間違いなくブライトンでも、サポーターに好まれるはずだ。昨季までのブライトンの大きな課題のひとつは決定力。この日本人新戦力には、そこを改善することが求められている。

定位置確保は簡単ではない

 三笘は7月17日に行なわれたエストリル・プライア(ポルトガル)との親善試合で、新天地での実戦にデビューし、早速ゴールを決めている。後半開始から左ウイングバックに入ると、65分にこちらも新戦力のフリオ・エンシーソの右からの折り返しをタップイン。

 アシストした18歳のパラグアイ代表のほかに、前線には昨季のチーム得点王の2人であるニール・モペイ(フランス)とレアンドロ・トロサール(ベルギー)、さらにダニー・ウェルベック(イングランド)、アレクシス・マック・アリスター(アルゼンチン)、昨季も三笘とサン=ジロワーズで共にプレーしたデニス・ウンダフ(ドイツ)らがひしめく。そして左ウイングバックでは、昨季のチーム最優秀選手に選ばれたマルク・ククレジャ(スペイン)とトロサールが三笘のライバルとなりそうだ。

 こう見ると、定位置確保は簡単ではない。だが、ククレジャにはビッグクラブへの移籍が噂されており、それが実現すれば、三笘のチャンスは高まるだろう。いや、たとえ最大のライバルが残留したとしても、彼の能力が十全に発揮されれば、きっと居場所はあるはずだ。

 もとよりポッター監督は、ひらめきのあるアタッカーを好み、時に周囲を驚かせるような采配を披露する。加えて、今季からプレミアリーグも5人交代制を導入する予定だ。前線と左ウイングバックをこなす汎用性の高い三笘が、思慮深い指揮官の重要なオプションとなっても不思議ではない。

 日本とベルギーを沸かせてきた好タレントが、上昇の一途を辿るブライトンで、「夢だった」と語るプレミアリーグでの第一歩を踏み出す。日本人ではなくとも、彼を知るフットボールファンは期待に胸を膨らませている。