中日・ファーム監督
片岡篤史インタビュー 後編

(前編:投手転向した根尾昂は「同世代のなかでナンバーワンの投手」>>)

 ウエスタン・リーグで71試合を消化し、24勝39敗8分けでリーグ4位(7月27日時点、以下同)の中日。今季から中日のファーム監督を務める片岡篤史氏に、前半戦の振り返り、京田陽太の現状や若手選手たちへの期待、後半戦に向けた課題を語ってもらった。


中日のショートのポジションを争う京田陽太(左)と溝脇隼人

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――チーム全体で取り組んできたことの成果や手応えを教えてください。

片岡篤史(以下:片岡) ファームは勝敗ももちろん大事ですが、それ以上に選手の課題克服や成長が一番大事だと思います。今年は僕自身がファームの監督を務めるのが初めてということもあって、まだ手探りの状態です。

 開幕当初は非常にチームの調子がよかったのですが、他のチームに新型コロナウイルスの感染者が出るといった外的な要因もありました。逆に中日に感染者が出てからは選手が全然いなくなったりして苦しい戦いが続きましたね。

 そのようなファームの状況のなか、何人かのファームの選手は一軍に上げてもらいました。上げてもらうことはよくあるんですが、試合に使ってもらったことがありがたかったです。

――確かに、多くの若手が一軍の試合で起用され、経験を積んでいますね。

片岡 投手の上田洸太朗や野手の土田龍空、石橋康太、石垣雅海といった若手が一軍の試合で起用されていることはありがたかったですが、ファーム同様に一軍もなかなか結果が出ず、ケガ人も多かったりと、いろいろな課題が明確になった前半戦でした。

―― 一番の課題は?

片岡 去年、僕は外から中日を見ていましたが、入ってみてわかることがたくさんあります。一番に感じたのは、この10年間でBクラスが8回という成績に出ているように、チーム内で若手の突き上げによる新陳代謝ができていないということ。そこが一番の課題だと思います。

 ファーム監督の僕が言ったらおかしいかもしれませんが、他のチームと戦うと年齢層の違いが明確で、若手がいないんです。これは、今年から中日に来たからこそ感じられることかもしれません。

 あと、他のチームに比べて選手の体の線が細い。そのため、自分が監督になってからはウエイトトレーニングをすごく取り入れています。ただ、体が大きくなればいいということではなくて、ケガをしにくい体を作ることだったり、練習する体力をつけることが大事。それらが基盤になければ、技術も上がっていきませんから。

――ここ数年は野球界全体が新型コロナウイルスに翻弄され、トレーニングを含めてコンディションのキープが難しくなっています。

片岡 そうですね。今年入ったルーキーや2年目の選手は、コロナ禍でなかなか練習ができなかったと思うんです。それは影響がないということはないでしょうね。だから、無理させちゃいけないところもありますし、僕ら監督やコーチがしっかりと判断しながら、選手個々のやり方を考えていかなければと思っています。

――7月1日に左膝の手術を受けた石川昂弥選手の復帰は来年と目されていますが、ケガする前のバッティングや守備の状態をどう見ていましたか?

片岡 石川に関してはキャンプも一軍でしたし、練習を間近で見ていたわけではないのではっきりとは言えないんですが、ひとつ言えるのはケガが多いということ。プロ入り3年目ですけど、一年間通してケガをしない体を作ることが、今後の石川にとって大切なことだと思います。

――ドラフト1位ルーキーのブライト健太選手は、ファームで31試合に出場して打率.188、2本塁打、5打点と苦しんでいる状況です。

片岡 先ほどもお話したように、1年目、2年目の選手はアマチュア時代にコロナ禍で十分な練習ができていないと思います。だから、僕がプロ入りした時みたいに「大卒であれば即戦力」というわけにはいかず、大卒でも練習やそれに伴う体力不足を踏まえてやっていかなければいけない時代になってきています。

 特に今年はブライト、鵜飼航丞、福元悠真と、大卒の外野手が3人入りました。大卒の外野手が3人も指名されるのは珍しいことですけどね。まだまだ学ばなければいけないことが多いですし、これからいろいろな経験を積んで吸収していき、どう変わっていってくれるのかに注目しています。

――先ほど名前を挙げられた土田選手は、ファームで52試合、一軍でも8試合に出場し、いい働きを見せています。

片岡 京田陽太の不振が続き、土田にとってはチャンスですよね。彼の場合はファームでもミスが多い。ただ、今のチームに、彼のような身のこなしがうまくてショートを守れる選手はいません。もっと言えば、二遊間に足の速い選手がいないんです。これが、このチームの大きな課題だと思います。

 先ほどチームの新陳代謝、若手がいないという話をしましたが、二遊間を守れる選手が少ないですね。ただ、今年はレギュラーが不振やケガでチャンスが巡ってきていますし、チャンスを生かすも殺すも本人次第です。

 土田は2年目ですけど、昨年から見ていたコーチの話だと、格段に守備力、特に送球がよくなったと言います。立浪和義監督も多少のミスは承知の上で、ショートで起用していますし、チャンスをモノにしてほしいですね。

――京田選手は7月11日に今季2度目のファーム降格。今の状態をどう見ていますか?

片岡 プロ野球は何で判断されるかと言えば、やはり数字です。課題はいろいろありますが、立浪監督も京田には期待しているはずです。そういう期待に応えられるかという正念場ですし、本人も課題はわかっていると思います。

――守備に定評があった京田選手ですが、ファームの試合では"らしくない"ミスも見られます。

片岡 そこは本人が一番理解していると思いますが、やはり守備範囲であったり、球際の処理だったり、見ていても「う〜ん......」と思わざるをえないプレーが多いです。ファームで一生懸命にやっていますが、なかなか結果が伴ってこないのは本人も歯がゆいでしょう。

 でも、そういう選手をこれからどう再生していくかが、ファームの監督、コーチの仕事です。京田には日々の取り組みのなかで、この世界で生きていくための何かをつかんでほしいです。

――メンタル面も影響している?

片岡 あれだけ結果が出ないと、もちろんメンタル面にも何か問題はあると思うんです。ただ、すべてをひっくるめて自分で打破していかないといけません。若い時は勢いで不振から抜け出すこともなくはないですが、プロ野球は相手も研究してきますし、常に自分の技術や考え方をアップデートしていかなければなりません。

―― 一軍で主力としてやってもらわないと困る?

片岡 その最たる選手のひとりですね。

――今季は一軍で58試合(ファームは4試合)に出場している溝脇隼人選手や、48試合に出場(ファームは23試合)している三ツ俣大樹選手はどう見ていますか?

片岡 溝脇は代打の切り札としてよくやってくれていましたし、三ツ俣は今年1月にコロナに感染して出だしでつまずき、春先にはケガもありましたけど、印象に残る勝負強さを見せてくれています。京田も含めて中堅どころの選手たちにはチームを引っ張る気持ちで取り組んでもらいたいですね。

――育成選手だったルーク・ワカマツ選手はファームで打率.328、出塁率.436と好成績を残し、7月17日に支配下登録され、昇格即スタメンで出場するも2試合でケガにより離脱。トレードでオリックスから移籍した後藤駿太選手も昇格即スタメンで出場するなど、選手のやりくりに苦労している印象があります。

片岡 ケガ人やコロナでチームが苦しく、選手を入れ替えざるを得ない状況です。一軍のメンバーを見ていただくとわかるように、つい先日までファームでやっていた選手が多いですよね。ただ、そういった選手には「チャンスだ」と思ってやってほしいんです。

――これだけのチャンスはそうそうない?

片岡 「こういう時だからこそ」という気概をもってプレーしてほしいです。それが、若手の突き上げによるチームの底上げ、レベルアップにつながっていくはずですから。

――後半戦の主な課題は?

片岡 投手はフォアボールが多く、野手はエラーが多いですね。バッティングに関しては速いボールにいかに対応していけるのかが課題。それらをなんとかクリアさせて、一軍の戦力になる選手を送り込むのが僕らの役目です。

 ファームには若手、中堅、ベテランまでいろいろな立場の選手がいますが、試合になれば年齢関係なく結果が出ます。ファームで失敗した打席やプレーをしっかり修正して、一軍で成功するためにはどうすればいいのか?そこで出た課題をひとつひとつクリアし、結果につなげていってほしいですね。