もう「お客様は神様」ではなくなりつつある今、今回の騒動は“氷山の一角”です。

「個人の尊厳が守られていない」

 2022年7月、JR山手線で、自分の財布を拾おうと駅員の静止を振り切って非常停止ボタンを押した乗客と、それを強い口調で攻める駅員との口論の様子がSNS上にアップされ、物議を醸しています。そのなかで優勢となっているのが、乗客による理不尽なクレーム行為、「カスハラ(カスタマー・ハラスメント)」ではないかといった意見です。

 この「カスハラ」、鉄道業界を始めとする交通運輸・観光産業では、大きな問題となっています。たとえば、同業界で働く約60万人が加盟する全日本交通運輸産業労働組合協議会では、業界2021年5月〜8月に「カスハラ」の悪質クレームに関するアンケートを、業界従事者2万人超に実施。これによると、回答者の46.6%は「カスハラ」経験があり、とくに鉄道、バス業界などでは被害経験11回以上が10%を超えたとの結果が出ています。


写真はイメージ(画像:coward_lion/123RF)。

 同協議会の発表によると、「カスハラ」加害者の9割近くが男性で、その7割が、40〜60代以上なのだそうです。最も多いのは「暴言」で、ついで「同じ内容を繰り替すクレーム」「威嚇・脅迫」といった内容が続きます。

 ただ、スマホ普及で増加したハラスメント「SNS・ネット上での誹謗中傷」も「鉄道」、「トラック」、「バス」業界でとくに増えているそうで、同協議会では次のようにまとめています。

「『暴言』や『威嚇・脅迫』など対面でのカスハラは幅広い年代から被害を受ける一方、近年のスマートフォンの普及で若い世代や中高年から、クレーム対応中のキーワーカー(従事者)の動画や写真を撮影して威嚇したり、ネットや SNS での誹謗、盗撮などを行うといったケースが実感値として増加しており、現場にとって新たなストレスの種となっている」

 同調査上で鉄道関係者は「ここ数年、SNSを利用した誹謗・中傷が多く、写真を撮られることもあります。社員である前に、1人の人間として個人の尊厳が守られていないと感じる」、航空関係者は「お客様からの盗撮や、呼ばれる際に臀部や腰を触られることが多々ある。CA の同僚との会話の中で、同じ経験をしている者が10名近くいた」とコメントしています。

対「カスハラ」、被害者たちはどんな対策を求めている?

 同調査で交通従事者からは次のような意見が挙がっています。

・名札など名前が分かるものを身に付けていると、SNSに投稿される恐れがあります。ネット上などで誹謗・中傷を受ける可能性があり、イニシャル表記などにすることでリスク回避するマニュアルを整備すべきだと思います。
・カスタマーハラスメントに対して諸外国のような法の整備、搭乗拒否、警察通報などを積極的にすべきだと思います。日本はカスタマーが優先される事に問題があるので、社員を守る制度を早急に作るべきであり、カスタマーにもカスタマーハラスメントに対して罰則がある事をもっと認識させるべきだと思います。
・道理がこちらに合ってもひたすら謝り続けるしかなく、苦情を受けたという事実だけで責任を問われることがあるので、所属組織に対して不信感を持つことがあります。
・コロナ前からワガママで多数の迷惑行為をする世代(男・60代〜)が、コロナ禍で更にエスカレートしている印象があり、多くの従業員のストレスにつながっています。


航空業界も「カスハラ」に悩む職種のひとつだ(乗りものニュース編集部撮影)。

 なお、同協議会によると、消費者によるカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題として認識され、2020年6月施行「改正労働施策総合推進法」指針で、初めて国として「顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組」といったガイドラインが制定された一方で、昨年行われた同アンケートでは、企業側のカスハラ対策について、「特に何もされていない」という意見が39.5%を占めているとのことです。