※この記事は2021年07月05日にBLOGOSで公開されたものです

テレビ番組の命運を左右する視聴率。テレビマンは放送後に発表されるこの数字に一喜一憂するわけですが、納得できる視聴率ではない時の常套句としてつい口に出してしまう言い訳があります。今回のコラムでは、テレビマンの言い訳を通じた、現代のテレビ業界が抱える実情をお伝えします。

放送作家の深田憲作です。
今回は「テレビマンの言い訳」について書いてみたいと思います。

僕もそうですが結果が出ない時、人は何かしらの言い訳をします。そんな「テレビマンの言い訳」をテーマにコラムを書いてみようと思い、仕事で会う人たちの言葉に意識を向けてみると、みんな無意識にいろんな言い訳をして生きているという発見がありました。そして、それらの言い訳を言語化して解説することでテレビ業界の実情や仕組みなどもお伝えできると思い、今回のコラムを書いています。

「言い訳」というネガティブな言葉を使っていますが、それはあくまで僕がテレビマン側の人間なので戒めの意味を込めて「言い訳」としていますが、これから書く内容は立派な「言い分(いいぶん)」だとも思っています。この前置きはこの記事を読んだテレビマンから怒られないための言い訳です(笑)。

では、このたび僕が勝手に作った『テレビ業界言い訳用語辞典』の一部をご紹介いたします。

言い訳用語①「裏が強かったからな~」

これは番組の視聴率が獲れなかった時に1番多く使われる言葉だと思います。特に単発の特番を放送して視聴率が悪かった時に使われることが多いです。「裏」とは同じ時間帯に他局で放送している番組のことで「裏」や「裏番組」と言います。例えば、ここ10年のテレビ業界で言うと、日曜19~21時に特番を放送して視聴率を獲ることは非常に難しい。なぜなら、その時間帯には『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『ポツンと一軒家』『NHK大河ドラマ』といった高視聴率番組がレギュラーで放送されているためです。

裏番組に強豪がひしめく激戦区で新規の特番を制作する際には「どの層の視聴者を獲りに行けばいいか?」という議論がされます。視聴率のデータはF1(女性の20~34歳)、F2(女性の35~49歳)、F3(女性の50歳以上)、M1(男性の20~34歳)、M2(男性の35~49歳)、M3(男性の50歳以上)、ティーン(男女13~19歳)、キッズ(男女4~12歳)といった具合に性別・年齢層ごとに計測されていて、番組によって「この番組はF1、F2がよく見ている」「この番組はティーンがよく見ている」などが分かります。

そんなデータを見ながら裏番組がどの層の視聴者を多く取り込んでいるかを分析して、余っている層を狙いに行きます。例えば、『テラスハウス』のような若い女性層から強い支持を受ける番組が裏にある状況で、女性向けの番組を放送しても勝ち目はなかなかありません。そこで男性視聴者に見てもらえる内容に番組を仕上げていくといった感じです。

ただ、そんな努力の甲斐も虚しく、裏番組が強い枠で放送した特番は撃沈することがほとんど。この10年で日曜19~21時に放送された数多の番組が低視聴率で消えていることでしょう。きっとその中には内容自体は素晴らしい番組もあったはずです。

その枠が厳しい環境と分かったうえで番組を制作しているわけですから、プロとしては「裏が強かった」と言うのは言い訳になってしまうのですが、当事者としてはどうしても言いたくなってしまいます。

セブン-イレブンが3つぐらい密集する地域にコンビニ店舗を出店し、あえなく潰れてしまったオーナーもこういう言い訳をしたりするのでしょうか?「近くにセブンが3つもあるからな~」「同じコンビニだったらなじみのあるセブンの方に行くよな~」「おれでもセブンに行くもん(笑)」とか。もしそういうことを言っている人がいるとしたらとても親近感を覚えます(笑)。

言い訳用語②「入り(いり)が悪かったからな~」

「入り(いり)」というのは番組が始まる時点での毎分視聴率のこと。20~21時に放送する番組で言うと20時00分の時点での視聴率です。これは前の時間帯に放送していた番組に大きく影響を受けます。例えば、『世界の果てまでイッテQ!』という高視聴率番組の後に放送される『行列のできる法律相談所』の「入り」の視聴率はかなり高いです。

番組が終わるとチャンネルを変える人もいますが、チャンネルをつけっぱなしにしている人が多いため、前番組の視聴率の恩恵を受けるわけです。そのため高視聴率番組の次の時間帯に放送される番組は高視聴率を獲りやすい。街の飲食店で例えるなら人通りがとても多い環境ということですね。

日本テレビの日曜日のゴールデンタイムがそうですが『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる法律相談所』といった長寿番組が縦に並んでいるのは、各番組の“「入り」の視聴率がいい”ということも要因の1つです。(もちろん、各番組の内容が面白いことが高視聴率である1番の要因ですが)

逆に言うと「入り」の視聴率が悪いと、どれだけいい内容の番組を制作しても高視聴率を獲ることは難しいです。例えば、21~23時に特番を放送する際に、前枠である20時台の番組の視聴率が悪いと「入り」の視聴率も悪く、よほど内容が面白くない限りは高視聴率を獲るのは難しいというわけです。

番組が低視聴率だった場合、放送後の反省会的な会議では、だいたい①の「裏が強かった」か、②の「入りが悪かった」が言い訳(言い分)に使われます。当然ながら自分たちでは面白いと思って制作した番組ですから視聴率が悪かったとしても「内容が面白くなかったね~」とは言いません。

でも、本当に面白い番組だったら裏番組が強かろうが、入りが悪かろうが最低限の結果は出ます。最低限に設定されたラインの目標すら結果が出なかったというのはやはり内容が悪かったということでしょう。そんなことは頭で分かっていても言い訳をしてしまうわけですから、人間というのは「結果が出なかった時は環境のせいにする生き物」なんですね(笑)。

言い訳用語③「攻めすぎましたね~」

近年、テレビ業界は斜陽産業的な言われ方をすることが増えましたが、それでも現時点では巨大メディアであることに変わりはありません。ゴールデンタイムであれば1000万人に向けて見てもらえるコンテンツを作らなければいけませんから、視聴率を獲るためには「狭く深く」ではなく「広く多くの人が楽しめる内容」である必要があります。これが10万人に見てもらえばいいのであれば、一部の人に熱狂的に面白がってもらえる尖った内容、狭いジャンルの内容、複雑な内容でもいいのですが、対象相手が1000万人であるとそうはいきません。

僕がよく例えに使っているのですがYouTubeでも人気企画になっている「人狼ゲーム」がありますが、あれをテレビのゴールデンタイムで放送してもおそらく高視聴率を獲ることは出来ません。なぜならルールが少し複雑で万人が理解して楽しめるゲームではないからです。

コンビニ例えが多くなってしまい恐縮ですが、テレビで視聴率を獲るためにはコンビニ的でなければいけないと思います。テレビは「分かる人に分かればいい」ではなく「大勢の人に分かってもらってなんぼ」のメディア。料亭で30年働いた一流の料理人が作る繊細で高尚な弁当よりも、10人中8人が美味しいと思うカレーや親子丼の方がコンビニでは売れるわけです。(テレビがそういうものばかり放送するべきだと言っているわけではありません)

そのため、尖った企画や尖った演出をした時には大衆から理解されずに、視聴率で撃沈してしまうことがよくあります。そんな時に反省会で使われるのが「攻めすぎましたね~」です。「攻めすぎた」は、ある意味とても優秀な言い訳用語だと思います。結果は爆死であっても、なんだか“勇敢なチャレンジをした結果の名誉の死”みたいなニュアンスが感じられます。

低視聴率で落ち込んでいる総合演出にかける言葉としては非常に秀逸だと思います。ただ、この「攻めすぎましたね」はあくまで他者に対しての配慮で使うべきで、総合演出が「攻めすぎたな~」という自身への言い訳に使うのは違うような気がします。やはり、テレビ番組を作るうえで1番の目的は視聴率であり、1つの番組には100人ぐらいのスタッフが関わっているわけですから。「判断ミスでした」と言うべきなのかなと思います。この意見は自戒も込めてです(笑)。

いかがでしたでしょうか?
業界は違うけれど、みなさんの周りでもこれに近い言い訳が飛び交っているのではないでしょうか?

このコラムを書いて思いましたが、言い訳はあくまで失敗した他者へのねぎらいや優しさの言葉であるべきで、自分で言ってしまってはいけないのかなと思いましたね。気を付けたいと思います。

深田憲作
放送作家/『日本放送作家名鑑』管理人
担当番組/シルシルミシル/めちゃイケ/ガキの使い笑ってはいけないシリーズ/青春高校3年C組/GET SPORTS/得する人損する人/激レアさんを連れてきた/新しい波24/くりぃむナントカ/カリギュラ
・Twitter @kensakufukata
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