レアル・マドリーがリバプールに1-0で勝利したチャンピオンズリーグ(CL)決勝。その優勝は、GKティボー・クルトワが連発したファインセーブを抜きに語れない。GKという職種をリスペクトする意味でも、これは忘れるべきでない事実になるが、サッカーのゲーム性を追求しようとしたとき、記憶に留めておきたくなるのは、後半14分、ヴィニシウス・ジュニオールが押し込んだ決勝ゴールのシーンになる。

 ラストパスを送ったのは、右ウイングとして出場したウルグアイ代表のフェデリコ・バルベルデだった。右タッチライン際に大きく開いた位置でボールを受けるや、プラスの角度から、シュート気味のアーリークロスを蹴り込んだ。これをヴィニシウスがファーポスト付近で合わせたわけだが、見どころはそこに至るまでのプロセスにある。

 ゴールシーンを視聴できる環境にある読者は是非、見直して欲しい。筆者はこの一連のプレーが、十分に練られた計画的なものであったものとみている。練習を重ねた結果の産物であると。

 当日、間近で撮影していたカメラマンにそんな話をすれば、確かに、得点が決まった瞬間の喜び方が、通常と少し変わっていたと言っていた。してやったりと、悦に入るバルベルデの元に、それに至るパスワークに関わった選手が、次々と集まってきたという。

 筆者にはそれが、ゴールが決まった喜びというより、作戦の成功を喜ぶ姿に見えた。

 ストーリーは、最終ラインのミリトンからボールを受けた右SBダニエル・カルバハルが、内で構えるアンカーのカゼミーロにボールを預けたところから始まっていた。カゼミーロは瞬間、右サイドに開いた右インサイドハーフ、ルカ・モドリッチにボールを付ける。

 右のライン際に再び展開されると、リバプールの左SBアンドリュー・ロバートソンがそれに対応するために駆け上がってきた。持ち前の技巧を駆使し、ボールを保持しようとするモドリッチに食らいつく格好になった。勤勉実直なスコットランド代表選手と、技巧派のモドリッチが、マッチアップする格好になった。

 そこにサポートに入ったカルバハルを経由して、ボールは再びカゼミーロの下に収まった。もちろんリバプールの左ウイング、ルイス・ディアス、左のインサイドハーフ、チアゴ・アルカンタラもこの攻防に加わっていたが、つり出されるように上がったロバートソンの背後をカバーしようとする選手はいなかった。

 カルバハル→カゼミーロ→モドリッチ→カルバハル→カゼミーロとボールが経由している間に、右ウイング、バルベルデはいつの間にかフリーになっていた。瞬間、右サイドで4対3の状況が出来上がっていて、バルベルデが絶好のポジションで余る格好になっていた。

 CL決勝まで、レアル・マドリーはこの練習を、しこたま積んできたのではないかと推測する。ロバートソンを引っ張り出せば、チアゴ・アルカンタラとルイス・ディアスの守備意識は低いので、背後が空く。そのタイミングでバルベルデにボールが渡れば、リバプールは欧州ナンバーワンのセンターバック、フィルジル・ファンダイクがその対応に出てこざるを得ない。となれば、中央の守備は手薄になる。

 ファンダイクという最強のDFをいかにサイドにおびき出すか。察するに、レアル・マドリーはリバプールとの対戦が決まってから、ここに狙いを絞っていたのではないか。くり返すが、得点が決まった瞬間の喜び方に、それは現れていたように思う。

 このCL決勝。戦前不利が伝えられたのはレアル・マドリーだった。その1-0の勝利は番狂わせとまではいかないが、予想を覆す勝利だった。弱者が強者に向かうとき、参考にしたくなる方法論になる。