「人間に一番近いモンスター」ゾンビはなぜ人気に?研究者に聞くおすすめ映画 #オカルト記念日 - ふかぼりメメント
※この記事は2021年07月13日にBLOGOSで公開されたものです
7月13日はオカルト記念日。少女に憑依した悪魔とそれを祓おうとする神父の戦いを描いたホラー映画の名作『エクソシスト』(ウィリアム・フリードキン監督、米)が1974年のこの日に日本で公開されたことに因みます。
そんな"悪魔系"ホラー映画が「本当にダメ」なのに、日々、「ゾンビ」の研究に励んでいる学者が日本にはいます。
国際ファッション専門職大学助教の福田安佐子先生は、芸術学を学んでいた京都大学大学院修士課程時代、留学先のフランスでゾンビに関する学術書に出会ったことがきっかけでゾンビの世界に。
今では日本ゾンビ研究の第一人者として学術発表を行うほか、イベントやメディアなどでゾンビの魅力を発信しています。
そんなゾンビ愛あふれる福田先生に、ゾンビ人気の秘密や、予想を裏切られて思わず「すごい」と唸ってしまったゾンビ映画などを教えてもらいました。
人間に一番近いモンスター「ゾンビ」の魅力
ーーまずお聞きしたいのはゾンビとは一体何なのかということです。「生ける屍」といったイメージがあるのですが定義はあるのでしょうか。
ゾンビの定義は本当に難しく、決めることができないと私は思っています。
一般的には「ノロノロ歩いて、人の血肉を求めて彷徨っているもの」というイメージがありますが、これまでたくさんの作品で様々なゾンビが描かれています。
死んでいないゾンビもいるし、どう定義したらいいんだと(笑)
私の中の定義では「人間に一番近いモンスター」です。
ーーゾンビが「人間に近い」ですか?
元は人間であるからこそ人に似ている。でも、モンスターだから全然違いますよね。
映画の中では人と区別するために血まみれだったり、皮膚が青く描かれていたりして、異なる外見で描かれています。でも、元人間だからこそ、人間側は無闇に殺せなかったり戸惑いが生じたりする。人間が試されている部分を描くことができるモンスターであり映画ジャンルだと思っています。
ーーそれが今なお多くの人を惹きつけるゾンビの魅力なのでしょうか?
ゾンビには定義がないからこそ、クリエイターが想像豊かに自由に描くことができます。
また、生と死が相反した場所に存在する存在であり、人間の姿形を固持しているゾンビは人間を写す鏡として、社会や時代の問題を浮き彫りにしてくれます。
定義できないことが生み出す面白さや深みが、ゾンビの魅力ですね。
ゾンビ映画は3時代に分けられる
ーーこれまでどんなゾンビが生み出されてきたのですか。
映画におけるゾンビの歴史は3つの時代に分けられます。
1932年にアメリカで公開されたヴィクター・ハルペリン監督の映画『ホワイト・ゾンビ』がゾンビ映画の始まりです。当時、アメリカの占領下にあったハイチのブードゥー教に伝わる秘術で、蘇らせられた奴隷をゾンビとして描いています。この「主人の命令を聞く奴隷」という描かれ方だった時代のゾンビを「クラシック・ゾンビ」と呼びます。
1968年、ジョージ・A・ロメロ監督の映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』がゾンビの定義を大きく変えました。それまで奴隷として蘇らせた人間の命令を聞くだけの存在だったゾンビたちが、この映画以降、自分から人を襲うようになったのです。ノロノロ歩き、人の血肉を求めるモンスターである「モダン・ゾンビ」の時代はロメロ監督から始まりました。
<参照記事>ゾンビ研究家・福田安佐子さんと、ゾンビ映画3時代に関する詳細記事はこちら
2002年、素早く動くゾンビが登場する『バイオハザード』(ポール・W・S・アンダーソン監督、米・独・英)と『28日後…』(ダニー・ボイル監督、英)がヒットを記録。これを機に、多種多様なゾンビが映画の中で描かれる「走るゾンビ(ダッシュ・ゾンビ)」時代に突入しました。
研究者の予想を裏切った大当たりゾンビ映画
ーー走るゾンビ時代! すごいネーミングですね(笑)
今も走るゾンビ時代が続いています(笑)いろんなジャンルでゾンビが描かれるようになった時代で作品数も多い。タイトルやパッケージで「駄作だ!」と思って見てみるとすごくいい作品に出会えるなど、当たり外れの振れ幅が大きいのもゾンビ映画の魅力ですね。
ーー最近見た映画の中で、福田先生の予想を裏切って「良い!」となったゾンビ映画はありましたか。
『ゾンビの中心で、愛を叫ぶ』(アントニオ・トゥーブレン監督、スウェーデン・デンマーク)という映画です。
絶対ダメそうじゃないですか(笑)でも、見てみたら素晴らしくて。
この映画は主人公夫婦が部屋から一歩も外に出ることなく話が展開されます。2018年製作の作品ですが、「非常事態においては部屋から出ないのが一番安全である」という私たちがコロナ禍の1~2年で実感したことを先取りして描いていました。
また、逃げ込んできた隣人との衝突といった、モンスターとの戦いよりも醜い人間同士の争いなどもうまく描写されていて、ゾンビ映画に必要なエッセンスが詰め込まれたすごく良い映画です。
ノロノロしたゾンビと走るゾンビが共演した名作 でもパッケージが…
もうひとつは2015年に製作された『ゾンビ・サファリパーク』(スティーヴ・バーカー監督、スペイン)。邦題も表紙もジュラシック・パークを完全に意識していて「おいっ!」と思いながら見始めたら素晴らしかった(笑)
映画はゾンビ発生を人間が乗り越えた数年後から始まり、舞台となる離島ではリゾート施設で使うためにゾンビ化した人たちを隔離しています。難民問題と絡めた巨大外資系企業への批判といった社会問題を含むストーリーや、ノロノロと歩くゾンビと走るゾンビという、今まで別々の作品に登場していた2種が共演する設定などが秀逸です。
見終わった後、「すごい名作に出会ってしまった!」と。でも、パッケージが…(笑)
ーーでは最後に、ゾンビ映画に詳しくない人でも押さえておいた方がいい王道作品を教えてください。
本当に王道ですが、メタ的な視点でゾンビを解説してくれる『ショーン・オブ・ザ・デッド』(エドガーライト監督、英・仏、2004年製作)と『ゾンビランド』(ルーベン・フライシャー監督、米、2009年製作)。
2012年製作の『ワールド・ウォーZ』(マーク・フォースター監督)はものすごく走るのでロメロ・ゾンビファンからはモテませんが、圧巻のCG、そして「種としてのゾンビ」という新しい側面が楽しめるいい作品だと思います。
そして最後にメタ的という意味で推薦したいのがインド映画『インド・オブ・ザ・デッド』(ラージ・ニディモールー、クリシュナ・DK監督、2013年製作)です。
インドという植民地の歴史が長い国が、西洋文化を象徴するモンスターであるゾンビをどう受け入れるのかという点で、非常にメタ的な視点が組み込まれています。
それだけではなく、インド映画なのでゾンビたちが踊るんです(笑)ゾンビの歴史を語る上で映画と並んで重要なマイケル・ジャクソンの名曲『スリラー』のMVで示されたダンスとゾンビの相性の良さを思い出させてくれる作品です。