マイノリティが魅力のカフェレーサー【ライドナレッジ069】(ピックアップ)
まさにスーパースポーツとカフェレーサーの関係を象徴するのが、MV AGUSTAのSUPER VELOCEとF3だろう
カフェレーサーと呼ばれるカテゴリー。スタイリッシュでいかにも個性的……でも何をもってスポーツバイクの中でカフェレーサーとして区別されてるのか、いまひとつわかりにくいと思われがちだ。
そもそものルーツは英国。ロングタンクとセパレートハンドル、そして全体を覆わないコンパクトなカウルというスタイルは、1950~60年代に世界GP頂点の500クラスを走っていた、ノートンやマチレスの単気筒レーサーに端を発している。
もうひとつ、そこには英国ならではの事情もある。当時は労働階層のバイク乗りが社会へのアンチテーゼの象徴として、革ジャンを着てセパハンにしたバイクに跨がるファッション……そんなカルチャー然とした流れからバイク自慢に彼らが集まるのがカフェで、カフェレーサーと呼ばれるようになった。
このスタイルが位置するのは、スーパースポーツのような究極を目指した機能美とは対岸にある、華麗なプロポーションでクールだけれど、どこか機能美にはない理屈抜きのユルサもある、そうしたマイノリティの資質を漂わせているのが条件のようなものだろう。
それはスーパースポーツが進化して、手に負えないハイパフォーマンスな領域へ達すると、ある種アンチテーゼな意味も込め、カフェレーサーが登場してきた歴史がある。
もちろんこれが定義づけのようなモノはないが、ベースにあるのがロングタンクとそのポジションに伴うバックステップ、さらにはスーパースポーツのようなフルカウルではないロケットカウルが、雰囲気をつくる要素として積み上げられてきた。
日本車でのルーツはホンダで、1976年にデビューしたCB400フォア。クルマの対米排気ガス規制をクリアしようと、CVCCエンジン開発にエンジニアを集中させていた時期で、ライバルが次々に新機種を開発するのに指をくわえていなければならず、それならデザインで勝負とばかり海外で流行っていたカフェスタイルで勝負したのだ。ロングタンクに4into1の集合マフラーという、それまでの市販車にはなかったカスタムされたようなスタイルを身に纏い人気の的となっていた。
これに端を発した日本車のタンクのロング化とバックステップの装着は、スーパースポーツが各社とも個性化を目指す流行りを支配する、いわば主客転倒の状況も生んでいた。
そうした流れをいくつか繰り返しての現在、スーパーバイクの300km/hポテンシャルなど、究極の進化を傍らに見つつカフェレーサースタイルが増えつつある。
中にはトライアンフのように、構成はスーパースポーツ然としていても、カウルを敢えて小さなデザインとしてカフェレーサー的なルックスでデビューする例もある。
最新のホンダHAWK 11も、そうした流れを汲んでの登場で、スポーツバイク好きでもスーパーバイクは行き過ぎでネイキッドには個性や趣味性が足らないと思う、そこそこキャリアを積んだライダーに支持されている。
ビモータがカワサキとのタッグでデビューさせたKB4も、まさにこの時代の流れを身に纏ったデザインだ。
ただカフェレーサースタイルの宿命で、マイノリティ(少数派)=個性と認める価値観から、流行ると人気が薄くなり消滅していく運命を辿ってきた。そういう意味で、好き嫌いのわかれるデザインに徹したバイク揃いなのも、メジャーにならない勘ドコロを各メーカーが掴んでいるからかも知れない。