ESSEonlineの連載でもおなじみの、西出弥加さんと光さん夫妻。グラフィックデザイナーの弥加さんと訪問介護の仕事をする光さんは、ともに発達障害という共通点があります。妻はASD(自閉スペクトラム症)、夫はADHD(注意欠如・多動症)の特性をもち、お互いに助け合いながら暮らしています。今回は2人が出会った経緯について振り返ります。

恋愛感情もないまま、即結婚を決めた2人

光さん夫妻は夫婦ともに発達障害という特性をもちながら、2019年に結婚。その出会いについて伺いました。

出会った頃の2人<写真>

●出会いはツイッター

――弥加さんと光さんの出会いのきっかけを教えてください。

弥加 出会いはツイッターでした。私はかねてから発達に特性があることを公にしていて、同じ感覚をもつ人たちが集まるのですが、そこで繋がりをもちました。ツイッターを見ていると、どうやら光くんにはかなり強い希死念慮(漠然と死を願う状態のこと)があるみたいでした。「やばい」と思ったのが最初の印象です。

私も若い頃に何度か未遂をしたことがあったので、他人事とは思えず、会うことになりました。なんだか数年前の自分と会うような感覚でした。会おうとなった日、光くんは薬とお酒を同時に飲んで倒れていました。私はそのまま自分が住む1Kの部屋に連れて帰りました。そして、なぜかずっとうちで暮らすようになりました。

光 僕はそのとき、重いうつ病を患っていて、弥加さんが救ってくれたんです。

――恋愛にはすぐに発展したのでしょうか?

弥加 恋愛感情はなかったかもしれない。私は口約束よりも、契約書で約束した関係の方がラクなので、恋愛の前にすぐ結婚を決めました。「いきなり!?」と思われるかもしれませんが、友情や恋愛など、感覚で人間関係が築けないところがあって…。

だから最初は友達でもなく、とりあえず弟として彼を見ることにしていましたが、ただ、その関係性もよくわからないなあと思い、いっそのこと「結婚しよう」と言いました。

――光さんは急なプロポーズにはどのように返事をしたんですか?

光 「いいよ」と答えました。でも、それは恋愛感情があったからではなく、拒む理由が見つからなかったからです。僕も弥加さんと同じように恋愛はできない体質。口約束だけの関係性ならいっそ離れたほうがラクだし、もし一緒にいるなら、かなり近い距離のほうがいい。弥加さんは出会ったばかりだったけど、僕の知り合いのだれよりも距離を縮めてくれたから、喜んで受け入れたんです。

別居生活をすることで関係性が良好に

関東と関西という遠距離で別居をしていたという西出さん夫妻。その理由について、弥加さんに語ってもらいました。

●同居が耐えられなかった理由

私たち夫婦は、妻がASD、夫がADHDという発達障害の特性を持っています。結婚当初は、順風満帆にはいきませんでした。その理由は、日常生活において「抜け」が多い夫と、細かいことにこだわりすぎてしまう私との相性にありました。

性格的には相性がバッチリで、喧嘩は一度もしたことがないのですが、物理的なところで苦しいことが多かったです。
たとえば一緒に暮らしていると夫のささいな抜けが気になります。掃除をしない夫に、掃除を完璧にしたい私が耐えられなくなってしまったのです。テーブルにゴミが置いてあるだけでもそうです。夫は悪気があるわけではなく、その特性から本当にちらかっていることに気がつかないのです。

そんなことはだれにでもあると思われるかもしれませんが、その「そんなこと」の予想の遥か上をいくADHDの抜けとASDのこだわりが私たちにはありました。
これは、発達障害における検査でも数値的に明確になっています。間違い探しなどで測る知覚統合のレベルを夫婦で診てもらったところ、夫は私よりもIQが50も低かったのです。つまり、夫は「目で見た情報を理解することが苦手」なのです。

一方、私は視覚優位なところがあり、だからこそ絵も描けるしデザインも考えられるのかもしれません。

ただ、だれかと暮らすことにおいては難しく、私生活において夫の抜けがやたらと気になってしまい、絵の仕事が手につかなくなってしまったのです。頭の中は、いつのまにか「夫100:絵0」の状態になってしまった。夫が悪くないと思うたびに、うつ状態になって動けなくなりました。

夫のせいではなく、私が0か100の状態になってしまう性格だったからだと思っています。それに加え、私が家の中で仕事をするという特殊な形だったのも、原因だと思います。

当初は夫も不安定で、仕事をしてもすぐ辞めてしまっていたので、支えるには私も仕事をしなければいけない。でも仕事ができなくなっては本末転倒。そして結婚から半年で別居を決めました。私は私で仕事ができる部屋を探し、夫には別の部屋を用意しました。

妻の性自認は「男」で、夫の性自認は「なし」

弥加さんは「私たちは、発達という特性以外にも、一般の夫婦とは違った部分がある」と、結婚した「もうひとつの理由」を教えてくれました。

●女性として見られるのが苦しかった過去

普通に見たら、普通に気の合った男女の結婚と思うかもしれませんが、じつは私自身の性自認は「男性」ということもあり、今の夫でなければ結婚に至りませんでした。

夫を初めて見たとき、肌が白くきめ細かい印象を持ちました。そして腕や足も細く、風に飛ばされてしまうのではないかと心配になったことを覚えています。
服装もフェミニンで、ベージュのグラデーションが美しいアイシャドウを塗っていて、女の自分よりもずっと女性らしい雰囲気を出していました。

それに比べて私はパーカーとジーンズにスッピン、腕も足も夫より太く、日に焼けて色黒でした。二人で街を歩いていると、どっちが男か女かわからないと言われたことがあります。

結婚前、夫に「僕は男である自分を消したい」と言われました。私の場合は「女である自分を消したい」といつも思って生きていたので、この言葉にすごく共感できました。
夫はいわゆるエックスジェンダーで、性別がない人でした。私はトランスジェンダーで体は女性のままですが、男だという意識で生きてきたからです。

周囲からありのままでいいと言われるのですが、自分は男だと思っているのに世間から女性扱いされることにとても違和感をもって生きてきました。「いや、俺は女じゃない」と、空気を止めるわけにはいかないので胸にはモヤモヤが募ります。もちろん見た目は女性なので相手がそう思うのは当然です。
そんな風に男性と向き合うことができなかった私は、今まで抱いてきたギャップや葛藤、不安も、夫となら分かち合えるかもしれないと思いました。

子どもをもたないと決めている理由

多くの人から聞かれる、子どもをもつことについてはどう考えているのでしょう。

●つねに妻の仕事に寄り添っているから

弥加 私たち夫婦は子どもをつくらないと思います。私たちの関係はファミリーというよりパートナーとして役割をまっとうする方が心地よく生きていけると思うので。

光 僕自身もそうです。僕は弥加さんが一番大切なので、妊娠している間、弥加さんが思いきり仕事をできなくなったり、育児でも多少なりとも仕事に支障をきたすんじゃないかって考えると、積極的になれません。妊娠は女性がするものだから、男の僕に痛みがないというのもつらいです。だから妊娠させてしまうと、僕が弥加さんを傷つけているような気がして…。そういう考えから、僕はそもそも男性が「子どもがほしい」という資格はないと思っています。

――お二人ともお互いを大切に思っているからこその考えですね。

弥加 光くんはとてもやさしい考えの持ち主だと思います。ただ私は肉体的には女なので、子どもを産んでも自分が傷つくとは思ってないし、子どもがいたらうれしいので、仕事はセーブすると思います。ただ、光くんが嫌なことはしたくないので、私たちの間に子どもはできないですね。

光 僕も子どもがいたら困る、ということは決してないです。もし子どもがいたとしたら、弥加さんになるべく負担をかけないように、僕が育てるかも。というか、育児うんぬんの前に、出産する弥加さんのことだけ考えて心配しすぎるのはあると思う(笑)。僕の中では、奥さんがなにより一番だから。

結婚3年目で見えた夫の成長。夫婦の関係性に変化

結婚3年目で、二人に新たな関係性ができたと言います。

●これまで会社勤めが10日も続かなかった夫が、妻を支えるために入金

ーーお互い夫婦でありながら、それぞれが働いて自立した生活を送っていますが、夫婦として家計の共有はしたりしているのでしょうか?

弥加 二人の将来のためにお金を貯めようって決めたのは最近のことです。それまでは私の方が稼いで、なんとかやっていこうというバランスでやっていましたが、じつは最近、私が愛着障害などの症状により寝込むことが多く、働くことに支障が出てしまって…。このままだとまずいなあと思っていたところに、光くんが二人の口座に多めにお金を入れてくれたのです。
「これから、好きに過ごせるようにするよ」って、すごく頼もしい言葉をくれました。

――それは弥加さんが相談をしたのではなく、光さんが自主的にやられたんですか?

光 そうですね。弥加さんにはつらい思いをしてほしくなくて、自分ができることをやろうと思いました。まだ始まったばかりなので、今後どのくらいの金額を固定で入れていこうとか考えているところですが…。
今、僕は訪問介護関係の仕事をしています。以前よりも収入が増えてきたので、ようやく弥加さんのためにお金を入れられるようになりました。

弥加 光くんはとてもやわらかい性格で、どちらかというと養われる気質だったのに、今回予想をこえた行動をとってくれたことが衝撃でした。結婚当初は1日ゲームをして過ごしたり、仕事をしても10日間も続かなかったり、支払いを滞納したりしていたのに、今はとても頼もしくなって、口座にお金を入れてくれたことに驚きました。

光 今回お金を入れたのは自分のためでもあります。僕の今の理想は、妻である弥加さんが過ごしたいように過ごすことです。今、僕はとくに遊ぶ友達もいないし、贅沢もしない。だから、家賃や光熱費の引き落としの分さえ残っていればいい。それ以外のお金はすべて弥加さんとの口座に振り込むことにしました。

結婚4年目でいよいよ同居を再開?でも実態は…

お互いに心地よく暮らすため長年別居をしてい2人。結婚4年目になり、同じ場所に住むことに…。弥加さんにその変化した日常について語ってもらいました。

●夫は外で仕事、私は家のことをやる。同じ家に住むことに

今、夫の方が頼りがいが出てきて、私が住みやすい部屋を選んでくれ、さらに家賃と光熱費を払い、私は食費を払うという分担ができるようになりました。

その理由の一つは、夫が天職を見つけられてしっかり仕事が続いているからです。それは訪問介護ヘルパーの仕事。出会った当初「1対1で人といられる空間での仕事なら続いた」と言っていた夫の言葉、そして人の話を聞くことが上手いので、これらの要素からできそうな仕事を探した末のひとつが介護ヘルパーの仕事でした。ほかには心理士、カウンセラーなどが浮かびましたが、資格取得期間が最も短いものがヘルパーだったので、まずはこの仕事をすることになり、数年続きました。

夫はADHD気質で抜けが多いのですが、「時間が決まっているシフト」なら遅刻せず行けるのです。ここも強みだと思いました。ちなみに、毎月、毎週、勤務時間が変動するシフトだと抜けが多く忘れてしまいますので要注意です。

そして同じ場所に住むようになった理由は、やはり夫ひとりでは家事全般、自宅のゴミ捨てすらおぼつかないからです。食器も洗えずためてしまい、カビが生えます。冷蔵庫にあるナマモノも捨てないので大変なことになっています。

たくさん働いてほぼ家にいない状態、でもたまに帰ってくると盛大に汚してしまう自分の性質、ここで「さやかさん、家にいてくれませんか」と夫に相談されたのです。

掃除が趣味である私が家にいれば自然ときれいにしていくので部屋が汚れません。そして今は夫が夜勤に入っていてほぼ帰ってこないため、実質私が一人で作業もできます。

これを機に私は稼ぐことより、たとえ家計が一時的に赤字でも本当にやりたい仕事、やるべき仕事をすることにしました。そして黒字になったとき、また夫を物理的にも支えようと思っています。

現在、Youtubeやtiktokなどの活動にますます注目が集まっている弥加さんと光さん。今後の動向にも目が離せません。ESSEonlineでも、引き続き2人の声をレポートしていきます。